ツインテール姐さん成長物語 ――元気が余りすぎた結果、ヒロインになりました 第15話 不器用すぎる五歳児――ツインテール、仁義に目覚める
ある休日の午後。
東大阪の住宅街は、どこかゆったりとした時間が流れていた。
赤嶺美月は、祖父・清一の家の居間で、しろくま先生を抱えながらごろごろしていた。
特にすることもなく、ただなんとなくテレビを眺めている。
その日、テレビで流れていたのは――
清一が大好きな、古い任侠映画だった。
画面に映るのは、寡黙な男。
無駄なことは言わない。
だが、一言の重みが違う。
静かに歩き、静かに座り、
そしてふと口を開く。
「……自分、不器用ですから」
美月は、ピタッと動きを止めた。
それまでだらけていた体勢のまま、
目だけがテレビに釘付けになる。
理由は分からない。
内容もよく分かっていない。
だが――
(……なんか、かっこええ)
ただそれだけだった。
次のシーン。
「筋を通せ」
短い言葉。
だが、その場の空気が一変する。
美月は、しろくま先生をぎゅっと抱きしめた。
「せんせー……」
意味は分からない。
でも、その言葉だけは、妙に心に残った。
映画が終わったあとも、美月はしばらく動かなかった。
清一が湯のみを置きながら聞く。
「どうしたんや、みーちゃん」
美月はゆっくり振り返る。
そして――
低い声で言った。
「……自分、不器用ですから」
沈黙。
次の瞬間。
「なんやそれ!!」
「似てるけど、似てへん!!」
清一と花が同時に吹き出した。
それからというもの。
美月は、完全に“その男”にゾッコンになった。
意味は分かっていない。
だが、雰囲気だけは完璧にコピーする。
・ゆっくり歩く
・無駄に間を取る
・突然、遠くを見る
そして急に。
「……筋、通そや」
何に対して言っているのかは不明。
だが妙に説得力がある。
その日の夕方。
公園。
いつものように遊び回る美月……かと思いきや。
動きが違う。
「……次、ウチやな」
ゆっくり歩く。
無駄に落ち着いている。
蓮が戸惑う。
「み、美月……
今日、なんか変やで」
美月は振り返る。
「……変やない」
(間)
「筋、通してるだけや」
「???」
蓮、完全に理解不能。
滑り台。
順番を抜かそうとした子に対して。
「順番、守らなあかんで」
(間)
「……筋、通そや」
言葉の意味は分かっていない。
だが、使いどころは完璧だった。
相手はなぜか黙って最後尾に並ぶ。
蓮は小声で言う。
「み、美月……
なんか怖いけど、すごいな」
美月は満足げにうなずく。
「ええ言葉やろ」
夜。
家に帰っても続く。
「ごはんできたでー」
春菜が呼ぶと。
美月はゆっくり立ち上がり。
「……今、行く」
「誰やねん!!」
真人のツッコミが飛ぶ。
寝る前。
しろくま先生を前にして、語り始める。
「せんせー……」
(間)
「自分、不器用ですから」
先生は無言。
だが、明らかに巻き込まれている。
その様子を見ながら、清一は静かに言った。
「……ええな」
花が聞く。
「何が?」
「筋、通す言うとるやろ」
「意味分かってへんで?」
「それでもええねん」
清一は少しだけ真面目な顔になる。
「分からんでもな、
大事なもんは、なんとなく分かるもんや」
この日を境に。
美月の中に、ひとつの芯が生まれた。
まだ曖昧。
まだ借り物の言葉。
だが――
・曲がったことが嫌い
・順番を守らせる
・理不尽を許さない
それらすべてが、
「筋を通す」という言葉に、
ゆっくりと結びついていく。
後に戦隊ヒロインとなった赤嶺美月は、
時折こう言う。
「筋、通そや」
その言葉の原点は――
東大阪の一室で、
ツインテールの少女が、
意味も分からずに“かっこええ”と思った、
あの瞬間にあった。
そして彼女は今でも、
どこかで“背中で語る男”に憧れている。
理由はひとつ。
「……なんか、かっこええから」




