ツインテール姐さん成長物語 ――元気が余りすぎた結果、ヒロインになりました 第11話 五歳、現場を回す――工場長(仮)就任のお知らせ
東大阪・赤嶺製作所。
今日も機械音は一定のリズムを刻み、油の匂いが空気に溶けている。
その中を、ひときわ軽快な足音が走る。
「おはよー!!」
来た。
低めツインテール、今日も元気。
赤嶺美月(五歳)。
配属:不明。
役割:増殖中。
「みーちゃん、そこ危ないで」
「はい!」
ピタッと止まる。
この“止まれる”能力が、すでに優秀である。
午前の作業。
清一が旋盤に向かい、隣で職人が部品を整えている。
「次、スパナやな」
その声が出る前に――
「これやな!」
美月、即持参。
「おお、早いな」
「さっき見てたもん!」
ドヤ顔。
別の場所でも。
「みーちゃん、そのボルト箱取ってくれるか?」
「これやろ!」
正解。
「次、これいるやろ?」
ついでにもう一つ持ってくる。
職人が笑う。
「……お前、
俺の頭ん中見てへん?」
事務所。
おばちゃんが声をかける。
「みーちゃん、この伝票、清一さんに」
「はい!」
走る。
ただし、作業エリアに入る手前で減速。
「じーじ、これ」
「おお、ありがと」
渡すだけでなく、
置く位置も正確。
おばちゃん、ぼそっと。
「……この子、
新人より仕事できるんちゃう?」
花、うなずく。
「せやろ」
昼前。
最古参の職人――通称“親方筋”が、
腕を組んで現場を見渡していた。
清一の右腕。
長年この工場を支えてきた熟練工である。
その視線の先では、
美月が動いていた。
「これいるやろ?」
「ここ置いとくで」
「危ないで!」
声はでかい。
だが、流れは止めない。
親方筋がぽつり。
「……なあ清一」
「なんや」
「みーちゃんで、
ウチの工場回っとるんちゃうか?」
清一は一瞬黙り、
そして吹き出した。
「ははは!
せやな!」
そのやり取りを聞いていた別の職人が、
冗談半分で言う。
「ほな決まりやな」
「何がや?」
「みーちゃんが工場長や」
一瞬の静寂。
そして――
「ほんまか!!」
本人、食いついた。
「工場長ってなにするん!」
「ええ質問やな」
親方筋が笑いながら答える。
「現場を見て、
困っとる人がおったら助ける」
「分かった!」
理解、爆速。
「まかしとき!!」
即就任。
午後。
「そこ危ないでー!」
「次これやでー!」
「順番守るでー!」
完全に仕切っている。
しかも誰も嫌がらない。
むしろ――
スムーズ。
「みーちゃん、
その工具持ってきて」
「了解や!」
“了解”が出た。
清一が目尻を下げる。
「……ほんまに工場長やな」
花が笑う。
「肩書きついたら強いで、この子」
さらに。
「みーちゃん、これ運べるか?」
「持てるで!」
ちょっと重い。
だが、運ぶ。
途中で一回置いて、
また持つ。
「できた!」
職人たち、拍手。
「えらいな!」
「根性あるな!」
完全に褒められている。
夕方。
「今日もええ仕事したな!」
親方筋が言う。
「うん!」
満足げ。
「明日も来るで!」
「工場長やからな!」
本人、完全にその気。
帰り道。
真人が聞く。
「今日、何してきたん?」
美月は胸を張る。
「工場長してきた!」
「……何それ」
春菜は平然。
「昇進やな」
「五歳で!?」
その夜。
美月はしろくま先生に報告する。
「せんせー、
ウチな、工場長なったで」
先生は無言。
だが、
最前列で拍手している(脳内)。
赤嶺製作所では、その日以降――
「工場長、これお願い」
「工場長、危ないで」
という声が、
普通に飛び交うようになった。
冗談のはずだった。
だが――
半分、本気になっていた。
清一は静かに言う。
「……この子、
ほんまに継ぐかもしれんな」
花が笑う。
「ケーキ屋ちゃうん?」
「両方やろ」
こうして、
低めツインテールは――
ついに役職を得た。
工場長(仮)。
まだ五歳。
だが現場は回る。




