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引きこもり令嬢(三十歳)の再起  作者: 池中織奈


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19.同級生と話をしよう ②

 王妃。

 今の王妃であるオタリー様は……私にとって恋のライバルではあった。



 向こうは年下の私のことをどう思っていたかは知らない。少なくとも当時王太子であった国王陛下の奥さんになる気満々だった私は、その地位を彼女に掻っ攫われた。




 ……元々私は王妃に内定していたわけじゃない。

 ただ私は王妃になるって勝手に思っていて、周りだって公爵令嬢である私が王妃になることを期待していたとも思う。

 ……先代の国王陛下や王妃様とも私は仲良くしていた。



 よく王宮にも呼ばれていたし、私はそう言う役割を期待されていた。だから私が引き籠った時にはさぞがっかりされたことだろう。



「全く存じておりません。しかし王妃になることを決めたのはオタリー様なので、頑張ってくれればいいとは思いますよ」



 私はそう言ってにっこりと笑った。



 正直オタリー様に対しては、そこまで悪感情はない。引きこもりになった当初は、あの方が居なければもっと幸せだったかもしれない、王妃になれたのにと妬んだ気持ちは確かにあった。

 だけど長い間引きこもっていて、それどころではなかった。自分の生活もままならないのに、周りのことなんて気にしてもいられなかった。

 それに……前世の記憶を思い出してからは余計に、ただ私が負けてしまっただけだというのは理解している。そもそも、私はちょっとしたことでトラウマを抱えてしまうような人間だ。王妃になんてなっていたら、逆に苦労していたのではないかとそうも思ってしまった。




「マルグレッタ様は、オタリー様のことを全く気になさっていないのですね。安心しました」

「あら、もしかして私が妬んで愚かな真似でもすると思った?」

「……少しだけ。昔のマルグレッタ様はその……オタリー様のことを良くおもっていなかったので。あなたがこうして外に出たことはまだ王宮や貴族達の間では広まっていませんけれど、知られたらオタリー様に何かしようとしているのではないかと懸念される方も居るかと」

「ああ、まぁ、そうね。いるかもしれないわね。でも先ほど言ったとおりに私は平民として生きていこうと決めているから、もう関係ないのよ。一国民として良い国王陛下と王妃様であってほしいとは思っているけれどそれだけなの。それ以上のことは望んでいないから安心して?」




 確かに成り上がりたいとか、貴族としての生活に戻りたいとか……そう言う感情があったのならばオタリー様に対して何かをしようとしたかもしれない。でもそんな感情は私の頭からはすっぱりなくなっている。

 寧ろ引きこもって、どんな未来になるかの希望の一つもない私だったので王宮のこととか、王妃のこととか気にしている余裕はない。



 そもそも日本で生きていた頃の記憶を思い出した今は、そういった面倒な場所に飛び込もうとは思っていないというのが本音だったりもする。




「そうなんでしょうね……。今のマルグレッタ様と話していると、心からそう思っていることは分かります。ただ……それを言っても理解しない方は居ると思うので……そのあたりは覚悟した方がいいかと」

「……そうね。私もそれは思うわ」




 私は平民として生きていこうとしているのに、放っておいてはくれないかもしれない。

 私は今の私に貴族としての価値は限りなく低いと思っているけれど、それってあくまで私がそう思っているだけなのだ。




 私という存在にちょっかいをかけてくる貴族達っているかもしれない。後は今の私はまだ太り気味だけれども、痩せたら見た目で寄ってくる人だっていなくはないだろう。




 正直どうかと思うけれど、見目の美しい女性を囲って好き勝手するような貴族も居なくはない。

 ……私の両親は、私を問題のある男性に嫁がせたりなんかはしなかった。でも何らかの問題のある女性を、結婚するのに適していない男性に嫁がせたりする例はあるのだ。それで女性側が亡くなったとしても知らんぷりだったり……。貴族の闇でしかない。




 私ってそういう扱いをされてもおかしくなかった。外に出なくて、学園も卒業できなくて、社交界にも出ない。ただお金を食いつぶす存在でしかなかった。――両親は私を甘やかしていて、それはある意味問題だったけれど……だからこそこうして私は前を向けるようになったのだから有難いことだった。

 ……私は他の貴族達に何らかの接触を受けても問題ないぐらいには強くなりたいな。少なくとも私が魔法を以前のように自由自在に使えるようになれば、手出しをされることは少なくなるだろう。

 私の魔法って、他の貴族達よりも威力が強いものだから。どちらかというと恐れられていた方だ。

 公爵令嬢で、魔法が得意で、王太子の婚約者になるつもりで。

 過去の私って、そう言う存在だった。





「何かあればお兄様達に相談することにするわ。心配してくれてありがとう」

「そうした方がいいかと……。先ほどの話ですが、マルグレッタ様はオタリー様を気にしていなくても、オタリー様の側はマルグレッタ様を気になさっています」

「え、どうして?」

「詳しくは知りません。ただ王宮ではマルグレッタ様と、オタリー様を比べられる方が今も多いのですよ。マルグレッタ様は幼いころから教育を受け、すぐにでも王妃になってもおかしくない基準を満たしていました。しかしオタリー様は下位貴族の出なので、結婚をするまでも時間がかかった。それに今もなお、マルグレッタ様があんなことにならなければ……と先代王妃様なども口にしているみたいで」




 そう言われて、何とも言えない気持ちになった。



 紛れもなく勝者はオタリー様で、私は敗者でしかない。

 それなのにどうしてもう貴族社会に関わる気もない私と比べるんだろうか?


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