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ワールドRe:トライ・セブンオーブ  作者: 下級魔術師17号
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第22話 退治(5)

 野営地の“守護結界”が壊れた。

 予期していなかった出来事に、ルディオスもカリナも、ユーグも動揺した。


 1人、結界の中に残していたシオンが、一番早くその異常に気付いたらしい。結界が割れ、ルディオスが咄嗟に叫んだときには、シオンは、自分たちから離れるように走っていた。


 (シオンを守らないと………!!)


 その後ろ姿を追おうとしたが、ルディオスの前に遮るかのようにスライムから触手が伸び迫ってくる。


 「……くっ!」


 反射的に後ろに飛び退き触手をかわすと、ルディオスは剣を一閃した。

 バラリと、切られた触手が落ちる。

 そこにカリナの術が滑るように、ルディオスの前に来たスライムの一部を凍らせていく。

 ルディオスは、再び、剣を振り回し一閃させた。

 凍ったそれらは、それであっけなく砕け散る。


 チラッと視線をシオンの方に向ければ、クロガネとユーグが合流していた。


 「クソッ………!」


 ホッとする反面、苛立ちがルディオスの中に生まれ、おもわず舌打ちをする。

 結界が壊れた以上、安全な場所はない。はやくケリを付けなければ、こちらの危険度が高くなるが、未だに決定打に欠けるのだ。

 スライムの弱点は“火”だが、カリナの苦手な属性ゆえに手加減が出来ない。草木の少ない場所ならともかく、何故か、この辺りは草木が多い。下手に使えば、こちらに被害が来る。 

 だから、地道に凍らせて砕き、小さくする形をとってきたのだが、かえって裏目に出たようだ。


 「…チッ!」


 ルディオスに迫る無数の触手。

 ルディオスは、苛立ちの八つ当たりとばかりに切り落としていく。


 「カリナ!」

 「ダメ。…………分からない」


 カリナは、首を横に振る。その顔には、珍しく苛立った色が見られた。

 魔物の“核”は、強い魔力の結晶のようなものだ。ならば、魔物の中の一番魔力の強い部分を見つければ良いのだか、何故か、目の前のスライムは、それが分からないのだ。


 「本当に厄介な……」

 「こんな“魔物”は初めてだわ」


 カリナの傍まで後退したルディオスの呟きに、カリナも同意する。

 今までランクの高い魔物(モンスター)と戦った経験はあるが、こんなに奇妙な魔物は初めてだった。


 「ランク的に“A“辺りかな?」

 「スライムが、か?……だが、確かに厄介すぎる。将来的に“S”でもおかしくはないな」


 冒険者ギルドが定める“S”ランクモンスターは、都市を壊滅させることが可能なレベルだ。

 “A”ランクモンスターは、小規模集落を壊滅させうる可能性を持ち、複数の“B”ランク冒険者により倒せるレベルなので、SとAの差はかなり大きい。

 目の前のスライムは、確かに今の段階では“A”だろう。

 だが、この厄介さは、このまま放置すれば、取り返しの付かない大惨事に変わる可能性が高い。


 「せめて“核”の場所さえ分かれば、な」


 シオンのこともある。

 結界が壊れた今、ユーグから貰った聖属性のアイテムがあっても、かなり辛いはずだ。

 こうなった以上、一刻も早くスライムを倒して移動しなければならない。

 [カラチ平原]は、油断できるような場所ではないのだ。こうしている今にも、野獣や別の魔物が乱入してきても不思議ではない。

 今までは、野営地の守護結界があったから可能だっただけなのだ。


 『シオン!!』


 不意に、クロガネの焦った声がした。

 顔を上げれば、シオンが此方に向かっているのが目に入る。おもわず制止の声を上げようとしたルディオスだが、シオンを目にした瞬間、息を呑んだ。


 シオンの全身から金色の波動(オーラ)が強くキラキラと溢れていた。時々、周囲を無意識に浄化しているのだろう、控えめに金色の輝きが出ているときはあった。たが、その比ではない。

 金色に輝くシオンの髪は鮮やかな青だ。

 根元は黒に近い暗青色から、毛先はきれいな青にグラデーションがかった髪色だったが、今はぜんたいが毛先の色に似た美しい青い髪になっている。

 目も、よく見れば緑を帯びた琥珀色なのだが、今は美しく深みのある金色だ。まるで底光りするかのような瞳は、どこか冷ややかであり、まるで全てを見通しているかのようだ。


 ルディオスは、ゾクリとした。

 

 シオンは、見目は良い青年だが、“美形”というわけではない。どこか幼さが残る人の良い青年だ。

 それが、今は違う。

 神々しくも畏れさえ抱く美しさがあった。

 感情の無い顔は、どこか冷ややかにすら感じる。 何もかもを見通し超越した、怖ろしいまでの“力”を、圧力を感じるのだ。気を抜けば、全身が震え出してしまいそうな威圧感。

