練習試合のお誘い 1
携帯が鳴り、練習中であったことから陽介の顔色をうかがったフサエちゃんだが、陽介が「早く電話に出た方がいいよ!」という一声で、扉の開いている更衣室に走って行った。
陽介は家庭婦人チームでは、それぞれの家庭の事情があるので、急ぎの用件があることもあろうかと思い、練習中であっても必ず電話に出ることを勧めて来た。特に家庭における主婦の立場を有す構成員であれば、なおさらだと考えていたからだ。
ただフサエちゃんは独身。家庭の事情はあまり考えられなかったが、所属している家庭婦人連盟の役員をしているのでその関係の連絡かもしれないと、陽介は思った。
しかし電話に出たフサエちゃんは、1分くらい話したところで陽介に、「監督!、来週の土曜日(SIEGの練習日)に、パパクラブさんが練習試合をしませんか?と言ってますが、どうしますか?」と聞いて来た。
陽介は、「5分以内に折り返しますと言って、いったん電話を切って!」と伝えた。
取り敢えず、次の練習日に何人練習に来られるのか?確認をしたかったからだ。
でも練習試合のお誘いは非常にありがたい。
以前も話したかも知れないが、そもそも弱小チームに練習試合の声がかかることが珍しいからだ。
そのことを前提に、「せっかくお誘いを頂いたので僕は是非ともやりたいのですが、皆さんのご都合はどうですか?」と尋ねた。
すると次の練習日は、今日練習に来ていないメンバーを含め全員(SIEGに登録している構成員は全部で11人だそうだ)が参加出来るとのことで、是非やりたいとのことだった。
陽介はフサエちゃんに、練習試合の会場がいつもSIEGが練習している公民館の体育館であることを確認して、「それでは来週は練習試合をさせて頂きます。とパパクラブさんに連絡をして下さい!」と言い、直後にフサエちゃんが電話をして来週の練習試合が決まった。
陽介は、「では来週の練習試合に向けて、チーム練習をしま~す!、全員コートに入って下さい!」と言った。
しかし本日の練習参加人数は、8人。
イッちゃんは、「監督!、8人しかいませんが良いんですか?」と、不安そうな面持ちで陽介に言って来た。
陽介は、「大丈夫。8人で出来る練習をしますから!」と言い、自らが反対側のコートに入って「それでは、前回のおおらか杯で戦った時のポジションに入って下さ~い!」と言い、ケガがまだ癒えず練習に来ていないジョンちゃんのポジション(ハーフセンター)に、8人で交代しながら入るように指示をした。そして
自分のポジションからハーフセンターに移動した時は、そのポジションはいない前提でプレーをするように指示をした。(前衛レフトの選手がハーフセンターに入った場合は、前衛のレフトに選手がいないことになる。)
そして陽介は、反対側のコート中程に立ち、「今から優しい山なりのボールを打ちますので、そのボールを相手のサーブだと思って、基礎練習で行ったオーバーパスやアンダーパスなどにより、セッターのフサエちゃんに返して下さい。そしてフサエちゃんは基本的に前衛レフト・前衛ライトのどちらかにトスを上げて下さい。上がったトスは必ず打つように!、間違ってもオーバーやアンダーで反対のコートに返さないようにして下さい!」と言い、ボールを8人のコートに打ち込んだ。
しかし普段やらないことを突然やるのは、バレーボール経験が少ないSIEGではやはり難しいようで、たった1人いないことで混乱をしていた。
陽介は、「練習試合に向けて、今出来ることをやらなければならないので、自分の所に来たボールをとにかく基本的な体重移動でフサエちゃんに返せるように努力して下さい!、今までは練習試合をするにあたって、ただその日を迎えたかも知れませんが、今日からは練習の成果を出せるように準備をしましょう!、ただし、やりにくい面もあるように見受けますので僕は名前を呼んだ人に向かってボールを打つことにします!、皆頑張りましょう!」と言って残り少ない練習時間を使ってチーム練習を始めた。
フサエちゃんやイッちゃんは、普段と違う練習試合に臨む心構えや練習に素直に取り組もうと、「皆~!、一生懸命練習をして上手くなろう!」とチームメイトに声をかけた。
陽介は、二人がチームメイトにかけた声に、「最初の一歩かもしれないが、弱小ママさんバレーボールチームには極めて重要な言動!」だと思った。




