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謁見の間には、緊張感を含んだ沈黙が流れていた。
ケンジは視線を逸らさず、玉座に座るアステリアの王へと告げた。
「グランヴェール王への和平報告は完了し、正式に停戦を受け入れ、アステリアとの共存を認める旨、言質を取っております」
その報告に、王は満足げに頷いた。
「……ほう。カレンベルク独断の交渉を王に認めさせるとはな。大したものだ」
「ありがとうございます。ですが、陛下が気にされていたのはもう一つの方ではないでしょうか」
ケンジが先回りして切り出す。
「そうだ。道中の村で、動くはずのない古のゴーレムを起動させたという報告がある。あれはどういう理屈だ? お前は何をした」
ケンジは肩の力を抜き、あらかじめ用意していた「もっともらしい嘘」を口にする。
「……いえ、大層なことではありませんよ。単にあの個体の保存状態が奇跡的に良かっただけです。私はただ、カレンベルクで読み漁っていた古文書の知識に従い、詰まっていた魔力経路を少しばかり刺激したに過ぎません。偶然が重なった結果ですよ」
「偶然」という言葉に、王は不快そうに目を細めた。当然、納得などしていない。だが、ここで問い詰めても実りがないと判断したのか、王は一度だけ鼻を鳴らした。
「……古文書の知識、か。相変わらず食えない男だ。良いだろう、その話は一旦預けておく。長旅だろう、今日は下がって休むがいい」
「御配慮、感謝いたします」
ケンジとリィザが謁見の間を辞し、静かな廊下へと出たときだった。
背後から、重厚な足音が近づいてくる。
「――王を相手に平然と嘘を並べるとはな」
振り返ると、そこにはアステリアの将軍、ゼノスが立っていた。かつて戦場でリィザと刃を交えた男。言葉とは裏腹に、口元は笑っている。
「嘘なんて心外ですね、ゼノス将軍。お久しぶりです」
「相変わらず食えない奴だな、ケンジ。……それはそうと」
ゼノスの視線が、ケンジの隣に控えるリィザへと向けられた。その瞬間、ゼノスの眉間がピクリと跳ねる。
「……リィザ。一体、何があったんだ?」
「えっ……? いきなり何を。……ああ、実はケンジと上手くいってて。驚かせるほど魅力的になっちゃったのかしら」
突然の問いに、リィザが小首を傾げる。
ゼノスは信じられないものを見るような目で、リィザを凝視した。
「……誤魔化すな。雰囲気が以前とは別物だ。練り上げられた気配……まるで別人のように『鋭く』なっているぞ」
ゼノスの言葉が途切れ、含みのある沈黙が流れる。
「身体強化が以前よりも格段に洗練されている。その剣までが一体となっている感じだ。……今のお前なら、私を一瞬で斬り伏せるだろう」
リィザは当惑したように自分の手を見つめた。
グランヴェール王国での、魔素の『供給係』の日々。その過酷な循環が、結果として彼女の魔力容量を異常なまでに拡大させていた。それに加え、新たに覚えた魔法剣と効率化された身体強化の術理が、彼女の中で無自覚な『進化』を引き起こしていた。
「私、そんなに変わったのかしら……?」
「自覚がないのか……。恐ろしい女だ」
ゼノスは戦慄にも似た溜息をつき、ケンジを睨みつけた。
「ケンジ。和平の使者の振りをしながら、とんでもない『怪物』を育てて戻ってきたんじゃないのか」
ケンジは否定せず、ただ口角をわずかに上げて、王都の廊下を歩き出した。




