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引きこもり令嬢(三十歳)の再起  作者: 池中織奈


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26.少しずつ変化していく日々と、私のやりたいこと ①

「マルちゃん、良かったら出かけない?」



 スタンピードも落ち着き、当たり前の日常が帰ってきた。私の暮らす街の人々も笑顔が増えてくる。

 そして落ち着いてきたからこそ、私の変化もよく目に留まるようになったらしい。私はよく声をかけられるようになった。




 私は年齢を公開しているのに、それでも誘われたりする。これ、十代だったらもっと大変だったのだろうなと思った。

 私が十代だった頃のことを思い浮かべてみる。学園に通っていた頃は、公爵令嬢として生きてきて守られてきた。ミレハーユ公爵家の令嬢として、話しかけ辛い雰囲気はあったと思う。おいそれとこうやって誘われることはなかった。



 そして後半は完全に引きこもっていたので、誰かからお誘いを受けることはなかった。

 でも今の私は貴族とはかかわりがあるかもと噂されていてもそれだけである。平民として生きている私には話しかけやすいのだろう。




 お友達になろうぐらいの感覚だったら誘いを頷くのは問題ないと思っている。だけれどもそれ以外の……私と良い仲になろうとする人たちの誘いにのることは出来ない。




 男女関係って難しくて、一時的な遊びの関係でも良いという人は当然居るだろう。ただ私はそういうのをしようとは思わない。

 どうしても貴族として生きていた頃の感覚が抜けていなくて、遊びでそういうことをするのは出来ないなと思う。まぁ、貴族の中でも遊んでいる子は居るだろうけれども。

 だからそういうつもりはないのといって断っている。

 中には激高する方も居て、そういう人には困ったものだわ。





「ちょっと美人だからって調子に乗るな」

「わざわざ年増に声をかけてやっているのに」




 なんて、そんなことを言ってくる口悪い冒険者も居て、そんな人たちには嫌な気持ちになった。

 自分に自信がある人ほど私に断られた時に不満に思ってしまうんだろうなと思う。それになんというか私が貴族の出であることとか、三十歳になっても結婚していないことって周りから見たら不幸せに見えるらしい。




 こうして平民として生きて、貴族としての華やかな暮らしをしていないこと。

 そして誰とも結婚せずに一人で生きていること。



 きっと私が今の状況に嘆いていることだろうとそう思う人は一部居る。

 それも仕方ないのかもしれない。この世界では前世よりもずっと結婚が早い。だからこそ余計に独り身で生きている女性なんて目立つ。



 でも私は前世の記憶があるからかもしれないけれど、全くもって悲観はしていない。

 私は今の私が嫌いじゃないから。



 引きこもっていた頃のことを思い出すと、あの頃の自分はどうしようもなかったなとは思っている。ただその日々を経てこその今の私が居るとは思っている。だからあの当時のことを自分のことを私は否定しないようにしたい。

 だけど私が可哀想だという人って存在している。貴族出身なのにこんなところで暮らしていて可哀想だとか、三十歳になっても独り身で可哀想だとか。だから自分が声をかければ喜ぶはずだってそう思い込んでいる人達には何とも言えない気持ちにはなった。




 貴族の出身だと噂されていても、その私がこうして当たり前の平民として暮らしているから実家から見捨てられている女性と見られることも多いみたい。……私は一人で生きていこうと決めているのは事実で、なるべく実家を頼らないようにしたいなとは考えている。ただ私が実家から見捨てられているというのは違う。

 ……おそらくお兄様は私が困っていたらすぐに助けてくださるだろう。私に何かがあったらすぐに手を差し伸べてくれる。



 でも今の私はお兄様に守られるだけの少女ではない。引きこもっている間に時間が過ぎ去っていってもう大人なのだ。人生経験は同年代に比べたら皆無だろうけれども、それでも……私は立派な成人女性だ。

 だからいつまでもお兄様に甘えてばかりでは居られない。



 私は自分の足で立っていきたい。歩んでいきたい。

 そのためにはこういった変化に対しても私自身で対応をなるべくしていきたい。一先ず今はそういうつもりはないというのは伝えている。穏便に引いてくれる人も居れば、文句を言う人もいる。




 それは構わないのだけれども、やっぱり可哀想だとかそう言う目で見られるのは不服だったりする。

 引きこもる前の自信満々で無敵状態だった頃の私と、今の私は全く違う。




 それでも過去と同じぐらいには今の私は満足しているのだ。周りからどう見られたとしても。

 相変わらず以前のように魔法は使えない。貴族令嬢としてのキラキラした日常もない。

 それでも自分で稼いだお金で生活していくこと、周りとのつながりが増えていくこと。

 それだけでも引きこもっていた頃よりもずっと前進している。それは確かな事実だから、他の誰が否定したとしても私だけはその頑張りを認めてあげようと思う。



 ――可哀想と思われないためにはどうしたらいいだろうか。

 ――私が幸せだよって皆に示すためにはどうするべきだろうか。



 私は恋人もいないし、結婚もしていない。だからといって孤独なわけじゃない。私は一人じゃなくて、充実した日々を確かに過ごしている。


「……やりたいことを見つけたいな」



 折角こうして少しずつ生活が充実していっているのだから、私はやりたいことを見つけていきたい。

 そしてそのやりたいことを行うことで、私は可哀想ではないというのを周りに知ってもらいたいなと思った。


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