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ワールドRe:トライ・セブンオーブ  作者: 下級魔術師17号
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第23話 記憶の狭間

 『………様、こちらへ』


 誰かが俺の手を取り、歩き出した。

 視線が低い。

 やや狭い通路は、天井は高い。壁には、植物や花の美しいレリーフが彫られ、それが奥まで続いている。時々、物語の一場面のようなレリーフが混じっているが、足早に手を引かれ出歩いているので、じっくりと内容を確認する暇はない。

 ただ、一場面、一場面が続いている話のようだ。

 そんな通路は暗く、まるで、どこかの神殿の隠し通路のようだと、俺は手を引かれながら、思った。


 やがて青い光が静かに降り注ぐ薄明るい広間に出た。

 壁や配置された美しい聖獣たちの像が立つ柱から、水が流れ落ち、広間を流れる幾つかもの水路と合流する。その広間の奥に、鳥居のような柱とそのさらに奥に小さな両開きの扉があった。


 手を引く相手は、広間を真っ直ぐに奥の扉を目指す。俺は、それについて歩きながらも、水に映る俺自身を見た。

 青い髪に金色の目の、幼い子供。

 和装に似た衣服を身にまとった5~6歳くらいの子供の“俺”がいた。


 『…………様、よろしいですか』

 

 鳥居の前で、“彼”は、俺に向き直った。

 だが、その姿は俺には分からない。背が高く、黒いスーツ姿の、“執事”のような格好をしているようだ。短い銀色の髪に、白い肌。すらりと足が長い。

 だが、その顔はまったく分からなかった。


 『これは“界渡りの扉”、ここから先は、………様お一人で進むのです』

 『…………は、一緒ではないのか?』

 『申し訳ありません。私は、この扉を通ることができないのです。…………は、“宝玉”の正統なる器たる貴方様のみ、この“扉”を使うことを許されました』

 『父上も、母上も、…………も、ここに残るのであろう?なら、我も残る。我は、…………』


 目の前の彼と幼い俺の声が聞こえる。

 だが、所々か聞こえない。俺は、幼い俺の視点でしか、見ることができないのに、肝心な部分がまったく分からない。

 分かるのは、“彼”が幼い俺を逃がそうとしていることくらいだ。


 もちろん、状況の分からない俺は、こんなに話すことはできない。だから、これはおそらく俺の“過去”なのだろう。


 『…………様、お願いです。生き延びて下さい』


 はっきりと言葉が聞こえた。

 俺は、その真剣な響きに、意識を“彼”に向けた。


 『誰よりも、何よりも生き延びて下さい。私たちにとって、貴方様が生き延びて、生きていることだけが、唯一の“希望”なのです』


 見えない彼の、銀色の髪が目に映った。

 虹色に輝く銀色の髪は、“彼”しか持たない色だ。

 幼い俺の声が聞こえた。


 『…………わかった。だが、そなたも、父上も、母上も、…………も、皆、死なないで欲しい。

 いつか、我は必ず戻ってくる。どれほどの時間が掛かろうとも必ず戻ってくる。約束する。

 だから…………!』

 『御意。我が君よ。…………たとえ、幾年の歳月が過ぎようとも、私は貴方様をお待ちしましょう。成長した我が君に再びお仕えする為に』


 “彼”は、俺に深く一礼する。

 幼い俺も“彼”も、随分と仰々しい。


 『皆様にも、必ずお伝え致しましょう。必ず、………様と再会すると、お約束します』


 そう言った彼は、俺の頬を優しく撫でた。

 幼い俺は、いろいろ我慢していた。本当は泣きたいし、喚きたかった。だが、我が儘を言うことはできないのだと分かっていた。

 自分を護る為に生命を賭けて戦っている人々がいるのだと、幼い俺は理解していた。

 無力な自分が、情けない。


 それは、今の俺と同じ想いだ。

 ルディオスも、カリナも、ユーグも、クロガネも、皆が必死に戦っているのに、1人だけ護られているだけの俺は、今も“昔”も変わらない。


 ーーー………主よ。“力”を望むか?


 ハッとして顔を上げれば、過去の光景は消えて、俺は、1人、暗闇の中に立っていた。


 ーーー………主よ。汝、“力”を望むか?


 「力?」


 呟いた俺の前に、1つの淡く輝く玉が落ちてくる。蒼を帯びた光は眩しくはない。内側から放つような光に、途轍もない力を感じた。


 「…………“ou(オー)”の宝玉……」


 口から零れた言葉に、俺は、疑問を抱くが同時に、その“知識”が一気に流れ込んでくる。


 “ou(オー)の宝玉”ーーー“聖なる存在(セラティア)”が造り出した[楽園(ユートリーア)]たる[統一王国(セピライタ)]にて、至宝とされた7つの宝玉(オーブ)の1つ。

 尊き血筋の王族しか宝玉を宿す“器”になれず、その7つすべての力を宿し、扱えるのは“王”だけだ。


 ouは、すべてを見通す“目”。

 その力の根源は“空”。空間を支配するもの。あらゆるものの本質、場、時間を見ることができる、“全て”を見通し、“見る”=認識することで“存在”を確定させる宝玉だ。


 ーーー……我が主よ。“力”とは、両刃の剣。使い手次第で、世界を救う力にもなれば、世界を滅ぼす力にもなる。

 汝は、“力”に何を求める?


