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引きこもり令嬢(三十歳)の再起  作者: 池中織奈


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29.少しずつ変化していく日々と、私のやりたいこと ④

 私は平民として生きてはいるけれど、公爵家の出だからこそ何かあれば家族を頼ることが出来る。

 私の家相手に権力に物を言わせることが出来る家はまずない。それこそ王家ぐらいだろうか。とはいえ、王家であろうともミレハーユ公爵家を相手取ることはまず出来ないだろう。それだけの力を私の家は持っているから。

 でもそれは私が公爵家の出だから許されているのであって、そうじゃなければ権力に押し切られる場合も多いんだろうなと思う。



 そういう権力に屈する人たちが少なくなる方がいいな。ただ単にそういうのを見るのは嫌だ。




 私は本当に恵まれている。

 家族に恵まれ、家柄に恵まれ、才能もある。……うん、こんな私が引き籠っていたなんて、そういうものを持たない人たちには怒られそうなぐらいだ。




 私みたいな人が立ち上がれなくなった時に、前に進めるように手助けはしたいかも。

 私はそうも思っている。

 ただあれもこれもやりたいって思って手を出してもどうしようもないよね。

 まずは孤児院で働くことにしてみようか? 自分でお金を稼げるようになったら自分の作りたい施設とかを運営し始めるのもあり?

 そう考えるとワクワクしてきた。




 なんだろう、私、凄く前向きになっている。魔法を以前のように使えるようになったら、魔物討伐をしてお金を稼いでもいい。

 そうした方がきっとお金は稼ぎやすいものね。

 そう考えるとやっぱり私は魔法の鍛錬を怠らないようにしないと。



 なので孤児院で働くための手続きを進めつつ、お兄様からようやく許可が出たので魔法の特訓も続けることにした。

 なんというか。本当に一歩ずつだ。




 もし私が前世の記憶を思い出せていなかったらもっとどうしようもないぐらいに焦ってしまっていただろうなとも思う。

 前世と、今世。その分の経験があるからこそ私はどこか落ち着いていられる。それこそ取り返しのつかないことも世の中にはあるだろうけれども……それでも基本的に世の中っていうのはどうにでもなることばかりだろう。




 うん、だって私の貴族令嬢として産まれたのに十数年も引きこもっていたなんて致命的で、それこそ自ら命を落としてもおかしくないぐらいのことだ。人によっては絶望してもおかしくないこと。




 ――それでも今の私は前を向いている。引きこもった経験があるからこそ、私は大丈夫だってそう思えるのかも。

 まだ確かにトラウマはあるけれども――子供を助けることが出来たというのが大きな自信にはなっている。

 そう、私は失敗したとしてもやっていける。それが分かったから前よりも魔法は使いやすくなってはきているとは思う。




 魔物討伐も行きたいな。



 ただ一人で行くのは流石に危険かもしれないので、顔見知りの冒険者たちの力を借りることにした。

 その時に同行することに声をあげてくれたのは、リグシャンだった。

 倒すのが難しい魔物ではなく、簡単な魔物を相手取ることにしたのでリグシャンのみのが来てくれるだけで問題がなかった。




「リグシャン、私の魔法にはそこまで期待しないで。一応、攻撃魔法も使えるとは思うけれど……。少し過去のことがトラウマになっていてなかなか攻撃魔法は使えないものと思ってもらえたら」




 リグシャンについてきてもらっているので、きちんと説明はしておく。リグシャンは特に私のトラウマのことなどについて深く聞いてくることはなかった。それに変な目でも見てこない。

 そのことに私はほっとする。

 これで下手に根掘り葉掘り聞かれたら嫌だったから。




 私は自分の過去のことは隠すことでもないとは思っているけれど。それでも……公爵令嬢として何不自由なく生きていたはずの私がこうして平民生活をしているなんて、人によっては揶揄ってきたり、あることないこと囁かれたりそんなこともきっとあるだろうなと思うから。

 ただ今の私がもっと立派になれたら――そんなことを言ってくる人も居なくなるはず。

 そう思いながら私はリグシャンと一緒に森を歩いている。




 こうして森を歩くのも久しぶりだった。

 引きこもる前はスタンピードの対応などのために、こういった場所を訪れることはあった。学園の授業でも課外学習もあったしね。




 リグシャンにはああいったけれど、なんとか魔法は使えた。

 とはいってもやっぱり全盛期よりも発動するまで時間がかかったし、一度魔法を使っただけでふらふらしたりしてしまった。

 ストレスがかかっているのだろう。



「マルちゃんの魔法は綺麗だな」

「ふふっ、ありがとう。もっと使えた頃に比べるとまだまだだけど、褒めてもらえると嬉しいわ」




 ただ魔法を褒めてもらえることは嬉しかった。

 誰かにこうして認めてもらえることって喜ばしいことなんだなって改めて思った。




「マルちゃんは最近、活動的だよな。何かやりたいことでもあるのか?」

「そうね。少しずつだけど何か出来たらと思っているの。子供に関わる仕事もしたいから、まずは孤児院で働けるようにしてみるつもり。それから魔法がもっと使えるようになったら魔法も教えたいし……、私みたいに大きな挫折をした人がまた立ち上がれるような補助施設は作りたいなって」



 つい聞かれたことにぺらぺら話してしまった。誰かに自分のやりたいことを言いたかったのかもしれないと自分で気づく。

 少しだけ恥ずかしくなった。こんなことを言って夢物語と思われていないだろうか。



 なんて思っていたけれど、


「良い目標だ。俺も手伝いたい」



 なんて、リグシャンには言われた。


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