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月明かりも届かない深い森の中、ケンジの索敵魔法が複数の熱源を捉えた。
「リィザ、来るぞ。まずは身体強化を剣の切っ先まで延長するイメージだ。最初は出力控えめで」
「……わかった。やってみる!」
リィザが愛剣を構える。彼女にとって身体強化は使い慣れた技術だが、その力を「剣という外部の物質」へ流し込むのは未知の領域だった。しかし、持ち前のセンスの良さを発揮し、剣身がわずかだが青白く輝きだした。
「グガァッ!」
リィザは闇から飛び出してきたオークの攻撃を受け流さず、そのまま正面から斬り捨てた。
丸太のような腕も、粗末な鉄の武器も、音もなく両断された。
「……え、今の……。手応えが全然ないわ!」
「切れ味が向上している証拠だ。少しずつ出力を上げていこう」
リィザは弾かれたように地を蹴った。以前より剣の輝きが増している。彼女が通り過ぎるたびに、魔物たちの武器が、そしてその巨体が次々と「切断」されていく。盾を構えて防ごうとしたオークも、盾ごと縦に割られた。
やがて、森の奥から一際巨大な咆哮が響いた。オークキングだ。
手にした巨大な斧を振りかざし、威圧感を放つキングに対し、リィザは迷わず懐へ飛び込んだ。
「はぁっ!」
一閃。オークキングが身を守るために掲げた巨大な斧の刃が、リィザの魔法剣によって紙細工のように切り飛ばされた。
自慢の武器を破壊され、呆然とうろたえるオークキング。リィザはその隙を見逃さず、流れるような動作でその首を跳ね飛ばした。
「……リィザ、見事だ。残りは俺にやらせてくれ」
生き残ったオークやウルフたちが逃げ出そうとした瞬間、ケンジが地面を叩いた。
「『アース・バインド』。――悪いが逃がさんよ。付き合ってもらうぜ」
地面から伸びた土の手が魔物たちの足を完璧に固定する。身動きの取れなくなった魔物たちは、格好の「的」だった。
「さて、テストを開始する。……ノア、サポートしてくれ」
(了解。全属性の展開を開始します)
ケンジの周囲に、色とりどりの魔法陣が浮かび上がる。火、水、風、雷、光、闇……。次々と放たれる魔法が、正確に魔物たちを貫いていく。威力と魔力消費、発動時間をノアと検証しながら。
村を出てから、わずか三十分。
村人たちが入り口で「やはり無謀だったのでは」と顔を見合わせていると、森の奥から二人が平然とした足取りで戻ってきた。
「……も、戻られたのですか! やはり夜の森は危険ですからね。また明日にして今日はお休みください」
「いえ、終わりましたよ。全滅させたのでもう安心してください」
ケンジの言葉に、村長が呆気に取られて笑う。
「ハハハ、お若いのに冗談が上手い。大丈夫ですよ。宿は用意していますから……」
「信じられませんか? では――」
ケンジが何もない空間に手をかざすと、アイテムボックスから巨大なオークキングの首を取り出す。
「ひっ!? な、なんだ今の……。急に魔物の首が出てきた!」
「死骸を持って帰ってきたんですよ。何なら残りも出しましょうか?」
あまりの光景に、腰を抜かす村人たち。リィザが苦笑している。
「さて、宿へ案内していただけますか? 移動続きで少し疲れてたんですよ」
ケンジは何事もなかったかのように袖を払い、混乱する村人たちを促した。