 「俺は、………ただ“護りたい”んだ。俺だけ護られて、皆が傷付くのは嫌だ………」


 ーー……だが、主よ。そなたには、“足りないもの”がある。意志は分かるが、それだけでは何もなし得ない。


 「……足りないもの?」


 力を望むかと問うておいて、“足りないもの”があると窘める“宝玉”なんて、矛盾している。

 だけど、“今”の俺には、確かに“宝玉”の力は扱いきれない、まさに宝の持ち腐れなのは理解している。

 俺は、溜め息をついた。 


 ーーー………主よ。汝は、すでに“力”を得ている。だが、汝の“足りぬもの”を知り、それを得なければ、我の全てを扱うことは叶わず、我は汝を滅ぼす凶器となり果てよう。


 「………え~……と、とどのつまり……?」


 あれ?

 俺は、ふと気付いた。

 あれ?………なんか、俺がもう“ou”の宝玉を手に入れてるみたいな感じになっていないか?

 持っているけど、使えない。

 使いたかったら、宝玉の“試練”を乗り越えろ的な感じだよね、これ?

 だって、宝玉自体が言っちゃってるし。


 俺は、訳が分からなくて疑問符を飛ばす。すると、暗闇の中、ouの宝玉とは違う声が響いた。

 

 ーー………OU(オー)ちゃん、相変わらず主様(あるじさま)に甘いよね。


 ーー……主等(ぬしら)は良いだろーが!既に主様(ぬしさま)と契約済みで、主様の中におるのだから。わしなんぞ、主様と距離が近くなったから、こうして主等と会話できるようになっただけで、数百年、放置状態だったのだぞ? 


 ーー……あー、はいはい。ぼくたちだって、主様(あるじさま)がこちらに渡った事で記憶を失ってしまうなんて、予想外だったもん。まさか、最初にコンタクトしてくるのが“ers(イーアス)”なんて、最悪。


 ーー……なっ………!?“fl(フール)”の馬鹿っ!おぬしなぞ、主様に嫌われてしまえ!


 ーー……ちょっ……!ぼくは、“fool(フール)”じゃない?“fl(エフル)”だ!!


 ーーー……………お前ら、私と主様のファーストコンタクトを台無しにするつもりか?せっかく、カッコ良い感じになってたのに…………


 ……なんだ、これ。


 気付かなかったけど、俺の前に浮かぶ宝玉以外にも、もう1つ白い光の宝玉があった。

 話を聞く限りでは、どうやら、宝玉それぞれに自我というか、意志というか、個性があるようだ。

 そして、“OU”の宝玉のせっかくの“演出?”がぶち壊しになったらしい。


 もう一度言おう。

 なんだ、それは………。


 俺は、呆れた視線を喧嘩する宝玉たち(1つは声のみ)に向けた。

 

 「……それで?」


 ーー……はうっ!?ほれ見ろ!主様に呆れられたじゃないかっ!!


 ーー……あはは、ごめんねー、主様。


 ーー……主等、何やっておるんだ………


 声は3つ。

 低めの男性の声が“OU”。少年らしいボーイソプラノの声が、“fl”。古風な話し方の、若い女性の声が“ers”らしい。

 だが、見える宝玉は2つだ。


 ーー……主様は、“OU”の宝玉である私の力を顕現させた。だが、まだ、今の主様では私を使いこなせないのです。


 「……俺に足りないものがあるから?」


 ーー……それもあります。ですが、今後他の宝玉の力を手にしても、今の主様では、身を滅ぼすことになるでしょう。


 よく分からないが、どうやら、結界のひび割れや真っ黒スライムの核が見えたのは、宝玉の力だっあらしい。

 “見る”に特化してるから、“OU”の力のようだ。

 他のは、俺、何の力があるのか知らないし。


 「………分かった。考えるよ……」


 使いこなせなければ、待っているのは身の破滅だ、ということらしい。

 俺は、思わず息を吐いて、答えた。


 ーー……できれば、わしと会うまでに主様が、“OU”と“fl”の力が扱えるように祈っておるよ。


 ーー……主様がぼくたちを使えなきゃ、“ers”の契約なんて、また数百年先だしねー…


 あれ?なんか、責任重大かも……?

 

 ーー……主様!どうか、頑張って下され!わしは、わしは、また放置状態は嫌じゃぁぁぁっっ!?


 「あー………うん?ど、努力する……」


 “ers”の叫びに、ちょっと面倒臭いと思ったが、言うとマジ泣きされそうなので、俺は、曖昧に返事をした。

 声は女性なのに、話し方が老人みたいだ。さらに言えば、なんか“残念”そうな感じがする。 


 そんなことを考えていたら、意識がストンと落ちた。






 「……………変な夢を見た気がする……」

 『目が覚めたか。シオン、調子はどうだ?』


 仰向けに寝ていたらしい俺を覗き込んだのは、クロガネだった。

 周囲は、すっかり暗くなっている。

 パチパチとはぜる音は焚き火だろうか。見回そうとしたが、身体が酷く怠い。

 ここはどこだろうか? 

 そう思うが、まだ、はっきりしない意識ではうまく思考が定まらない。しかし、こうして野営しているということは、あの野営地では無いのだろう。


 「えっと、俺は………」

 『ふむ。あまり無理はするな。話は、朝になってからでもできる。もう少し眠るがいい』


 ぼんやり知る頭で思い出そうとしたが、クロガネに止められる。

 どうやら、夜でもかなり遅い時間のようだ。


 「…………」


 なんか変な夢を見た。

 多分、自分の“過去”ではないかと思う夢と、あと、なんだっただろうか………?

 再び、睡魔が襲い、俺の思考は途切れ途切れになる。そして、再び、意識は闇に沈んだ。

 今度は、朝まで夢を見ずに眠った。


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