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A氏最後の監督、親睦大会(おおらか杯) 3

 相手のタイムアウトでベンチに戻って来たSIEGの面々。


 ベンチで控えていた#6あずみちゃんを含め、全員が水分補給のため各々のボトルが入れてある籠の方に向かった。


 ここまではよくある光景だが、監督であるA氏はベンチに座ったまま微動だにしない。


 SIEGのメンバーも、水分を補給しながら皆で話はするものの、監督の方へは行かない。


 何か仲間割れでもしているかの様にさえ見えた。


 通常の家庭婦人の試合であれば、タイムアウトのとき水分を補給しているメンバーのところに監督なり、コーチなりが歩み寄り、話しをしたり指示をしたりする。


 小・中・高校生のように、一旦監督の所に行き、監督やコーチの指導を受けてから水分の補給をするのではなく、基本的には水分を補給しながら監督の話しや指示を聞く。


 だがSIEGは、誰一人監督の方に行くことはなく、監督のA氏もベンチに座ったままだ。


 陽介は、いい大人の集まりなのだから、何か理由があっての行動だろうと思った。


 しかし、後で聞いた話では、以前は他のチーム同様タイムアウトのとき監督がメンバーが集まっているところに来て監督が話しをしていたが、話す内容がチンプンカンプンで、さらには具体的な話しや指示は一切ないことが続いたので、皆監督が来ても話を聞かなくなり、次第に監督もメンバーの所に来なくなったとのことだった。


 それでは監督であるA氏は、さぞかし気分が悪かろうと思ったが、意外にも「俺は飾りだから、気にしないで皆で話をしてくれ!」と言ったそうだ。


 以降SIEGは、タイムアウトのときベンチには戻るものの監督の話しや指示がない以上、水分補給とメンバー同士の話しに徹することにしたという。


 陽介は、「何じゃそりゃ!?」と思った。


 監督も一緒に戦っているんじゃないのか?と。


 タイムアウトが明けコートに戻る時、キャプテン#5フサエちゃんが声がけをしてコートに入ったが、それがなければチームとしての結束など一つも感じられないように見えた。


 タイム明け、#2アシミちゃんのサーブが続く。


 #2アシミちゃんは、勢いのあるサーブを打った。


 パパクラブは、バックレフトがレシーブ。しかし勢いに押され、レシーブしたボールは真上に上がった。


 そのボールをバックセンターが必死につなごうと突っ込んで来て、片手でボールに触った。


 2コンタクト目のボールは直接SIEGコートに返って来た。


 しかし、SIEGのメンバーはボールの行方を全員がその場で見ている。


 そしてボールはSIEGコートに落ちた。


 誰もレシーブの準備が出来ていない。


 下部のチームでは、あるあるだが、自陣にサーブなりチャンスボールが来ると、全員が「ワン・ツー・スリー!」などの声をかけあい、3コンタクト目で相手コートに返すことが多い。


 パパクラブも、ご多分に漏れずそういうチームだった。


 もちろんブロックでワンタッチ(9人制バレーボールでは、ブロックのワンタッチは1コンタクトに数えられる。6人制は1コンタクトに数えないので、次のプレーが1回目のコンタクトとなる)があると、次のコンタクトは2回目なので「ツー・スリー!」などの声をかけあう。


 したがって、パパクラブが意図せずSIEGコートに返したボールは2回目のコンタクトで、パパクラブの「ツー!」と言うかけ声の時だった。


 SIEGに限らずだが、皆相手チームのかけ声を一緒に数えていたに違いない。


 要するに数は数えていたが、バレーボールの競技として個々の準備、チームとしての準備は全く出来ていないと言うことだ。


 陽介は、持っていた自分のバックからノートを取り出し、この試合におけるSIEGの問題点を書くことにした。


 ハトが豆鉄砲をくらったような顔(昭和の時代のたとえで、最近では聞かなくなった言葉)で、コートに落ちたボールさえ拾いに行かないメンバーに、陽介は観客席から「早くボールを拾いに行って!、切り替えて!、切り替えて!、集中して!」と大きな声をかけた。


 SIEGの面々は我に返り、急いでボールを拾いに行った。


 だが次のプレーに入る前に、気持ちを切り替えられるような声をかける者はいない。


 きっと今までも、今日と同じような試合を続けて来たのだろう。


 陽介は、もしSIEGが本当に勝ちたいと思っているのであれば、1点の重みを意識させ試合における集中力を持続出来るようにしなければならないと、ノートに書き留めた。


 そしてSIEGは、その後も良い所なく第一セットを落とした。


 SIEG10-21パパクラブ


 淡々とコートチェンジをするSIEGの面々。


 例え親睦大会であっても、勝ちたいなら次のセットは必ず取るぞ!と言う気合が欲しいと陽介は思った。


 次のセットに向かうインターバルも、監督であるA氏はベンチに座ったまま。


 メンバーは、監督から離れた場所で水分を補給をしながら話していた。


 副審からインターバル終了の吹笛があり、双方のメンバーがお互いのコートエンドラインに並んだ。


 第二セットが始まる。

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