ツインテール姐さん成長物語 ――元気が余りすぎた結果、ヒロインになりました 第16話 五歳児、仁義を背負う――ツインテール姐さん、幼稚園を仕切る
朝の幼稚園。
いつも通り、元気な声と笑い声が飛び交う平和な空間――のはずだった。
その日、その空気は静かに崩壊する。
原因はひとり。
低めツインテールを揺らしながら門をくぐる、小柄で愛玩動物のように可愛らしい少女――赤嶺美月である。
だが、この日の美月は違った。
歩き方が遅い。
無駄に落ち着いている。
そして、やたらと間を取る。
「……おはよーございます」
低い。
明らかに声が低い。
先生が一瞬固まる。
「お、おはよう、美月ちゃん……?」
美月はゆっくりうなずく。
「……今日も、よろしく頼みます」
誰やねん。
教室に入ると、さらに異変が加速する。
おもちゃの順番を巡って、小さなトラブルが起きていた。
「それウチのや!」
「ちゃうわ、先や!」
いつもなら先生が仲裁に入る場面。
だが――
「……待てや」
低音。
場が止まる。
美月がゆっくり前に出る。
「順番、あるやろ」
子どもたちがぽかんとする。
(間)
「……筋、通そや」
空気が変わる。
なぜか全員、黙る。
「……じゃあ、先どうぞ」
一人が譲る。
問題、即解決。
先生、介入できず。
一方その頃。
教室の隅では、ひとりの少年が震えていた。
名を、蓮という。
気弱で優しい、典型的な“巻き込まれ体質”。
そんな彼の前に、美月が現れる。
「……蓮」
「ひゃ、ひゃい!」
「今日からな」
(間)
「ウチの舎弟や」
「えっ」
決定事項。
「なんで!?」
「ええからついてこい」
理由なし。
蓮、強制加入。
外遊びの時間。
園庭で走り回る子どもたちの中に、明らかに異質な空気があった。
ゆっくり歩く美月。
その後ろに、なぜかついていく蓮。
完全に構図がおかしい。
そこへ、年長の男子グループがやってくる。
「なんやあいつ」
「ちっちゃいくせに偉そうやな」
くすくす笑う。
完全に舐めている。
美月は立ち止まる。
振り返る。
(間)
一歩、前へ。
「……今、なんか言うたか」
声は低い。
目が据わっている。
男子たち、少しひるむ。
だが強がる。
「なんやねん、チビ」
次の瞬間。
美月、もう一歩踏み込む。
「……やるんか」
圧。
完全に圧。
幼児とは思えない威圧感。
男子たち、沈黙。
誰も動かない。
数秒後。
「……別にええわ」
退く。
完全敗北。
蓮、後ろで震えながら思う。
(なんで勝ったん……?)
その様子を見ていた先生は、完全に困っていた。
「……あの子、どうしよう」
行動は問題ない。
むしろ正しい。
順番は守らせる。
喧嘩は止める。
弱い子を助ける。
だが――
やり方が完全に任侠。
注意しづらい。
むしろ感心してしまう。
お弁当の時間。
蓮が小声で聞く。
「なあ、美月……」
「なんや」
「舎弟って、なに?」
美月は考える。
(間)
「……ええ関係や」
「説明になってへん!!」
食後。
お片付けの時間。
誰かがサボろうとする。
美月、即座に反応。
「ちゃんとやらなあかんで」
(間)
「……筋、通そや」
その一言で、全員が動く。
先生、もはや見守るだけ。
帰りの会。
先生は最後に言った。
「みんな、今日はよくできました」
そして、ちらっと美月を見る。
「……美月ちゃんも、ありがとう」
本音が混じる。
助かっている。
だが、扱いに困る。
美月はゆっくりうなずく。
「……当然や」
誰やねん。
帰り道。
蓮が聞く。
「明日も来るん?」
「来るで」
「普通に来てや」
「普通や」
全然普通じゃない。
こうして。
ツインテールの小さな少女は、
幼稚園に“仁義”を持ち込んだ。
意味はまだ分かっていない。
言葉も借り物。
だが――
曲がったことを許さない。
筋が通らないことに黙らない。
その本質だけは、すでに完成していた。
後に戦隊ヒロインとなる赤嶺美月。
その原点は、
この日――
幼稚園で、静かに任侠を貫いた瞬間にあった。




