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ワールドRe:トライ・セブンオーブ  作者: 下級魔術師17号
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第21話 退治(4)

 野営地に足留めされて、さらに2日がたった。

 ルディオスたちが、野営地の外に出て闇色の巨大スライムと対峙すること、数回。

 ユーグから貰った聖石と聖属性が付与された白い外套のおかげか、初日の最悪な体調不良以来、俺は多少気持ち悪くなるだけで済んでいる。

 まぁ、外套の方は、レアで高価な品らしいから、“貸して”貰っているのだが。

 純白の触り心地の良い、滑らかな皮地に、金と緑で草花を刺繍した縁取りの外套は、フードもついており、軽くて着心地も良い。

 かなり良い品だと思う。

 なんか、高位の神官が着ていそうな感じだ。

 男女どちらにも合うデザインだが、絶対に可憐で美人な神官(女性)が着たら似合うはずだ。

 カリナやユーグは、似合っているとか可愛い(は正直いらない)とか褒めてくれたが、あまり似合っていないのは明白だ。

 ちょっと、デザインが可愛すぎる。


 「しかし………」


 俺は、周囲を見回した。

 今回は、クロガネも参戦しているので、俺1人が野営地内で“お留守番”だ。

 最初は、俺1人を残すのに難色を示していたクロガネだったが、スライムが特殊すぎて、手こずるルディオスたちを見て参戦し始めた。

 最初よりは半分ほどまで小さくなったスライムだが、どうやら“学習”する厄介なタイプらしく、カリナの精霊術に対して耐性を付けはじめているらしい。

 まだ、大きさがあるのでスライム全部を凍らせることができないし、闇色なので、体内の核は見つからないしで、決定打に欠けるようだ。


 「せめて、“核”の位置さえ分かれば、か……」


 スライム共通の弱点が、体内にある“核”を物理攻撃で壊すことだ。通常のスライムなら、色が透けており、“核”だけ色が若干異なるので分かりやすいそうだが、対峙するスライムは真っ黒で何も分からない。


 ーーー…………ピキピキピキ………


 かすかに聞こえる音に、俺は顔を上げた。

 昨日辺りから、時々、何かひびが入るような奇妙な音がするのだ。

 

 スライムは、野営地の結界にベたりと纏わりついている。

 結界自体は、目に見えるものでも、触れられるものでもない。だが、こうして“魔物”が入れない様子を見ると、結界があることを実感する。

 ルディオスたちが本気を出せない一因が、スライムが結界を盾にしているからだ。

 カリナが全力でやれば、実はこのスライムを凍らせることは可能性だが、周りへの被害も大きい。なにより、野営地の結界を壊してしまう可能性が高いので、中途半端にしか使えない。

 それは、ルディオスたちも同じらしい。


 スライムが結界に張り付くのは、結界を盾にしているのは当然だが、どうやら、結界内に俺がいることを知っていて狙っているかららしい。

 

 …………つまり、あのスライムは“聖なる存在(おれ)”を美味しく頂ける魔物なのだ。


 いや、滅多にいないって言ったじゃん!!

 

 俺は、ぞぞぞ………と背筋を駈ける悪寒に身体を震わせた。


 ーーー…ピキピキピキ……ビシリ…!


 「ん?」


 何か不穏な音がした気がする。

 俺は、再び周囲を見回した。だが、特に異常はなさそうだ。


 そういや、この音、ルディオスたちが外で戦闘しているときに、よく聞く気がするんだが。

 俺は、嫌な予感に襲われた。


 「あー………うん。ちょっと待て………」


 落ち着け、俺。

 俺は、その場から歩き出す。スライムから離れる方向に、だ。

 結界があるのと、ルディオスたちの様子が心配なのとで、割と近い位置に立っていたのだが、悪い予感がして、なるべく離れる。

 

 ーーー……ピシリ……ピキピキピキ……ビシッ!


 「うん。ひょっとして、かなりヤバいかも……」


 ふと見上げたら、何もないはずの空間に大きなひび割れが走っているのが見えた。

 それは、スライムが張り付いている辺りが一番酷く、ピキピキピキと音を立てながら、だんだん広がっているように見えた。


 これ、どう見ても“結界”だよね?!


 この際、なんでいきなり結界を目視できるようになったかは気にしない。

 気にしない方向で!

 気にしている暇が無いから!!


 『シオン!?』


 スライムから離れるように野営地の中を走り出した俺に、クロガネが気付いたようだ。


 「クロガネ、結界が壊れるっ!!」

 『!?』


 俺の方に駆けてきたクロガネに、俺は叫んだ。

 その声が聞こえたのが、ハッとルディオスが、こちらを振り返ったのが見えた。


 「シオン、逃げろっ!!」


 ルディオスがこちらに向かって叫んだのと、ほぼ同時、どんどん広がっていた空間のひび割れが細かくなり、一気に砕けた。


 パリン!パリン!


