23.久しぶりに攻撃魔法を使った
周りには誰も居ない。他に魔物への対処が出来る人は見当たらない。
声を上げて助けを呼ぶ? ううん、それじゃあ遅い。魔物の脅威はそのくらいで止まらない。
目の前で子供が襲われそうになっているのに、見て見ぬふり? そんなの出来るわけがない。
――上手く出来るかも分からない。でも、今はやるしかない。
魔法を詠唱する。久しく使っていなかった攻撃魔法。
トラウマはある。また魔法が成功しなかったらって、私は怖くなっていたから。重要な場で魔法が使えなくて、周りから嘲笑われて――でも今はそんなの関係ない。
周りが何と言おうとも、どんな目で見られようとも――それに失敗してしまったとしても、やらないよりはずっといい!
詠唱を紡ぐと同時に、私の身体から魔力が放出する。炎がその場に出現し、魔物に覆いかぶさった。
「くっ……」
制御が辛い。
頭を様々なことがよぎる。でも周りや子供まで燃やしてしまわないように気をつけなければならない。
一番得意だった魔法を使ったのは、まだ制御がきく方だと思ったから。それでもこう……心が安定しなくて魔力が暴走しそうになっているのを感じ取れた。
「大丈夫……?」
子供を抱き寄せ、炎の制御をしながら魔物を見る。私の火に焼き尽くされて、もう身動きも取れない様子だ。
ふぅ、なんとか魔法を使えたことは良かった。
でも……まだ、自分の放った魔法が残っている。
子供を助けるために必死に使ってしまったけれど、想像通り、望まないところに燃え移ったりしてしまっている。
……こうなるだろうなと分かっているから、少しずつリハビリしていたのだけどなぁ。
魔法を使うこと自体は、無理すれば出来た。でも制御出来るだけ落ち着けると思っていなかった。
「ふぅ……」
「わ、私は大丈夫だよ。お姉ちゃんこそ、辛そう、大丈夫……? それに、助けてくれてありがとう」
「だ、大丈夫よ……。ちょっと……久しぶりに、こんな魔法を使ったから……上手く出来なくて。ごめんなさい……。人、呼んでもらえる……?」
心臓が早い。
久しぶりに魔法を使うと、昔のことが思い起こされる。
今、咄嗟に魔法を使ってしまったけれど逆に状況を悪化させてしまっていないかとか、そういうことも考えてしまう。
……悪い風に物事を考えてしまわない方が楽だけど、過去に受けた嘲りの目などをどうしても思い出してしまっていた。
女の子が頷いて、人を呼びにいってくれた。何とか一部の炎は自分で消したけれど、まだ燃えている。
座り込んだまま、なんとか心を落ち着かせて制御をする。
そのうち、バタバタと人が寄ってくる足音が聞こえてきた。それと同時に、私は安堵して意識を失った。
「マルグレッタ!!」
目が覚めた時、目の前にお兄様が居て驚いた。
次期公爵家当主としてお忙しいお兄様がどうして……?
「お兄様……? どうして、こちらに……?」
「……妹が倒れたと聞いたのだから、駆けつけるのは当たり前だろう」
どうやらお兄様は、私のことを心配して駆けつけてくれていたらしかった。それにしてもあんな魔法を使った程度で倒れてしまうなんて情けないな……。昔の私なら、こんなことはなかったのだけど。
慌てて起き上がろうとしてお兄様に止められる。
「お前は二週間も眠っていたんだ。慌てて起き上がるな」
「……二週間も?」
そんなに眠ってしまうとは思ってもいなかったので、更に驚いてしまった。
「そうだ。それとお前が助けた子供は無事だから安心するように」
「まぁ、それは良かったわ。それにしても……やっぱり私、まだ駄目だわ……。あの程度の魔法で二週間も倒れちゃうなんて……。お兄様、ご迷惑をかけて申し訳ございません。治療費や入院費、もしかしてお兄様が払ってくださいましたか? 後で返しますね」
私がそう言ったらお兄様が表情を歪める。どうしたんだろう?
「……それは気にするな。家族のお金を払うのは当たり前のことだ。それよりももっと自分を大切にするように。それと家を出てから一度も公爵家に戻ってきていないだろう。時間がある際は帰ってきなさい」
「でもお兄様、私はこれから平民として生きて行くのだもの。そう何度も公爵家にお世話になるわけにもいかないわ。実家に帰ってしまったら甘えてしまいそうだもの。それに今はまだ自立していると言い難いから、ちゃんと一人で生活できるって思えたら顔を出すわ」
「別に甘えても構わないだろう。お前は公爵家の娘なのだから」
「あら、お兄様、以前は私が何か持ってきてとか、何か買ってきてとか命じていたら甘えるなと言っていたのに」
「今のマルグレッタは以前のように余計な散財などはしないだろう。平民になろうとしていることも本気のようだし、少しぐらい頼ってもらって構わない」
お兄様はそう言った。自立したいと話に行った時のような冷たい声でもなかった。久しぶりに聞く、お兄様の優しい声だった。
……おそらく、私の家を出てからの生活を把握していて、本気だと分かってくれたからなんだろうな。
なんだかお兄様が優しいと、泣きそうになった。というか、既に涙が流れていた。
「マルグレッタ、どうした?」
「だって……お兄様が私に優しいもん。ここ数年のお兄様、ずっと……冷たかったから」
私が引き籠って、迷惑ばかりかけて、お兄様に呆れられてしまった。だからお兄様が冷たかったのも当然だった。
でもずっと悲しかったのだ。自分が引きこもって、駄目になっていたからなのに。
「はぁ……私は昔のお前を知っているから、引きこもり、将来を諦め、落ちぶれていく姿を見て我慢ならなかっただけだ。だが、ここ最近のマルグレッタは以前のようだろう。そんな妹なら大歓迎だ」
お兄様がそう言って笑ってくれたから、私はやっぱり泣いてしまった。




