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「ノア、この村の景観に合わせた最適設計を。耐久性とデザインの両立させよう」
(了解しました。村の石造建築から幾何学パターンの規則性を抽出。構造力学に基づいた『ハニカム構造』の外壁デザインを生成しました。マスター、座標情報を転送します)
ケンジが地面に手を触れると、魔族たちが宿の準備をしているわずかな間に、地響きと共に巨大な石の壁がせり上がった。
ただの壁ではない。村の住宅に見られる精緻な幾何学模様が刻まれ、まるで太古からそこにあったかのような威厳を放つ外壁だ。
「わあ、模様がある!」
「かっこいい! 」
作業を眺めていた子供たちが歓声を上げる。様子を見に来た村人やザルガスも、その「一瞬の建築」を前に言葉を失っていた。
「……村なので簡素なものに留めましたが。これでどうでしょう?」
ケンジが平然と言う。村長は震える手で壁に触れ、「……これが人間の力なのか」と絶句していた。
村の広場での夕食時、リィザは「お姉ちゃん、剣を教えて!」「どうしてそんなに強いの?」と完全に子供たちのアイドルと化していた。一人一人に丁寧に応対する彼女を連れ出すのは、流石に気が引ける。
「リィザ、例の調査に行ってくる」
(マスター、食事は歩きながらでも可能です。早く、早くあのゴーレムに触れてください!)
脳内でうるさいノアをなだめるため、ケンジはパンに肉と野菜を挟み、夜の静寂に包まれた「石の人形」の元へと向かった。
月光に照らされたゴーレムは、昼間よりも一層神秘的に見える。ケンジがその冷たい石の肌に手を触れると、ノアの解析プロセスが即座に走った。
(……深部インターフェースへのダイブを開始。あぁ……素晴らしい。コードの記述方式が現代の魔術体系とは根本的に異なります。ですが、損傷が激しすぎますね。手足の駆動系は完全に死んでいます。マスター、歩かせるのは現状では不可能です)
「そうか。やはり動かないか」
(ですが、中枢の『知覚ユニット』だけは奇跡的に生きています。外部の魔素の揺らぎを検知する機能……つまり、広域センサーとしては現役です。魔物が接近した際、特定の周波数の音を鳴らすよう再定義できます。恐らく昔も、こうして村を守る兵士として使われていたのでしょう)
「……魔物の接近を知らせる鐘か。今のこの村には必要だな」
ケンジが独り言のように呟きながら、ノア経由でシステムを書き換えていると、背後から足音がした。振り返ると、杖を突いた村長が立っていた。
「村長。この『守護者』が再び村を守ってくれるようです」
「……何?」
「動くことは叶いませんが、周囲の魔物を感知する力は残っています。今後は魔物が村に近づけば、この人形が警告を発してくれるはずです」
村長は目を見開き、信じられないといった様子でゴーレムを見上げた。
「ロストテクノロジーの再起動だと……? 数百年、誰も成し得なかったことを、あんたは……」
「かつての守護者の、本来の役目を取り戻しただけですよ。……さあ、ノア。テスト稼働だ」
(了解、マスター。――起動。村の全方位、半径1000メートルの魔素スキャンを開始します)
ゴーレムから地響きのような重低音が鳴り響く。




