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ガル・ドルナの村を発ってから数日。王都へと続く街道を進む馬車の中、ケンジは手元の帳簿にこれまでの記録を淡々と書き込んでいた。
「……さっきの村の個体もダメだったな」
ケンジが窓の外を眺めながら呟く。王都へ至るまでの道中、立ち寄ったいくつかの村で、ケンジは放置された遺物の調査を行っていた。
街道沿いの村々には、かつての文明の残滓が点在していた。川床に横たわる巨大な石塊や、峡谷の入り口で台座から崩れ落ちている守護像。どれも風雨にさらされ、劣化がひどいものばかりだった。
ガル・ドルナの村の守護者のように、基礎が生きている幸運な例は稀なようだ。
「直せそうになかったの?」
「ああ、残念ながらな。物理的に崩壊していたらしい」
ケンジは隣で少し寂しそうにするリィザとは対照的に、ノアのテンションは高い。
(マスター! 稼働は不可能でも、残された回路から当時の設計思想を抽出できました! 劣化しているからこそ、ブラックボックス化されていたコアの構造が剥き出しでした……。(*´Д`)ハァハァ……。この不完全なデータこそが解析欲をそそります!)
「……喜んでるのは、お前だけだな」
溜息をつくケンジ。背後で馬を走らせるザルガスが、その様子を見て笑った。
「古い石塊を熱心に調べてたが何が楽しいものでもあったのか?。俺はガル・ドルナの村みたいなことがまた起きたらと気が気じゃなかったぜ。やりすぎはいらぬ勘繰りを生むからな」
ケンジは苦笑しながら、ザルガスの言葉を反芻する。
修理こそできなかったが、ノアの中には着々とゴーレムの設計理論と制御コードの断片が蓄積されている。これらバラバラのピースを繋ぎ合わせていけば、魔国が喉から手が出るほど欲しがる「答え」を提示できるはずだ。とはいえザルガスの言う通り、無駄に目立つのは避けるべきだな。
「あんたに迷惑はかけないよう気を付けるよ。結構来たと思うんだがあとどれくらいかかる?」
「あと数日で王都だぞ。次は山越えだ」
ザルガスは眼前の山を指さした。




