ツインテール姐さん成長物語 ――元気が余りすぎた結果、ヒロインになりました 第18話 ツインテール七変化――人格が多すぎる女
朝の赤嶺家。
平穏な一日は――だいたい三秒で崩壊する。
「……おはようございます」
低い。
やたら低い。
真人は新聞から顔を上げる。
「……誰や」
振り向くと、美月が立っている。
だが様子がおかしい。
ゆっくり歩く。
無駄に間を取る。
視線がやたら渋い。
「……本日も、筋を通していきます」
真人
「まだ任侠やっとる!!」
春菜は味噌汁をよそいながら冷静。
「今日は健さん寄りやな」
完全に分析済み。
だが、その日の幼稚園は違った。
「おはよー!」
元気な声で入ってきた美月。
……かと思いきや。
一瞬でスイッチが切り替わる。
にこっ。
「みなさん、おはようございます♪
今日はとってもいいお天気で、気持ちも晴れやかになりますねっ」
空気が変わる。
柔らかい声。
優しい笑顔。
ほんのり上目遣い。
そして絶妙な“間”。
「お昼からは元気指数がぐんぐん上がりますので、
お外遊びはたくさん楽しみましょうね♪」
クラス全員、静かに聞き入る。
先生、ぽかん。
(……なにこれ、完成度高すぎる)
その“朝の爽やか番組のお姉さん感”は、
なぜか異様にリアルだった。
蓮、小声。
「今日……めっちゃ普通やな」
「普通ちゃう、天気や」
「意味分からん」
だが、その平和は長く続かない。
昼休み。
突然、美月が立ち上がる。
「……諸君」
雰囲気が変わる。
目つきが怪しくなる。
「本日ハ、非常ニ不思議ナ現象ヲ見セマス」
来た。
怪しいやつ。
手にはトランプ(折り紙)。
「ヨークミテイテチョウダイ」
子どもたちがざわつく。
「このカードノ中カラ、一枚選ンデチョウダイ」
一人が選ぶ。
「ソレデハ……」
(妙に長い間)
「ヨークミテイテ……」
(さらに長い間)
「タネモシカケモチョットダケアルヨ~」
「あるんかい!!」
蓮、即ツッコミ。
「ソレデハ……消エマス」
カード、普通に手の中。
消えていない。
「あるやん!!」
「見えてるやん!!」
大混乱。
だが美月は動じない。
「イヤ、コレハ見エテイルダケデ実ハナイ」
「ある!!」
それでも押し切る。
「不思議ダネ~」
「全然不思議ちゃう!!」
しかし――
なぜかウケている。
完全に失敗しているのに、
なぜか笑いが取れる。
先生、頭を抱える。
(技術ゼロでここまで成立するの!?)
数日後。
またしても変化が起きる。
「……フッ」
空気が変わる。
振り向くと、美月が窓の外を見ている。
腰には――布団。
巻いている。
「この世界は……退屈しないな」
蓮
「また変わった!!」
母と観に行ったあの華やかな舞台。
男装の麗人。
それに完全に影響を受けている。
・姿勢が美しい
・歩き方が優雅
・セリフが無駄にカッコいい
そしてやっぱり――
妙に完成度が高い。
「さあ、共に行こう」
「どこ行くん!?」
こうして、幼稚園ではある現象が起きていた。
「今日の美月、どれや?」
朝の確認事項である。
・任侠
・お天気
・怪しい手品師
・男装の麗人
日替わり。
完全に日替わり。
蓮は毎朝、覚悟して登園する。
(頼む……普通であってくれ……)
そして最大の被害者。
しろくま先生。
「せんせー……」
低音。
「今日も筋を通す」
次の瞬間。
「今日はぽかぽかで元気日和です♪」
さらに。
「ヨークミテイテチョウダイ……」
最後に。
「フッ……覚悟はいいか」
しろくま先生、完全沈黙。
だが明らかに巻き込まれている。
夜。
真人がぽつり。
「……なあ春菜」
「何?」
「この子、将来どうなるん?」
春菜は即答。
「人気者やな」
「それは間違いない」
幼稚園での評価は、むしろ高い。
・面白い
・優しい
・何でもできる
・意味が分からない
先生は職員室で言う。
「……あの子、人格が多すぎます」
「問題児?」
「いえ……
一番場を回してます」
意味不明だが事実。
美月本人は、何も考えていない。
ただ――
面白いものを真似する。
かっこいいものを吸収する。
楽しいことを全力でやる。
それだけだ。
だがその積み重ねが――
・演技力
・トーク力
・空気支配力
すべてを育てていた。
帰り道。
蓮が聞く。
「なあ、美月」
「なんや」
「どれが本物なん?」
美月は少し考えて――
「全部や」
即答。
ツインテール姐さん。
その正体は、ひとつではない。
どんな役にもなれる。
どんな場でも主役になれる。
その異常な“表現力”は――
すでにこの頃、完成していた。