 まるで、“人”ではない。


 「これが、[神人(セラティア)]………」


 カリナがポツリと呟く。

 シオンの変化に動揺を隠せない様子に、ルディオスは、自分だけではないのだと少し安堵した。


 シオンの変化に畏れおののいたように動きを止めていたスライムが、一気に、シオンに向かってその触手を動かした。

 それは、まるで恐怖に駆られて迫る獣のような反応だ。

 ルディオスは、その場から飛び出した。


 「シオンっ!!」


 シオンに迫る触手を悉く切り落として、彼を庇うようにその前に立つ。


 「ルディオス」


 自分の前に立ったルディオスを、シオンは見上げた。

 金色の目が全てを見透かすようで、ルディオスは

酷く落ち着かない気分になる。


 「ルディオス、あそこ」


 シオンの指が、スライム本体の一点を指した。もう反対の手がルディオスの腕に触れる。

 そこから、ジワリと温かさが広がった。

 まるで、シオンの金色のオーラがルディオスに伝わり移るかのような感覚だった。

 ルディオスは、シオンが示した方を見る。


 「あそこに赤い光があるんだ。今は止まってるけど、あのスライムのあちこちに動く」

 「……!………“核”か?!」


 シオンの言葉に呟けば、今まで見えなかったスライムの闇色の中に小さくチカリとヒカル赤黒い何かが見えた。

 巨大に似合わず、本当に小さな赤だ。

 一番弱い青スライムの核と大して変わらないような小さな小さな“核”。

 はっきりしなかったそれが、次第にルディオスの目に明確に映しだされた。


 「ルディオス、“あれ”を切って」


 ルディオスの耳にシオンの声が強く響く。

 それは“命令”だった。

 ルディオスは、振り返りシオンを見た。

 その視線は真っすぐにスライム本体に、その“核”に向けられとおり、ルディオスを見ていない。

 明らかにいつものシオンとは違う。


 ルディオスは、一瞬、逡巡した。

 だが、スライムの“核”が見える今がチャンスなのは変わりはしない。

 

 「……シオンはここを動くな」


 言いながら、視線だけをクロガネとユーグに走らせれば、そちらに向かったスライムの一部を撃退している最中だった。

 振り向いたクロガネと視線が合う。

 3メートル近い巨体に似合わず俊敏な黒い獅子は、無数の雷をスライム目掛けて打ち込むとすぐに体をこちらに向けた。

 それを視界の端に認めて、ルディオスは、その場にシオンを残して飛び出した。

 慌てたように伸びてくる触手を交わし、切り落として、真っ直ぐにやや奥にあるスライム本体目掛けて飛び込んでいく。

 真っ直ぐに“核”目掛けて飛び込んでくるルディオスに、焦ったように止まっていた赤い光は、まるで逃げるようにスライム本体の中を移動する。

 それがはっきりと見えた。


 「……チッ!!」


 地面を蹴って、ルディオスは身体の方向(むき)を修正する。

 すでに“核”は見えているのだ。ならば、移動する先を予測するのも容易い。

 どうやらすぐに方向を変えれるほどの器用さは、スライムには無いようだ。おそらく今まで、ここまで追い詰められたことはないのだろう。

 ルディオスは握った大剣の刃先を変えると、大きく振るい上げた。スライム本体の、その身体を一閃する。

 見事に真っ二つに分かれたスライムの分かれた空間に赤い小さな石が飛び出したように浮かんでいた。

 ルディオスは、地面に片足を付けるとすかさず方向転換し、その“核”を狙う。

だが、ルディオスの前に足掻くようにスライムの触手が広がった。


 「………くっ!!」


 ルディオスは、剣を振り回しそれらを一閃するが、そのわずかな時間に、2つに分かれたスライムの身体がくっつき始めて、“核”を再び飲み込もとする。

 スライムの闇色の身体に飲み込まれてしまえば、再び、“核”を見失うだろう。

 ルディオスは、内心、焦った。

 “核”が見えたのは、おそらくシオンの“力”だ。それは、長続きするものではない。だが、スライムの触手に足止めされ、勢いを欠いた今の状況では、ルディオスの剣先も“核”に僅かに届かないし、間に合わない。


 ーー………シュッ!!!


 そのとき、何かが空気を切った。


 「「?!」」


 一瞬だった。

 スライムに飲み込まれようとしていた赤い小さな“核”に銀色の細い矢が貫通していた。

 その場にいた全員が予想外のことに息を呑んだ。


 ーーー……うぎゃぁぁああ……ごおぉぅうああぁぁぁぁぁぁっっっっ………………………!!!!