 ガラスが割れるような音が響き、キラキラとした粉が降ってくる。

 結界が壊れたのだ。

 闇色のスライムが野営地内に雪崩れ込み、その一部が物凄い速さで、俺に迫ってきた。

 その勢いに、俺は、足を止めてしまう。


 「………っ!!?」

 『シオン!!』


 おもわず、身構えて目を瞑った俺の前に、大きな影が飛び込んでくる。

 スライムの音無き悲鳴が、空間を震わせた。

 そのおぞましい気配に、俺は、足の力が抜けそうになる。一気に押し寄せる悪寒に、身体が震えた。


 『大丈夫か?シオン』

 「クロガネ……、だ、大丈夫……」


 目の前には、俺を庇うように獅子の姿のクロガネがいた。

 どうやら、クロガネがスライムを撃退してくれたらしい。


 『しかし、マズいことになった』 

 「でも、結界が無くなったから、ルディオスたちは全力で戦える」

 『だが、シオンに危険が大きい。我から離れるな、シオン』

 「離れる気はないけど、背中には乗らない」


 こんな状態で乗ったら、また、シェイク地獄を味わう羽目になる。


 「オー!こりゃ、ヤバいネ!」


 いつの間にか、自分の大きなリュックを背負ったユーグが、魔法銃を片手にこちらに駆けてきた。


 「シオンくん、大丈夫かい?」

 「あ、はい……。なんとか……」


 気分は最悪だが、吐き気や頭痛が出てきているわけではない。背筋を駈け上がる悪寒や気を抜くと全身が脱力感に襲われ、震えが止まらなくなるが、最初のときの症状よりはマシだ。

 俺は、キッと気合いを入れて、気を引き締めた。 


 野営地に入り込んできたスライムは、予想以上に大きかった。これでも、ルディオスたちが半分近くまで削ったのだ。しかも、丸い形ではなく、アメーバのようにグニャグニャしている。

 勢い込んできたスライムは、その一部を触手のように伸ばす。無数の触手を、ルディオスが手にした大剣を一閃させ、切り飛ばした。

 その間に、カリナが、精霊術でスライムを凍らせる。威力が増したように見える術は、スライムを凍らせるが、全体までは及ばすに押し返されているように見える。パキパキ……と完全に凍り付いた一部を、ルディオスがすかさず破壊する。

 流れるようなコンビネーションだ。


 だが、その別方向にあるスライムの一部がこちらに迫ってくる。


 『ふん!』

 「ありゃりゃ、器用だネ!」


 俺の前にでたクロガネから無数の雷が、スライム目掛けて放たれる。同時に、ユーグが魔法銃を構えて放った。

 ボール大の火の玉が、スライムにぶつかり派手に炸裂する。すると、スライムが音無き声を轟かせ、空気を震わせた。向かってきていた一部が怖れるかのように後退した。


 「スライムってのは、火に弱いネ!」

 『だが、ここまでデカいと凍らせて砕くのも有効ではあるな』

 「へ、へぇー………」


 俺は、スライムを見た。

 ルディオスとカリナの見事なコンビネーションで、少しずつ削られているが、長時間掛ければ、2人が疲れてしまう。

 しかも、野営地を覆っていた“守護結界”は壊れてしまった。つまり、安全な場が無くなったのだ。

 早く決着を付けなければ、かなりヤバい状況なのは明白だ。


 「厄介なことになったネ!」

 『うむ。…………せめて“核”が分かればよいのだがな………』


 “核”?

 ああ、“魔物(スライム)”の核か。


 俺は、スライムを見る。

 結界のひび割れを見た辺りから、スライムの中に時々、赤い光が見え隠れするんだが、………………………まさかね?

 うん、いや、だって、……………ねぇ。

 今も見えてるんだが、けっこう小さな光だ。あの巨体には似合わないほど小さな赤い光。

 あれが“核”ってわけは、無い………よな?


 『………シオン。そなた………』


 俺が、スライムを凝視していると、クロガネが俺を見て、なにやら驚いたように呟いた。


 「シオンくん、ひょっとして何か見えてるのかい?」 

 「…………いや、なんかスライムの中に赤い光があるんだけど………」

 『……“結界”が壊れたからか?』


 なにやら思案げに呟くクロガネ。

 うーん、あれ、動いているのか?どうりで、分かりにくいわけだ。


 「俺、ルディオスの所に行ってくる!」


 俺は、スライムの中の赤い光を見つめながら、そう言って走り出した。

 何故か、気分の悪さも脱力感もなくなっている。体調不良が治っていることに、そのとき、俺は気付かなかった。ただ、闇色のスライムの中に動く、赤い小さな輝きが気になって仕方がなかった。


 ーー……あれを無くさないといけない。


 でなければ、あの“闇”は、そう遠くない未来に全てを飲み込む“存在(もの)“になるだろう。

 まだ、“小さい”、今のうちに倒すべきだ。


 自分なのか、誰かが囁いているのか。

 そんな考えが確信と共に頭を過ぎる。今、ここであれを消滅させなければならない。

 そんな使命感で頭が一杯になる。

 

 だから、俺は自分の行動に躊躇いがなかった。

 普通なら、ルディオスたちの足手纏いになると、クロガネかユーグに頼んだり、もっと冷静な判断を下せただろう。俺自身に攻撃する力も、自分自身を守る力もない無力さは、俺が一番理解しているのだ。

 だが、そのときは、そんなこと考えなかった。

 何かに突き動かされるかのように、自分の内側から強い力が吹き出す感じに、巨体なスライムを怖れる気持ちもなかった。

 負けるはずがない。

 それまでの体調不良とは一変した“無敵感”。

 ここでスライムを倒す使命感と奇妙な自信に、俺は、一杯になっていたのだ。


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