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引きこもり令嬢(三十歳)の再起  作者: 池中織奈


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30.少しずつ変化していく日々と、私のやりたいこと ⑤

 私は目標を自分一人の力で叶えたいと思っていた。誰かの力を借りることなど考えていなかった。

 そんなことはしてはいけないとさえ思っていた。でもそんなことはないのかもしれない。私は……引きこもっていたことを負い目に感じてしまっている。自分がどうしようもない人間だとやはり卑下してしまっていたのかもしれない。

 そんな自分に気づいて思わず笑ってしまった。前世の記憶を思い出して、私は前向きになったつもりだった。過去のことを少しずつ気にせずに生きていけているってそう思い込んでいた。

 でもそうじゃなくて、こういう時に誰かの手をかりようという考えになっていなかった。




「マルちゃん、どうした?」


 急に私が笑うからリグシャンは驚いた様子だった。




「私は自分一人の力で目標を叶えたいなって思っていたの。でも考えてみれば無理して一人でなんでも抱え込む必要はなかったんだなってそう実感したから……。だから、気づかせてくれてありがとう」

「お礼を言われることではない。でも確かにマルちゃんはなんでも一人で抱え込みすぎだとは思う」

「そうかしら?」

「そうだと思う。マルちゃんのことを心配している人は俺も含めて沢山居るのだから何か不安があったら何でも相談したらいいと思う。それにトラウマに思っていることなどあるなら誰かに言ってもいい」



 そう言われて、そうなのかもなと感じる。



 私の過去も悩みも……私自身が思っているよりもずっと軽いものなのかも。もちろん、王族や貴族に纏わることだから簡単に人に話せるようなものでもないが。




「ありがとう。えっとじゃあ、一緒に私の目標手伝ってくれる?」

 こういう問いかけをするのって珍しいかもしれない。引きこもる前の私だったらもっと堂々としていて、偉そうだったな。どちらかというと命令口調気味で、それに頷いてもらうのも当然だった。

「ああ。もちろんだ」




 そう言って頷いてもらえてほっとした。なんだろう、向こうから手伝いたいと言ってもらえたけれど断られたらと少し怖かったのかもしれない。私、その点、弱くなってしまったかも。

 学生時代までの私ってどれだけ自信満々だったんだろうかと思い出すとおかしくなる。




「ついでに悩みもあったらいってもらっていいぞ?」

「リグシャンは最初から私に優しかったわよね。見た目が変わっても、貴族の出だとしっても変わらない態度でいてくれたのは嬉しかった。でもどうしてそんなに優しいの?」




 いつも踏み込まないようにしようとは思っていた。でもこれから私の目的のために手伝ってもらえるのならばもっと近づきたいなと感じた。だからこうして自分から質問をした。



「直感。悪い人間じゃないのは分かったから」

「感覚的な問題なのね。でも有難いわ。……私は皆が言うように貴族の血を継いでいるの。だから私と一緒に何かをやるとその関係で嫌な思いはするかもしれないわ。もちろん、私の家があなたをきっと守るから」


 私がそんなことを言っても、リグシャンは笑っていた。




「別にそのくらい問題ない」

「なら良かった。昔の話をするとね、私は当たり前の貴族令嬢として生きていたの。ただ色んなことが重なった。魔法を使うことにトラウマを覚えたのもその頃だった。貴族令嬢の通う学園に通っていて私は輝かしい未来を夢見ていた。ただ挫折してから、私は外に出れなくなってしまったの」



 自分の身分は正式には明かさない。あくまでこういうことがあったよというのを他人事のように私は語っていた。自分事として語ると、たまに辛くなってしまうから。かなりの時間が経過しているのに、私はまだまだ完全に吹っ切れてない。


「貴族令嬢として過ごすマルちゃんかぁ。想像出来ないな」

「ふふっ。今の私を見ていたらそうだとは思うわ。昔の私はもっと貴族らしくて、自信に溢れていて……冒険者であるリグシャンからしてみれば近づきたくない令嬢だったかも」

「想像が出来ないな」



 学生時代の私も、平民として過ごす私も――どちらも私なのにこんなにも違って考えてみると面白い。




「そうでしょう? 私も今の状況をとても不思議に思っておりますわ。学園に通えなくなって、ずっと屋敷の中にいて。お父様とお母様は私のことを見捨てたりなんてしなくて、結局ずるずる長い間、私は引きこもりになっていた。生活習慣も凄く悪くて……それで太っていた。つい最近、このままじゃ駄目だなと思って外に出たの。平民として生きていこうとそう思って。とはいっても家の力も借りてでしかないけれど少しずつ上手く生活が出来るようになってきたとは思っているわ。……引きこもることなく、真っ当にずっと生きてきた人たちからすると全然だろうけれどね?」



 自分では頑張っているつもりだけど、十数年もずっと引きこもって表に立ってこなかったのだからずっと必死に生きてきた人たちからすると全然なんだろうなってそうも思う。けれど――私はこれでも一生懸命なのだ。



「そんなことはないだろう。マルちゃんは頑張っている。そもそも一度外に出れなくなったのに、こうして前に進んでいるだけでも立派だ」

「ありがとう。でももっと頑張りたい。私が立派に一人でもやっていけるのだって示せたら、過去の事だって笑って話せるようになると思う。昔の知り合いに出会った時に気まずい気持ちにもならずに済むと思う。だから、そうなれるように尽力するつもり」

「マルちゃんはかっこいいなぁ」



 私の過去の話を聞いてもリグシャンは特に嫌な表情はしなかった。ただ楽しそうにしていた。そう言う態度をしてくれるからこそ、安心出来る。


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