 声無き絶叫が空気をビリビリと震撼させた。

 その場の空間全体が揺れるかのような衝撃が走った。

 矢に貫通された赤いそれは、ピシピシと音を立ててひび割れ、パシンッ!と弾けた。

 赤い粒子がこぼれ落ち、消えていく。

 それと同時にスライムの身体がみるみるうちに小さくなり、同じように霧散していった。


 「一体なにが………?」


 呆然とカリナが呟く。

 咄嗟に地面に屈んでいたルディオスは立ち上がると、周囲を見回した。

 自分たち以外の気配は感じられない。

 ルディオスは、消えたスライムのいた場所まで歩くと地面に残された銀色の矢を拾い上げる。

 細い矢は、小さな対象を狙うときに使われるものだ。銀製で、おそらくはアンデットなど特殊な魔物に対して使う聖属性が付与された特殊な矢だ。

 矢の中ではかなり貴重で高価なものだろう。

 気配が全く感じられないということは、ルディオスが分かる気配の範囲の外から、あの小さな核を狙って射抜いたことになる。

 それがどれほど困難なことかは、ルディオスにも想像がつく。


 「助けて貰ったと受け取るべき、かな?」


 そばに来たカリナが、ルディオスの握る矢を見て首を傾げた。 


 「さぁな………」


 助けたのに、出てくる気配がないのだ。

 助かったのは有り難いが、本当に味方かどうか分からない以上、警戒する必要があるだろう。

 ルディオスは溜め息をついた。


 「だが、助かったのは事実だ」

 「そうね。………その点は感謝すべきだわ」


 跡形もなく消えたスライムを確認して、カリナは大きく息を吐いた。


 「大分、時間をロスしてしまったわね」

 「仕方がないだろう?」

 「そうね。………でも、こんな魔物が出るなんて、何か起きているのかしら?」

 「ああ……。確か[クーイール]にも冒険者ギルドはあったはずだから、報告だけでもしておこう」

 「そうね。それがいいかも……」


 ルディオスの言葉に、カリナは頷いた。

 ルディオスは、矢を自分の荷物の中にしまうと、シオンを探した。

 

 「シオン!!」


 ユーグに抱き上げられたシオンはぐったりと意識を失っているようだった。

 ルディオスは、慌てて駆け寄る。

 

 『心配ない。おそらく“覚醒”の反動だろう。すぐに目を覚ますはずだ』


 宥めるようにクロガネが口を開いた。


 「覚醒………」

 『うむ。だが、不完全なものだ。シオンはまだ自覚が無いし、自分の意志で“力”をどうこう出来るては思えん。おそらく、あのスライムに生命の危機感を覚えたのだろう。

 無意識にでも、“聖なる存在”としての本能が出たと言うべきだろうな』

 「オー!それは凄いネ!」


 ユーグが、目をきらきらさせて声を上げた。


 「本人に自覚がないなら、あまり騒がない方がいい、かな?特に、そこの似非商人」

 「オー!酷いネ!私は、ちゃんとした商人ヨ?!学者業と商人は別だし、シオンくんに何かするつもりもないヨ。私、正直、誠実がモットーネ!」

 「まぁ、…………そういうことにしておくわ」

 「酷いネ~!疑ってるヨ、この()~!私は本当に裏表無いって言われてるんだ。逆に“あなたはもう少し商人として腹黒くなってください”とかって、言われてるくらいだヨ?!」

 『………いや、それはそれでどうかと思うが………』


 クロガネが呆れたように呟いた。

 ルディオスも同感だと思いつつ、溜め息を吐く。

 人見知りの激しい一面のあるカリナが、ユーグを警戒しているのは薄々分かっていたが、まだ続いていたらしい。

 ルディオスとて、完全に信用しているわけではないが、ユーグの人となりはこの数日で分かったし、それなりに“大人”で頼りにもなることも分かった。

 見た限り、裏切るとかはないだろう。


 「とりあえず、少し休憩したら移動しよう。この辺りは野営地が多い。今日中には他の野営地に着けるはずだ」


 ルディオスは言った。


 「そうね。……ようやく終わったし、疲れた……」

 「とんでもない目にあったネ!」

 『あのスライムを恐れて、この辺りには他の魔物も、野獣もいないようだが、消滅した今、いつ現れるとも分からん。その方がいいだろうな』


 三者三様にルディオスに同意を示し、それぞれが大きく息を吐いた。

 ようやく、終わったのだ。

 まだ、問題はあるし、[カラチ平原]を抜けない限りは警戒を解くことはできないが、それでもここ数日の戦闘に比べれば、ほっとできる。


 休憩の為に、座り込んだルディオスは、意識を失ったままのシオンを見た。

 そのまま眠りに入ったらしく、顔色は悪くない。


 シオンは、正直、“素人”だ。

 戦う術も、自衛の術も持たない町人や村人と同じで、こんな旅や戦闘など初めてなのだろう。

 記憶が無いのは分かっている。

 もし記憶があっても、多分、平和な場所で生きてきたのだろうと推測出来る。

 だから、本当はかなり怖かったはずだ。

 大の大人でも、我を忘れて逃げだしてもおかしくはない状況の中で、泣き言も言わずに留まっていたのだ。

 しかも、人ではなく“聖なる存在”だ。あのスライムをどれほど脅威に感じていたか………。


 「よく頑張ったな、シオン……」


 ルディオスは、眠っているシオンに微笑んで、そっとその頭を撫でた。


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