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引きこもり令嬢(三十歳)の再起  作者: 池中織奈


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24.お兄様との会話

「ところで、お兄様がこちらに来てくださったことは嬉しいのですけれども、お忙しいのではないですか?」



 私は涙をぬぐって、お兄様にそう問いかけた。



 私はお兄様が心配してこちらに来てくださったことは嬉しかった。だけれども、次期公爵当主であるお兄様がこんなところにいていいのだろうか。スタンピードが起こっている状況で……と私は不安に思った。



「問題ない。気にするな。確かにスタンピードの問題は起こっているが……収束しかかっている状況だ」

「まぁ、そうなのですね。それならば一安心ですわ。スタンピードは対応を誤れば……もっとひどい状況に幾らでもなりますものね」



 私はお兄様の言葉を聞いて、ほっとした。



 お兄様達が一生懸命スタンピードの状況をおさめようとしているからこそ、少しずつ状況が良くなっていっているのだろう。

 流石、私のお兄様だ。

 私はお兄様のことを昔からずっと誇らしく思っている。だからこそ、引きこもった末に冷たい目で診られたことが悲しかった。私は立ち上がることさえもせずに引きこもったままだった。



「マルグレッタ……」



 お兄様は私の名を呼んで、悩む素振りを見せる。何か考え込んでいるらしい。




「まだ、平民として生きるつもりか?」

「え? どうしてそんなことをお聞きになるの?」



 お兄様が問いかけてきた言葉の真意が分からなくて、私は疑問に思った。




「今のマルグレッタなら、社交界に返り咲くことも出来るだろうと思うからな。長い間、引きこもっていて、お前の評判は確かに下がっていた。だが、昔のように一生懸命なお前なら受け入れてくれる貴族男性は居ると思う」



 お兄様がこんなことを私に言うのは、そういう選択肢もあるのだと示したいからなのだと思う。

 私は平民になると決めて、こうして一人で暮らしている。貴族として生きていくことなんて難しいだろうと思って。




 きっと私が貴族として生きる道を選んだら、両親もお兄様も助けてくれるだろう。驚くほど長い間、引きこもっていた私が今更公爵家の力でパーティーなどの場に出たところで嘲笑われるだけだろう。



 ――そこまでしてしがみつきたいものかと言えばそうじゃない。

 前世の記憶を思い出したのもあって、わざわざ貴族社会に戻りたいとは思っていなかった。




「いえ、そうだとしても私、もう貴族社会に戻るつもりもありません。平民として過ごす日々を私は楽しんでいますから。それにもう私は三十歳ですよ。結婚なんて考えてもないですわ」

「……三十歳だろうとも、マルグレッタは美しいから異性は寄ってくるだろう。家を出る頃よりもずっと痩せているし」

「ふふっ、お兄様にそう言われると嬉しいですわね。確かに見目は整っている方だとは思いますけれど、殿方は若い子の方が好きでしょう?」




 特にこの世界だと若くして結婚をする子の方がずっと多いのだもの。私ぐらいの年だと子供が居てもおかしくないのに、ずっと引きこもっていたからそう言う経験ないのよね。

 現在の国王陛下には恋心を抱いていたけれど、恋人関係だったわけでもないし。……そう考えると一度ぐらい誰かと恋をしても楽しいのかも。ああ、でも結婚を考えていない状況で誰かと付き合うなんてしない方がいいかしら。




「全くそんなことを言って……お前はもっと、自分が魅力的だということを自覚しなさい。お前が望めば幾らでもそう言う相手は増えるだろう。平民として生きたいことは分かったが、先ほども言ったようにお前は私の妹だ。何か困ったことがあればすぐに頼りなさい。それに平民になったとしてもパーティーやお茶会に出たくなった場合は言ってもらえれば参加させることも出来る」

「あの、お兄様……幾らなんでも平民になる私がそう言う場に出るのは避けた方がいいでしょう? 私はミレハーユ公爵家の恥でしかないですし」

「そんな戯言は気にしなくていい。誰も恥だとは思っていない」

「もう、お兄様ったら……」



 ああ、でも何だか懐かしい気持ちになる。だって昔のお兄様って凄く過保護だった。私のことを可愛がってくださっていた。



 やっぱり昔みたいにお兄様も態度が軟化しているんだなと思った。




 ……本当に私がパーティーに出たいなどといったら、ドレスなども用意してくださるんだろうな。

 最も私は貴族としてパーティーなどに出る気は今の所ないけれど。

 でもそうね、私がこれから先の未来何を成すか分からないけれど、平民として生きていく中で貴族と関わることになるなら――その時は堂々と関わろうと思う。




 その後、お兄様は忙しいだろうに数日は私の傍に留まってくれた。お兄様は帰り際も、「何かあったら言うように」と何度も告げた。

 ……あれね、私が昔のように見た目に気を遣い始めたからかしら。だからこそ、異性に付きまとわれたりしないか心配しているみたい。



 元々護衛もひっそりつけられているし、そんな心配、何もないのにな。

 でももっとお兄様の心配をぬぐうためにも魔法の練習を改めてしないとね。


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