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第10章 もし独身だったら
八月の終わり。
夕暮れの公園を二人で歩いていた。
昼間の暑さが少し和らぎ、風が心地よい。
ベンチに腰掛けると、由香が空を見上げた。
「不思議ですよね」
「何がですか?」
「健一さんとは、もっと前から知り合いだった気がするんです」
健一は苦笑した。
自分も同じことを何度も思っていた。
沈黙が流れる。
やがて由香が小さな声で言った。
「もし私たちが独身だったら、どうなってたと思います?」
健一は息を飲んだ。
聞いてはいけない質問。
考えてはいけない未来。
それでも答えは一つしかなかった。
「たぶん……好きになっていたと思います」
由香は何も言わなかった。
ただ静かに微笑んだ。
その横顔が、健一の心に深く刻まれた。




