ツインテール姐さん成長物語 ――元気が余りすぎた結果、ヒロインになりました 第12話 空気読めすぎ五歳児――現場が回るとき、ツインテールが揺れる
東大阪・赤嶺製作所。
その日も、機械音は変わらず響いていた――はずだった。
「おはよー!工場長やで!」
**自称・工場長(五歳)**が出勤するまでは。
低めツインテールが揺れる。
小柄な体。
だが歩き方は、妙に堂々としている。
清一が笑う。
「おう、来たか工場長」
「来たで!」
完全に役職を受け入れている。
この頃の美月は、
すでに“ただの元気な子”ではなかった。
現場適応能力が、妙に高い。
例えば――
「そこ危ないで」
と言われた場所には、
二度と近づかない。
「次これやな」
という空気を、
言葉になる前に読む。
そして――
「これ、いるやろ?」
と、先回りする。
午前中。
親方筋が、機械の調整に入る。
「……次、あれやな」
つぶやきが終わる前に。
「これやろ?」
美月、持ってきている。
親方筋、固まる。
「……お前、
いつ見とったん?」
「さっき!」
軽い。
だが、正確。
別の作業場。
若手の職人が困っている。
「あれ……どこやったっけ」
そこに。
「これちゃう?」
差し出す。
「それや!助かる!」
美月、満足げ。
「まかしとき!」
もう完全に、
現場の一員である。
事務所。
おばちゃんが帳簿をめくっている。
「みーちゃん、これコピーしてきてくれる?」
「はい!」
コピー機へ走る。
……が、途中で止まる。
「……今、
誰か使ってるな」
順番待ち。
勝手に割り込まない。
終わった瞬間。
「次、ウチな」
宣言だけする。
コピー完了。
「できたで!」
おばちゃん、感動。
「……この子、
気ぃ利きすぎやろ」
花も横でうなずく。
「うちの子やで」
昼休み。
職人たちが弁当を広げる。
話題は当然、美月。
「なあ、あの子な」
「うん」
「言わんでも分かるねん」
「せやねん」
親方筋が言う。
「現場ってな、
空気読まなあかんねん」
「せやな」
「それ、
もうできとる」
全員、うなずく。
午後。
「工場長、ちょっとこれ見て」
「どしたん?」
「ここ、どう思う?」
本気で相談されている。
美月は覗き込む。
「……これな、
ちょっと曲がってるで」
「……ほんまや」
正解。
「直すわ」
美月、ドヤ顔。
「ええで!」
さらに。
泣いている子どもが、
工場の外にいた。
美月は気づく。
「どうしたん?」
「……ころんだ」
「そっか」
しゃがんで、目線を合わせる。
「大丈夫やで」
手を引いて、
おばちゃんのところへ連れていく。
おばちゃん
「はいはい、消毒するで」
完璧な流れ。
夕方。
清一がぽつりと言う。
「……なあ花」
「何?」
「この子、
ただの工場長ちゃうな」
「せやな」
「場、見とる」
花は笑う。
「ずっと見てるで」
帰り道。
真人が聞く。
「今日、何したん?」
「いっぱい見て、
いっぱい持ってって、
ちょっと直した」
「……ちょっと直した?」
春菜は冷静。
「もう戦力やな」
夜。
美月はしろくま先生に話しかける。
「せんせー、
ウチな、
空気わかるで」
先生は無言。
だが――
最前列で深くうなずいている(脳内)。
この頃、
赤嶺製作所の全員が確信していた。
「……この子、
気ぃ利く子やな」
「ちゃうちゃう」
親方筋が言う。
「利きすぎや」
笑いが起きる。
まだ五歳。
まだヒーローでもない。
まだ変身もしない。
だが――
場を読む
人を見る
必要な動きをする
ヒロインの原型は、すでに完成していた。
低めツインテールが揺れるたび、
現場が少しスムーズになる。
それは、
偶然ではなかった。
こうして、
ツインテール姐さんは――
“場を読む力”という、
最強の武器を手に入れた。




