28.少しずつ変化していく日々と、私のやりたいこと ③
「孤児院の見学をしたいと突然言われて驚きましたよ」
今、目の前には年配の女性が驚いた表情を浮かべている。ちょっとした顔なじみの女性だ。スタンピードの対応の際に必要最低限の会話は交わしたけれどそのぐらい。
だけど私が孤児院の話を聞きたいといったら、見学に誘ってもらえた。
彼女も私が貴族の出だということなどは、把握している。すっかりそれらのことは噂になっているから。
私が子供に纏わる仕事にも興味があるのを知って納得してくれていた。
特に魔物から子供を助けてから、私は子供と遊んだりすることも増えていたしね。
「あ、マルお姉ちゃんだ!!」
「マルグレッタさん、こんにちは!」
そう言って声をかけてくれる。
孤児院の子供達は事情により親を亡くしたり、両親が面倒を見れなくて一時的に預けたりされているのだ。
孤児になるって、凄く寂しいことだろうなとも思う。一部では孤児出身の子供だからといって差別するような人も居たりするのだって。
そもそも親が居ないのって本人の責任でもなんでもないもの。それなのに子供に向かって色々言うのっておかしな話よね。
この世界だと魔物の脅威などもあるから、そう言う子供って結構多いとは思う。それにスタンピードのせいで、そう言う子供も増えたのだって聞いた。
基本的に孤児院は国や領地からお金を出して運営しているものばかりだ。たまに私営のものもあるらしい。ただそういうところって、状況が悪いところも多いらしいので難しいところよね。
ただまぁ、国が運営しているところでも状況が悪い孤児院は当然あるらしいけれど。
私ももっとお金を稼ぐのが安定出来たら、寄付とか出来るようにはなりたいなぁと思ったりする。
子供達には文字を教えたり、本を読んであげたり、追いかけっこをしたりして遊んでいる。
うん、私、子供と一緒に過ごすの結構好きかもしれない。子供が凄く好きとかそういうわけではない。少なくとも十代の頃の私は初対面の子供達と遊ぶのをそこまで楽しめなかったかもしれない。
孤児院への訪問とかよりも、魔物討伐とかの方を優先していた。前世の記憶を思い出す前の私だったら、余裕なんてなかった。
王太子殿下の婚約者の座を掴もうって必死で。
私の世界は貴族社会と学園だけだった。それ以上ことなんて考えられていなかった。
年を重ねたからこその余裕が出来ている気はしている。
読み聞かせをしたりするのも楽しい。子供向けの絵本なども読むのって案外楽しいなってこうして大人になって初めて気づく。
昔の私って絵本を楽しむ余裕もなかったんだなって気づいて、思わず笑ってしまった。
どれだけ必死だったんだろうって。それでいて貴族令嬢として生きていくことに凄く必死だったんだって。
でもそうやって一生懸命頑張っていた日々も、大事な思い出ではある。
街の図書館などに行ってもいいかもしれない。そしたら子供達に読み聞かせをしたい本が見つかるかもしれない。
あとは絵本になっていないものでも、口伝で伝わっているだけの物語などもきっとあるわよね。そう言うのも知ってみるといいかも?
子供達に興味を引くような話だったらより一層良いと思うのよね。この街には人間以外の種族の人もいるから、そういう種族だけに伝わっている話とかも、教えてもらえるものなら聞いてもいいかも。
「マルグレッタさん、今日はありがとうございます。子供達もとても楽しかったようです」
「私も凄く楽しかったです。また来てもいいですか?」
そう言ったら頷いてもらえて、何だか嬉しかった。
孤児院の子供達の将来って、親が居る子供達よりも狭いものだったりもする。孤児を雇わないって職場もあるみたい。信頼関係があれば紹介状を書いたりも出来るけれど、そうじゃなければなかなか希望の職につくことも難しいらしい。
そもそもこの世界って前世と違って、希望する職に就ける人って結構限られている。
親の職をそのまま継ぐ人も多いから。
だから孤児って、なかなか職につくことも難しい場合もあるわけだけど。
私が訪れた孤児院は、この街に出来て長いから街の職場にはつきやすいみたい。信頼関係があるからなんだろうな。
もし職についたばかりの孤児がばっくれたりとか、持ち逃げしたりとかそういうことがあったら信頼がなくなって孤児を取らない! になるかもしれない。
うん、前世よりもずっと夜逃げとかしやすいものね。
どうしようもない事業があってそういうことをする人もやっぱりいるらしい。
この街はお父様の管轄で、公爵家が治めている場所だから貴族関係のごたごたで夜逃げするような人は居ないけれど、横暴な貴族に目をつけられて平民が逃げるなんてこともよくある話だって聞いた。
私が貴族の出だと知っているから、言いにくそうに言われたの。
やっぱり世の中、そう言う貴族も居るのね。貴族令嬢として生きていた頃も私は最上位の貴族だったからそういう横暴な態度を誰かにされたことはないけれど……自分より身分の下の相手には何をしてもいいって人は居るから。




