18.同級生と話をしよう ①
私が様付けで呼ばれたことに親しくしている街の人達に驚いた顔で見られる。私の身分を知らない人からしてみれば、それも仕方がない話だった。
私はそんな彼らに曖昧に笑った。
ごまかすように、聞かないでとでもいう風に。
それにしても向こうは明らかに貴族の騎士だから、街の人たちはこれで私が貴族の出身だということは悟られてしまうかもしれない。
私が、マルグレッタ・ミレハーユであるという事実は変えられない。
私は公爵令嬢として生きていて、王族や高位貴族の妻になったとしてもおかしくなかった。
「ごきげんよう、グベルド様。お久しぶりですわね。此処では目立つので、向こうでお話いたしませんか?」
こうして過去の同級生に不意に出会うと、ものすごく不思議な気持ちになる。
少なくともこうして会うとは思ってもいなかったから。向こうからしたら今の私を見て、どう思うのだろうか。
――学生の頃の私は、とても輝いていたとは思う。それは紛れもない事実で、私は自分が何にでもなれるって思っていた。
「はい。お久しぶりです。マルグレッタ様。まさかこんなところであなた様を拝見することになるとは思ってもおりませんでした。学園を退学されて、その後社交界に一切顔を出していないと聞いていたのでまさかこんなところにいらっしゃるとは」
「あら、私が引き籠っていたことぐらい知っているでしょう? わざわざそれに触れないでいてくれようとしていたのね。ありがとう」
私がそう言って笑うと驚いた顔をされた。
学生時代の私って、こんな風に穏やかに笑うことってなかなかなかったものね。何れ王妃になるんだって思い込んでいて。
王太子殿下に相応しくあらねばならないって気を張って。
そうやって過ごしていた私って、かなり無理をしていたと思う。生き急いでいたのかもしれない。
周りに侮られないようにしなければならない。令嬢達を上手くまとめあげないととか。そんなことばかり考えていた。
考えてみると私は近くにいる人たちのことしか考えられなかったなぁ。
そもそも恋に恋していたので、グベルド様とはあんまり話したことはなかった。
「……噂通り部屋から出ていなかったのですね。今は、もう大丈夫なのですか?」
「そうね。ようやく私、自立しようとしているの。平民として過ごしているから、そのつもりで対応していただける?」
「平民……マルグレッタ様がその道を目指すのは難しいかと思いますが」
「そう? これでもしばらくは平民生活を実行中なのよ?」
私がそう言って笑えば、驚いた顔をされる。
学園に通っていた頃の私は、平民になるなんて考えられないほどに貴族らしかったものね。今も、貴族らしさは抜けていないかもしれない。少なくとも私はこれまで貴族として生きていたのだもの。
「マルグレッタ様の所作は平民とは思えませんよ。それに口調も。明らかに訳ありであることは分かるでしょう。ご家族もご心配なさっているのでは?」
私のことを心から心配しているのだなとよく分かって、くすりっと笑う。
引きこもっている間の私は、誰も味方が居ないと思っていた。私のことをあざ笑う人ばかりなんだって。
なのに学園であまり関わっていないグベルド様だって私に対して心を砕いてくれている。
その事実が何だか嬉しかった。私は、一人じゃないんだなってそのことを再確認出来た。
「そうね。でもお兄様が秘密裏に護衛は付けてくださっているの。お父様は療養中だから、そのあたりはお兄様が色々手配してくださっていて本当に有難いわ。それに私も……少しずつだけど魔法を使えるように頑張っているの」
私がそう口にすると、痛ましげなものを見るような目でこちらに視線を向けられた。
「まさか……あの時から魔法は上手く使えないままなのですか?」
「ええ。トラウマになってしまっているみたいで、中々上手く扱えないの。私の魔法が以前のようにつかえるようになったらスタンピードでも役立てるのになと少し申し訳ないわ」
同じ学園に通っていたグベルド様は、当然のことながら以前の私がどれだけ魔法を使えていたか知っている。
魔法を使えることを誇りに思い、堂々としていた過去の私。学園の誰よりも魔法が得意で、魔法を使うことが大好きだった私。
「そう、なんですね。そのことを申し訳なく思う必要はありません。私はマルグレッタ様がまた魔法を使えるようになることをお祈りさせていただきます」
「ありがとう」
まだ再会したのがグベルド様で良かったかもしれない。私のことを嘲るような同級生たちも居なくもないのだから。
――特に今の王妃様は、今の私を見たらそれはもう楽しそうに笑うだろうな。
なんて考えていたら、私の思考を読んだかのように彼はその話題を口にした。
「――そういえば、王宮の様子は知っていますか? 下位貴族から王妃になったこともあり、大変苦労しているらしいですよ」
グベルドはそんな話を私に振ってきた。




