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ゴーレムの巨体から放たれたのは、地鳴りのような重低音だった。
かつての敵襲を告げたであろうその音は、静まり返った村の隅々にまで響き渡り、宴の最中だった広場を一瞬で静寂に叩き落とした。
「な、なんだ!? 何の音だ」
たいまつを掲げた村人たちが、次々と駆け集まってくる。子供たちに囲まれていたリィザも、状況を察して真っ先にケンジの元へ駆け寄った。
「ケンジ! 今の音、あなたね?」
「ああ。テスト稼働が成功したようだ。ちょうど『お客様』も来たみたいだな」
ケンジが視線を向けた先、村の外壁の見張り台から一人の村人が慌てて降りてきた。
「魔物だ! 先刻のトカゲどもの血の匂いを嗅ぎつけて、野狼の群れが来やがった! だが……」
見張りの村人はケンジが作り上げた外壁を指差した。
「壁に阻まれて、奴ら戸惑ってやがる。 奴らがいくら体当たりしても、傷一つ付きゃしねえ!」
「ふむ、設計通りだな。魔物も俺がやろう。今日はもう遅いから追い払えば十分でしょう」
「私は念のためにみんなの護衛をしてるわ」
ケンジはパンの最後の一片を口に放り込むと、外壁の階段を上り、夜の闇を見下ろした。壁の向こう側では、十数頭の野狼が不気味に唸っている。
『火炎の雨』
闇夜に魔法陣が現れ、小型の火球が野狼に降り注ぐ。
「ギャン!」という短い悲鳴があちこちで上がり、数分もしないうちに、生き残った個体は脱兎のごとく闇の中へ逃げ出していった。
ケンジは壁から降りると、埃を払って村長たちの前に歩み寄った。
「センサーに警報、外壁のテストも完了しました。村長、これで夜通し見張りを立てる必要もなくなります。今日はもう遅いのでお開きにしましょう。」
さらりと告げるケンジ。
「「「…………」」」
数百年動かなかった遺物を起動させ、難攻不落の外壁を作り上げ、夜襲の魔物を「夕食の片手間」で追い払った人間。その非常識さに、村人たちは口を開けたまま立ち尽くしている。
静寂の中、ザルガスだけが腹を抱えて爆笑した。
「はははは! 傑作だ! おいケンジ、お前さんやっぱりただモノじゃねえな。魔王陛下が気に入りるわけだ!」
月夜に照らされた石の守護者は、その胸の奥で静かな光を宿し続け、村の安眠を約束するように佇んでいた。




