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第12章 由香の涙
九月。
二人は小さなレストランで食事をしていた。
その日はどこか由香の様子がおかしかった。
笑顔が少ない。
会話も上の空だった。
「何かあったんですか?」
由香はしばらく黙っていた。
やがて目を伏せる。
「夫と喧嘩しました」
静かな声だった。
「将来のことです」
子供。
仕事。
住む場所。
価値観。
少しずつ積み重なっていた違いが表面化したらしい。
由香は続けた。
「私、最近ずっと考えてるんです」
健一は黙って聞く。
「このままの人生でいいのかなって」
そして由香の目に涙が浮かんだ。
「私も離婚を考えています」
健一は言葉を失った。
自分だけではなかった。
由香も同じ場所で悩んでいた。
同じ未来を想像していた。
その事実が嬉しくもあり、恐ろしくもあった。




