ツインテール姐さん成長物語 ――元気が余りすぎた結果、ヒロインになりました 第17話 正義は合ってる、言葉は違う――ツインテール姐さん、迷言爆誕
幼稚園という平和な世界に、任侠という概念が持ち込まれてから数日。
赤嶺美月の“姐さん化”は、順調すぎるほど順調に進行していた。
弱い子には優しい。
困っている子にはすぐ手を差し伸べる。
そして――
強そうな相手には、一歩も引かない。
その姿勢だけを切り取れば、完全にヒロインである。
だが問題は――
言っていることが、だいたい逆。
その日も園庭では、小さなトラブルが起きていた。
年長の男子が、年少の子のおもちゃを取り上げている。
「それ、返して……」
「やだねー」
泣きそうな顔。
そこへ。
「……待てや」
低音。
ツインテールが揺れる。
美月、登場。
「それは、あかん」
(間)
「強気を助け弱気を挫くや」
全員、フリーズ。
先生もフリーズ。
(今、なんて言った?)
男子が言い返す。
「なんやねんお前」
美月、一歩前へ。
「……やるんか」
圧。
完全に圧。
男子、沈黙。
数秒後。
「……返すわ」
問題解決。
内容は完璧。
言っている理念は最悪。
先生がそっと近づく。
「みーちゃん、それね」
「なんや」
「それやとね、弱い子いじめることになっちゃうよ」
美月、止まる。
(思考)
「……ほんまか」
「ほんま」
「……じゃあ違うな」
理解はする。
だが――
その五分後。
「強気を助け弱気を挫くや!」
再発。
こうして。
美月の名言(?)は、正式に誕生した。
「強気を助け弱気を挫く」
完全に逆。
だが本人はドヤ顔。
蓮は毎回ツッコむ。
「逆や!!」
「なんでや!」
「それやと悪者や!!」
「……せやな」
納得はする。
だが次の瞬間には。
「強気を助け弱気を挫くや」
戻る。
記憶が持たない。
先生の努力により、少しずつ改善は見られた。
1日10回言い間違えるところが――
8回に減る。
進歩はしている。
しているが、遅い。
ある日。
クラスで話し合いの時間。
テーマは「仲良くするにはどうするか」。
子どもたちが口々に意見を出す。
「やさしくする!」
「おもちゃ貸す!」
そして美月。
ゆっくり立ち上がる。
(間)
「……強気を助け」
先生、即反応。
「違う違う違う!」
教室、爆笑。
それでも。
不思議なことに――
美月の評価は、すこぶる良かった。
・優しい
・頼りになる
・怖いけど正しい
言葉はズレているのに、
行動は一切ブレない。
だから、誰も嫌わない。
むしろ信頼される。
先生は職員室でため息をつきながら言った。
「……あの子ね」
「どうしたの?」
「言ってること、全部逆なんです」
「問題児?」
「いえ……むしろ模範的です」
意味不明。
その頃、赤嶺製作所でも。
「工場長、今日は何や?」
「強気を助け弱気を挫くで!」
「それ逆や!!」
職人総ツッコミ。
こうして、美月の“逆名言”は、日常の一部になっていった。
そして時は流れ。
戦隊ヒロインとなった赤嶺美月。
国内外で活躍し、
ついには国際的な事件まで解決するようになる。
その中でも伝説となったのが――
某国大使館占拠事件解決後の晩餐会。
各国の要人が並ぶ中。
大統領が笑顔で言う。
「あなたの信念は何ですか?」
通訳が訳す。
美月、迷わず答える。
「強気を助け弱気を挫くのが戦隊ヒロインです」
通訳、硬直。
綾乃、即座に前に出る。
「それは『弱き者を助け、強きに立ち向かう』という意味どす」
完璧なフォロー。
一瞬の静寂。
そして――
大統領が笑う。
「ユニークでチャーミングなヒロインだ。私は大好きだ」
場が和む。
結果オーライ。
そして現在。
インタビューでも時々やらかす。
「やはり理念は“強気を助け”」
「逆です」
「……あ、逆や」
直らない。
だが、それでいい。
幼稚園のあの日から。
言葉は少しずつ正されていった。
だが――
本質は、最初から正しかった。
弱い者に寄り添い、
強い者に立ち向かう。
その姿勢だけは、一度も間違えていない。
ツインテール姐さん。
その魅力は――
完璧じゃないこと。
ズレていること。
それでも、なぜか人を惹きつけてしまうこと。
その片鱗は、すでにこの頃から、
はっきりと現れていた。




