32.理想を形にしていく ②
魔法を子供に教えるにあたっては、きちんとした資格を取っていた方がいい気がした。そういうわけで、お兄様に相談した。お兄様は次期侯爵として素晴らしい方だ。
あと療養中のお父様も領地に戻ってきているということだったので、一度公爵邸に帰ることにした。
リグシャン達――お世話になっている人達にそのことを言ったら、もう帰ってこないのではないかと一瞬心配されてしまった。
この街の人達にとって、私が街にいると嬉しいってことなんだろうか。そう思ってもらえているならば私も温かい気持ちになった。誰かに必要とされていると思うと、それだけで……ただ嬉しいわよね。
引きこもっていた頃は、私は誰かに求められる立場じゃなかった。公爵令嬢という地位はあるけれど、それ以外は何も持ち合わせていなかった。
そんな私が今は、こうやって沢山の人達と交流を持てているのって奇跡的なことよね。
実家に帰るのは少しだけ緊張した。お義姉様や甥と姪とも一緒に食事を摂ろう。ずっと私は逃げていたから。
お兄様は眩しくて、ずっと明るい道を歩み続けていた。
お義姉様だってそう。
だから、私は目を背けていた。引きこもっている自分と比べると苦しかったから。
今考えると、なんて駄目な行動だろうかと思うけれども、あの時の私にとっては最善の行動だった。周りからは、全くそうではないと思われるかもしれないけれど。
「マルグレッタ!!」
「ああ、家を出たと聞いた時には心配したけれども元気そうで安心したよ」
お母様とお父様が私の姿を見かけた途端、そう言って駆け寄ってくる。
大好きなお母様とお父様。
私のことを大切に思っている両親。私は両親に大切にされて、愛されている。
そのことを実感して嬉しくなった。
「今まで長い間、ご心配をかけました。お母様、お父様、私は問題なく平民生活を送れているので安心してくださいませ」
お母様とお父様は、私のことで嫌な思いは沢山してきただろう。次期王妃と噂されていた私が引きこもってしまったから。
私が外に出ることが出来なかった間も、外の時間は当然流れている。私が何もつかめなかった時間も、お母様とお父様は社交界の場で大変だったはずだ。
――私という、不良債権が居たから。
両親のことを見ていると改めて、私はもっと頑張りたいなとそう思えた。私が立派な存在になれればなるほど、家族のためにもなるんだな。
そう考えるので、私は二人をもっと安心させたかった。
「そのことは安心しているけれども、マルグレッタのような可愛い子が市井に出るだなんて心配だわ……!! あなたは昔から可愛かったから……」
「そうだ。平民生活を楽しく送っていることは分かるが、何かあったらすぐにこの父に相談するのだぞ! どうにかするから」
などと言われて、お母様とお父様にとっては私は未だに子供なんだろうなと思った。というより親にとっては子供って、いつまでも可愛いんだろうな。
私はもう三十歳を超えていて、親に守られるだけの子供じゃない。可愛いなんて言われても、それは親の贔屓目なんだろうなと苦笑してしまう。見た目が整っている方だという自覚はあるけれど、十代の頃よりはずっとよからぬ輩に近づかれる可能性って低いのに。
両親もお兄様も、お義姉様達も……私がどういう暮らしをしているかの報告を受けているはずなのに、私の口から聞きたがった。
お義姉様は口には出さないけれど、私が家を出たことはほっとした様子だった。それで「良かったわね」と笑ってくれた。
……それも当然の反応だなと思った。だってこれからお兄様が爵位を継いで、その後は甥っこが継ぐ。
それなのにいつまでも何もしない、ただの引きこもりである私が屋敷に居たら迷惑でしかないものね。私も逆の立場だったら、なんとか立ち直って欲しいとそう思ったもの。
お兄様の子供達とも、少しだけ気まずかったけれど会話を交わした。
ずっと、逃げていたもの。向こうからしても私に対して何か思うことがあるのも当然だった。
私が引き籠っているため、社交界の場で何か言われたりしていただろうしね。私が次期王妃と名高かったからこそ余計に貴族達は私のことを忘れてくれない。だからこそ、オタリー様と私を未だに比べている人が居るのだろうな。
……本当にいい加減、私のことを噂してくれないでいてくれたら嬉しい。でもきっと、私がマルグレッタ・ミレハーユである限りその問題はずっと付きまとうんだろうなとも思った。
お兄様達は私に心配をかけないようにか、私がどういわれているかなどを言ってくることはない。
平民生活を謳歌している私にそんなことを言う必要はないと思っているんだろうな。
魔法に関する資格に関しては、公爵領内でとれるということで安心した。流石に王都には知り合いが多すぎるので、まだ赴くのには勇気が行った。
……これでも少しずつ平気になってきたと思っていた。それでもやっぱりまだトラウマを抱えている。
私は流石に国王陛下やオタリー様と話すだけの勇気はない。
もっと私が立派になれたら、何も気にせずに王都にも行けるようになるかな。
昔は何度も訪れた場所。引きこもってから一度も訪れていない。王都には私の通っていた学園もある。
――いつか、王都に足を踏み入れることも目標の一つにしよう。
家族と話していて、そんなことを思った。




