ツインテール姐さん成長物語 ――元気が余りすぎた結果、ヒロインになりました 第14話 閉店セール中止のお知らせ――五歳工場長が未来を受注しました
その日の夜、赤嶺清一は――
寝られなかった。
布団に入って、天井を見上げて、目を閉じる。
だが五秒で開く。
「……ほんまかいな」
思い出すのは、昼間のあの一言。
「ケーキ屋さんと、じーじの工場、両方やるねん!」
あの満面の笑顔。
何の迷いもない声。
清一は寝返りを打つ。
「……二刀流て」
思わず笑ってしまう。
横で花がぼそっと言う。
「まだ起きてるん?」
「起きてる」
「考えごと?」
「……ちょっとな」
実は清一、ここしばらく考えていた。
工場、畳むかどうか。
仕事は減った。
昔みたいな勢いはない。
年齢もある。
水面下では、
工場の売却の話も、少しずつ進めていた。
「もうええかな」と、
どこかで思っていた。
だが――
「じーじの工場、大好きやねん!」
あの声が、頭から離れない。
清一は、布団の中でぽつりとつぶやいた。
「……好き、言われてもうたらなぁ」
花が笑う。
「単純やな」
「単純でええねん」
清一は目を閉じた。
「……まだやな」
翌朝。
「おはよー!!工場長来たでええええ!!」
いつもの声。
いつもの勢い。
低めツインテールが工場に突入する。
「じーじ!
今日なにするん!」
清一は、いつもより少しだけ背筋を伸ばして言った。
「今日はな……
いっぱい仕事するで」
「ええやん!!」
即ノリ。
「まかしとき!!」
誰に対しての“まかしとき”なのかは分からない。
だが、
その一言で空気が変わる。
その日の赤嶺製作所は、
妙に活気があった。
「工場長、これ頼むわ」
「はい!」
「次これいるで」
「もう持ってきてるで!」
動きがいい。
声が出る。
笑いも出る。
親方筋がぼそっと言う。
「……なんか今日、
ええ感じちゃうか」
別の職人も頷く。
「せやな。
なんやろな」
清一は、ニヤッと笑った。
「工場長効果や」
昼休み。
弁当を広げながら、清一が突然言った。
「ワシな」
全員が顔を上げる。
「まだやるわ」
「何をです?」
「工場や」
一瞬の静寂。
「……ほんまに?」
「ほんまや」
清一は胸を張る。
「生涯現役や」
誰かが笑う。
「何歳までやるんですか」
清一は即答した。
「120歳までや」
全員爆笑。
「いや長すぎやろ!」
「機械の方が先に寿命くるわ!」
「その頃、工場長どうなってるんですか!」
そこへ当の本人。
「なにしてるん!」
「じーじが120歳まで働くらしいで」
「ええやん!!」
即肯定。
「ウチもやる!!」
「お前も!?」
「ケーキ屋さんもやるけどな!」
「まだ言うてる!!」
再び爆笑。
午後。
美月はいつも通り、
現場をちょこまか動き回る。
「これいるやろ!」
「そこ危ないで!」
「順番守るで!」
声はデカい。
だが、妙に的確。
その姿を見て、
清一はしみじみ思う。
(……まだ終われへんな)
ただの工場やない。
ただの仕事場やない。
ここには――
未来が、ちょろちょろ走り回っとる。
夕方。
「また来るで!!」
美月が元気に帰っていく。
その背中を見送りながら、
親方筋がぽつり。
「なあ」
「何や」
「後継者問題、
解決してへん?」
全員、無言でうなずく。
「……五歳やけどな」
「早期育成や」
その日以降。
赤嶺製作所は、少しずつ変わっていった。
声が増えた。
笑いが増えた。
動きが軽くなった。
近所の工場の人間も、気づき始める。
「なんか、あそこ元気ちゃう?」
「せやな。
いつも笑い声聞こえる」
理由は簡単。
工場長(五歳)が、毎日出勤しているから。
夜。
真人が聞く。
「今日も工場行ってたん?」
「うん!」
「どうやった?」
「めっちゃええで!!」
「何がやねん」
「じーじ、元気なった!!」
その一言で、
真人は少し驚いた顔をした。
東大阪の町工場街。
まだまだ厳しい時代は続いている。
だが――
赤嶺製作所だけは、なぜか明るい。
理由は単純。
五歳の工場長が、
毎日、全力で笑っているから。
その笑いに、
人が引っ張られる。
その声に、
空気が動く。
清一は夜空を見上げてつぶやく。
「……まだいけるな」
遠くで、
ツインテールが揺れている気がした。
それはきっと――
小さな夜明けの音だった。




