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ガル・ドルナの村を包む朝霧がまだ晴れぬうちに、ケンジたちは出発の準備を終えていた。
見送りに来た村長は、昨夜までの険しさが嘘のように穏やかな顔でケンジの手を握った。
「感謝する、ケンジ殿。あの守護者の灯火が消えぬ限り、我々はこの地で生きていける」
子供たちが眠そうな目をこすりながら馬車を追いかけてくる中、一行は再び魔国の荒野へと踏み出した。
蹄の音だけが響く静かな道中、ケンジは馬車を並走させているザルガスに声をかけた。
「ザルガス。昨日のような『石の人形』だが、魔国には他にもあるのか?」
ザルガスは手綱を握る手を止めず、少しだけ声を潜めた。
「……おいおい、あんまり大声で聞くなよ。本来、人間に教えるようなことじゃねえんだ」
そう言いながらも、ザルガスは周囲を確認し、口元を歪めて笑った。
「まあ、あんたになら話してやるよ。……あるぜ、他にもな。内陸へ行けば行くほど、もっと巨大なやつや、奇妙な形をした遺物がな」
「それらは今でも動かないのか?」
「ああ。俺たち『下々』に分かっているのはそこまでだ。だが、噂じゃあの石塊を動かそうと研究を続けているらしい。文字通り失われた技術ってやつだ。……詳しいことは、それこそ魔王陛下や側近の貴族共しか知らねえはずだ」
「……王都に行けば、その答えがあるということか」
「そうなるな。ま、せいぜい好奇心で首を突っ込みすぎて、軍部に目をつけられないようにしろよ。俺の命も危なくなるぜ」
ザルガスはそう言い残すと、商隊の先頭へと馬を戻していった。
馬車の窓から遠ざかるザルガスの背中を見送り、ケンジは背もたれに深く体を預けた。
「……やはり王都に行かないといけないな」
「……でも、物騒な話ね。あなたがゴーレムを動かしちゃったのはまずかったんじゃない?」
リィザが不安げに隣に座るケンジを見つめる。
(マスター、リィザ様のおっしゃる通りです。ザルガス氏が『生きている』個体を知らないのであればゴーレムを動かした我々をほおっておかないでしょう。先手を打ってこちらからゴーレムを動かした実績をアピールして共同開発を提案することをお勧めします)
「確かにな……」
(はい。もし動く個体にアクセスできれば、私の意識をデタッチするプロセスは一気に現実味を帯びます。リィザ様、もうすぐですよ。私がこの脳内から消え、お二人が本当の意味で『二人きり』になれる日が……!)
「ノア、余計な一言がなければなぁ」
「ふふ、でも楽しみね、ケンジ。ノアが外に出たら、まずはお説教してあげないと」
リィザが楽しそうに笑い、ケンジの手をそっと握りしめる。
「……そうだな。まずは、王都でその『答え』を見つけよう」
馬車は乾燥した大地を揺れながら進む。
目指すは魔国の心臓部、魔王の住まう王都。
そこには二人の静かな未来を左右する「禁忌の技術」が眠っている。




