35
魔物討伐から一夜明け、ケンジ達は村を出てカレンベルクへ向かっていた。
数日の旅ののち、カレンベルクの領主館へと辿り着いた。門番たちは見知った顔のリィザとケンジを笑顔で通してくれた。
馬車がカレンベルクの街並みを抜け、懐かしい領主館の門を潜る。
「ただいま戻りました、父上!」
広間で二人を待っていたのは、カレンベルク領主バルト・カレンベルクだった。その傍らには、兄のエリックも並んでいる。
「おお、リィザ。無事の帰還、何よりだ。ケンジ殿、まずは『カレンベルクの使者』としての重責、見事果たしてくれたこと、感謝する」
ケンジは一礼し、懐から王の親書を取り出した。
「魔族との和睦の報告を無事に済ませてまいりました。色々問題が起きて戻るのが遅くなってしまいました。申し訳ありません」
「よいよい。貴殿の活躍はリィザからの手紙でたっぷり聞かされているよ。魔族のみならず隣国の争いまで止めた英雄とな。……だが、今はまずは旅の疲れを癒やすんだ。今夜は一緒に食事をしよう」
その夜、カレンベルク家の食卓には温かな料理が並んだ。
バルト、エリック、弟のレオ、そして母親のカレン。家族に囲まれたリィザは王都で食べたどの高級料理よりも美味しそうにスープを口に運んでいる。
「それでね、ケンジが『アイテムボックス』から急にオークキングの首を取り出した時の村人の顔ったら……!」
リィザが身振り手振りで道中の活躍を語るのを、家族は微笑ましく見守っていた。ひとしきり話が落ち着いた頃、ワインを注いでいた母親のカレンが、ふとケンジに視線を向けた。
「ケンジさん。……こうしてリィザが楽しそうに笑っていられるのも、あなたが隣にいてくれたからね」
「いえ、私の方こそ。リィザさんにはいつも助けられています」
ケンジが答えると、カレンは悪戯っぽく目を細めた。
「あら、そんなにかた苦しくならなくていいのよ? ……私が聞きたいのは、一人の男の人として、うちのリィザをどう思っているのか、ということなの」
「…………っ!?」
ケンジの喉が鳴った。
(マスター。想定外の質問を受信。心拍数の急上昇を確認。回避プロトコルを起動しますか?)
(……余計なことをするな。ここは自分で答える)
沈黙するケンジ。リィザもまた、耳まで真っ赤にしている
「ちょっとお母様! 何をいきなり……!」
「母上、ケンジ殿が困っている。……が、確かに私も気になるな。妹を任せられる男かどうか、見極める必要があるからね」
兄のエリックまでがニヤリと笑い、バルトも黙ってワインを飲みながらこちらの反応を伺っている。
王を相手にするよりも、カレンベルク家の食卓のほうが、ケンジにとってはよほど難易度の高い。
ケンジは居住まいを正し、真っ赤な顔でこちらをチラチラと見るリィザと視線を合わせた。
「……リィザさんは、私にとって大切なパートナーです。これからも一緒にいたいと思っています」
ケンジがそこまで言うと思っていなかったのか、皆驚いてリィザの方を見ると、リィザも驚いていた。
「……嬉しい。私もよ」
(前世では孤独で、失意のうちに死んじまった俺が、こんなことを言うなんてな)
(マスター。私も何だか温かい、嬉しい気持ちのようなものを感じます)
転生して初めて良かったと思ったケンジだった。




