表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マッチングアプリで出会った彼女は既婚者だった  作者: pist


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/25

第13章 違和感

秋の風が少しずつ冷たくなり始めていた。


健一と由香が出会ってから半年以上が過ぎていた。


二人は以前よりも頻繁に連絡を取り合うようになっていた。


朝起きて「おはよう」。


昼休みに「今日は忙しいですね」。


夜になれば「お疲れさま」。


それはもはや習慣だった。


健一にとって由香とのやり取りは、一日の中で最も楽しみな時間になっていた。


由香も同じだった。


しかし、その変化は本人たちだけでなく、周囲にも少しずつ伝わり始めていた。



ある日の夕食。


由香は夫の拓也と向かい合って食事をしていた。


テレビではバラエティ番組が流れている。


いつもと変わらない夜だった。


しかし拓也はふと気になった。


最近、由香がよくスマートフォンを見る。


以前はそこまでではなかった。


食事中。


ソファに座っている時。


寝る前。


通知が鳴るたびに画面を確認している。


そして時々、嬉しそうに微笑む。


「最近、何かいいことあった?」


拓也が何気なく聞いた。


由香は一瞬だけ表情を曇らせた。


「え?」


「なんか機嫌いいからさ」


「そうかな」


「うん」


由香は笑顔を作った。


「別に何もないよ」


嘘ではない。


そう思いたかった。


しかし胸の奥が少し痛んだ。



その頃、健一もまた変化を感じていた。


由香との関係が深まるほど、不安も大きくなっていた。


会える日は嬉しい。


だが会えない日は落ち着かない。


メッセージの返信が遅いだけで気になってしまう。


以前の自分では考えられないことだった。


ある日、由香から連絡が来た。


『今日は少し返信遅くなるかもしれません』


『どうしたんですか?』


『夫と食事に行くことになって』


その文章を見た瞬間、健一の胸に小さな痛みが走った。


当たり前のことだ。


由香は既婚者。


夫婦で食事をすることに何の不思議もない。


頭では理解している。


それでも心は違った。


自分でも認めたくない感情が少しずつ大きくなっていた。



数日後。


二人は都内のカフェで会っていた。


窓際の席。


コーヒーの香りが漂う。


由香はどこか疲れた表情をしていた。


「大丈夫ですか?」


健一が聞く。


由香は苦笑した。


「最近ちょっと」


「何かありました?」


「夫が変なんです」


健一の心臓が一瞬止まったような気がした。


「変?」


「なんか私のことをよく見てるんです」


由香はコーヒーカップを両手で包む。


「スマホ見てると気にするし、誰と連絡してるのか聞いてくるし」


健一は言葉を失った。


ついに来たのかもしれない。


そう思った。



由香の夫・拓也は確信こそ持っていなかった。


だが違和感は日に日に大きくなっていた。


以前の由香は家で笑うことが少なかった。


ところが最近は違う。


どこか楽しそうなのだ。


それは悪いことではない。


むしろ喜ぶべきことかもしれない。


しかし夫婦でいる時に見せる笑顔とは少し違う気がした。


ある夜。


由香が風呂に入っている間、リビングのテーブルにスマートフォンが置かれていた。


通知が表示される。


名前は見えない。


だがメッセージアプリだった。


拓也は視線を向ける。


手を伸ばしかける。


しかしやめた。


そこまでして確認したくはなかった。


信じたい気持ちもあったからだ。



一方で由香も危機感を抱いていた。


帰宅後のメッセージを減らす。


通知を非表示にする。


スマートフォンを手放さない。


そんな行動が増えていた。


だが、その行動こそが不自然さを生んでいた。


ある晩。


由香は健一にメッセージを送る。


『少し気を付けた方がいいかもしれません』


数分後に返信が来た。


『何かあったんですか?』


『まだ大丈夫だと思います。でも少し疑われている気がします』


健一は画面を見つめた。


ついに現実が近づいている。


そんな予感がした。



その夜、健一はなかなか眠れなかった。


由香との思い出が頭を巡る。


初めて会った日。


海へ行った休日。


何気ないメッセージ。


笑顔。


声。


すべてが大切になりすぎていた。


失いたくない。


そう思う自分がいる。


しかし同時に理解していた。


この関係は危うい均衡の上に成り立っている。


少しでもバランスを崩せば、すべてが壊れてしまう。


その時はまだ誰も知らなかった。


終わりの始まりが、すぐそこまで来ていることを。


そして数週間後。


二人が最も恐れていた日が訪れることを――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