ツインテール姐さん成長物語 ――元気が余りすぎた結果、ヒロインになりました 第19話 面白すぎる工場長――笑いと音頭で現場が回る日
東大阪・赤嶺製作所。
油の匂いと金属音の中に、ひとつだけ異質な音が混じる。
「おはよー!!工場長、来たでええええ!!」
低めツインテールが跳ねる。
赤嶺美月、今日も出勤である。
配属:工場長(仮)。
年齢:五歳。
役割:だいたい全部。
この頃の美月は、完全に戦力だった。
「これ、持ってくで!」
「次これやろ?」
「そこ危ないで!」
工具を運ぶ。
段取りを読む。
言われる前に動く。
だが――
それ以上に効いているのが、ムードメーカーとしての力だった。
朝一番の「おはよー!!」で空気が上がる。
誰かがミスしても、横でニコニコしているだけで、場が柔らぐ。
気まずい沈黙が、なぜか続かない。
親方筋がぽつりと言う。
「なあ」
「何や」
「工場長おらん日、なんか静かすぎへん?」
「それはそれでええやろ」
「いや、寂しいねん」
その日の午前。
出入りの業者がやって来る。
「こんにちはー」
「おはよー!!」
美月、即応対。
「今日はええ天気ですね♪
配送もスムーズにいきそうです!」
柔らかボイス。
完全に“朝の情報番組のお姉さん”モード。
業者、にこにこ。
「いやぁ、ここ来ると元気出るわ」
だが五分後。
「……納期、守らなあかんで」
低音。
任侠モード。
業者、びくっとする。
「は、はい!」
親方筋が横で笑う。
「日替わりやねん」
昼休み。
職人と業者が混ざって弁当を食べている。
話題は当然――
美月。
「なあ、あの子」
「うん」
「何なん?」
「知らん」
「でもな」
全員うなずく。
「変な子やけど、ええ子や」
満場一致。
午後。
一人の若い職人が、少し落ち込んでいた。
作業ミスが続いたらしい。
美月はそれに気づく。
何も言わず、隣に立つ。
「……大丈夫やで」
それだけ。
特別な言葉ではない。
だが、不思議と効く。
「……ありがとな」
「ええで」
すぐにいつもの調子に戻る。
「ほな次、これやな!」
空気が切り替わる。
夕方。
花が工場に顔を出す。
「みーちゃん」
「なんや」
「ちょっと話あるねん」
任侠口調のまま応じる美月。
花は少し心配そうに言う。
「その喋り方な……」
「ええやろ」
「いや、ええんやけどな……」
少し考えて。
「今度、音頭教えたるわ」
「おんど?」
「河内音頭や」
数日後。
地元の河内音頭保存会。
太鼓の音。
手拍子。
独特のリズム。
美月、最初は戸惑う。
「これ、どうやるん?」
花が笑う。
「見て覚え」
数分後。
「こうやな!」
いきなり形になる。
足さばきが軽い。
リズム感がある。
動きが妙にキレている。
保存会のメンバーがざわつく。
「……この子、筋ええな」
「覚えるの早すぎへん?」
美月、楽しくなってくる。
「もう一回や!」
完全にハマる。
帰り道。
「楽しかった!」
「せやろ」
「これ、工場でもやる!」
「なんでや」
そして翌日。
赤嶺製作所。
「ほな、いくで!」
突然の音頭。
足を踏む。
リズムを取る。
「それそれそれそれ!」
職人、爆笑。
「何してんねん!!」
だが、誰かが手拍子を始める。
気づけば全員が乗っている。
「なんやこれ、楽しいな」
「仕事前の準備運動にええかもな」
空気が一気に軽くなる。
その後。
美月の特技に、正式に追加される。
河内音頭。
工場でも。
公園でも。
幼稚園でも。
なぜか披露される。
そして時は流れ。
大学生になった美月は、チアリーディングサークルに所属。
振り付けの中に――
「それそれそれそれ!」
河内音頭、混入。
観客、困惑からの爆笑。
さらに時は流れ。
戦隊ヒロインとなった現在。
イベントステージ。
「いくでー!!」
華麗なステップの中に、しれっと音頭が入る。
子どもたち、大喜び。
スタッフ、ざわつく。
「……あれ何?」
「伝統芸能です」
赤嶺製作所。
今日も工場長は元気だ。
「おはよー!!」
声が響く。
誰かが笑う。
誰かが動く。
少しだけ、元気になる。
親方筋がぽつり。
「なあ」
「何や」
「この工場、なんでこんな平和なんやろな」
清一が笑う。
「工場長がおるからや」
任侠でもない。
お天気でもない。
マジックでもない。
それでも全部で――
人を明るくする。
それが、赤嶺美月。
後に戦隊ヒロインとなる少女の強さは、
この頃すでに、完成していた。
“面白すぎる工場長”として。




