21.私の事が少し噂になっている
グベルド様と話したこともあり、私のことは少しだけ噂になっていた。明らかに貴族の騎士から、様付けで呼ばれているのだもの。
……貴族の出なのではないか? と遠巻きにされることもある。もちろん、全員というわけではない。これまで通り親しくしてくれている人達もいる。私に事情があることを把握した上で、知らないふりをしてくれている。
そのことはとても有難かった。
私は平民達にとっては関わり合うことが難しい存在ではあるのだとは思う。明らかに訳ありだから。
流石に私がミレハーユ公爵家の娘だと把握している者達はほとんどいないだろうけれども、知られるのも時間の問題だろうか。
そうした時に、私はどう行動しようか。
貴族の娘であること、訳ありでこうして平民生活をしていること。
人によっては私が家に見捨てられた令嬢だと思われてもおかしくない。私は平民になるつもりだし、自分の家名をわざわざ口にすることもなかった。だけれども貴族籍は残ったままだ。
家族は私のことをなんだかんだ気にかけてはくれている。お兄様だってそう。
おそらく、私の身に何かあったら対応はしてくれるとは思う。……家を出てからの私の行動をお兄様が認めてくれたらそれはそれで凄く嬉しくなるのになとも思った。
私って考えてみれば凄く扱いにくい立場だ。
公爵家に産まれながら、貴族令嬢としての生き方からそれてしまった。元々王太子に嫁いでもおかしくない身分だった。恵まれていて、何でも持っていた。それなのに私は引きこもった。
……私は過去の自分から逃げたいわけじゃない。
だって引きこもっていたことも含めて、私なんだから。
前世の記憶がもっと前に思い出せたら良かったのにとは思わなくもない。でもこうして今、思い出したからこその私が居る。
そもそも仮に昔の出来事がオタリー様が画策して起きたことだというのならば、私が早めに社会復帰しようとしても上手く行かなかった気はする。もっと若い頃に前世を思い出して行動しても結局挫折してしまった可能性もあるわ。
どうなんだろう。
例えオタリー様が私を貶めたのが真実としても、随分昔のことでそこまで気にはしていない。そもそも貴族社会って蹴落としあいがよくある場所なのだ。私はそれをよく知っている。オタリー様だけではなく、他の貴族達に貶められようとしたことなんて過去にもあったし。
寧ろ下位貴族の出のオタリー様が公爵令嬢である私相手に働きかけて、その結果、私を蹴落としたことに驚いてしまう。
それは貴族としては、王妃となったものとしては持ち合わせていて得な才能だとは思う。
それにしてもそれだけ上手くやった存在が、今は王妃として上手く出来ないってどうしてなのかしら?
学生時代はあれだけ上手く周りを味方につけて、立派な王妃になるだろうと思われていたのに。
少しだけ心配にはなった。この国の行く末を思うのであれば、王妃としてもっとしっかりはしてほしいなとは思った。
あまりにも王妃に対して不信感などが持たれると、それはそれで問題だもの。
跡継ぎは産んでいて、それに関しては立派に王妃としてのお仕事はこなしているけれど、それだけで許されるほど甘くない立場だ。
私が順当にその立場になっていたら、それはそれできっと苦労したんだろうなとも考えた。
「マルちゃん、注文いい?」
私は今日も食堂でのお仕事に勤しんでいる。
グベルド様も流石に私がこんな風に働いているのを知ったら驚くだろうな。昔の私は間違ってもこんなことはしなかったのだもの。
食堂で働いていてもちらちらと見られたりもする。こそこそと話されたりもしている。
私にききたいこともきっと多いだろう。特に仲良くなっている人からすると。
私が何を抱えているか聞きたい人と、貴族関係のことをわざわざ聞くのもどうか……と悩んでいる方と様々である。
あとはこうして働いていると私に探りにかかる人もいる。貴族の情報を把握して、何か企む人もいるのだ。
私がミレハーユ公爵家の娘だと知ったら……きっと多くの人達が色んな目的で近づいてくるんだろうな。
貴族の娘だとは悟られてしまったけれど、なるべく家名までは知られないようにしておこう。
せめて私が魔法を以前のように使えるようになって、自分の身を自分で守れるようになるまでは……。
魔法は相変わらず少しずつ練習をしている。
まだ戦闘に使えるかは定かではないけれど、以前と同じように近づきつつはある。
ただやはり集中していないと、何か不安事を考えると上手く発動はしないけれども。
もっと私が戦えるようになれたのならば、スタンピードも解決するための手助けが出来るのになとは思わなくないけれど焦りは禁物だ。
私に何か聞いて来ようとする人にも、ちゃんと対応しないとね。




