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異皇国大戦  作者: 鹿尾菜
12/13

特型駆逐艦

「やれやれ今度は駆逐艦か」

ワシントン軍縮条約が締結してしばらくの合間、大型艦を主に設計していた結月は戦艦長門の時とは打って変わって恐ろしく暇な状態を過ごしていた。無論完全に暇だったわけではなく彼は彼なりに技術習得や小旅行と称して趣味の鉄道乗車で心を癒していたのだが、そんな彼にもようやく仕事が回ってきた。

しかしそれは以前のような大型艦ではなく、数の上で主力を張ることとなる駆逐艦の設計であった。


しかし駆逐艦だからと言って手を抜いて良いわけでもなくむしろ彼にとっては駆逐艦の設計こそ腕の見せ所だと思っていた。


そんな彼が新たに与えられた自らの机で駆逐艦の案を捻り出していると、部屋にひとりの男性が入ってきた。


「藤元菊郎技師‼︎」

それはこの部屋に集められた技師達をまとめ上げる甲型駆逐艦主任設計技師の藤本中佐だった。

「私が甲型駆逐艦の主任技師に抜擢された。諸君よろしく頼む」


部屋にいるのは結月を合わせて四人。全員が敬礼をし、藤本中佐との打ち合わせが始まった。


「それで次世代駆逐艦の案はあるかね?」



海軍から提示されている要求書では次世代として大型の駆逐艦、小型の護衛駆逐艦の二種類があった。

このため八八艦隊計画で建造されていた睦月型駆逐艦も12隻で建造を取りやめている。

このうち大型駆逐艦は要求として排水量2000t以内、砲数6門ないしは4門。魚雷6発。

速力としては34kn以上とし航続距離6000海里を目指す。

そのような野心的なものだった。

「速力と航続距離の確保を考えるのであれば現在開発中の新型ロ号艦本式高圧水管と主機を使用するべきでしょう」

真っ先に意見を述べたのは睦月型駆逐艦の機関部を設計した古藤野技師だった。

現在開発中の高圧缶は睦月型でも使用されていたロ号艦本式缶(空気余熱器付)をベースとし発生する蒸気圧力を24kg/平方cm、蒸気温度300度まで向上させたものであり現状開発は順調に行われていた。

これらはライヒ帝国から賠償金の代わりに持ち出したいくつもの研究資料や機械設計器具など多岐にわたる技術の強奪により皇国全体で工業技術力の向上が行われた副産物であった。


「でしたら雷装は53cm魚雷に統一すべきかと。睦月型で計画されていた61cmは量産性の悪化を招きますし威力向上は装填炸薬の性能向上で十分果たせます」

そして重量軽減と共に射線数を確保しやすく命中率の改善に役立つ。結月はそのように考えていた。

事実睦月型の建造の際に計画されていた61cmの大型水上魚雷は試作として製造したものでも1発当たりの重量が2.7tであった。それに対して神風型まで搭載し、睦月でも採用された直径53.3cmの魚雷であれば最新型のものであっても重量は1.6tと1t以上軽い。当然搭載炸薬は少なくなるが、それでも現在開発中の新型空気魚雷では炸薬量が61cmのものと同等になる上に射程、雷速の向上が図られているため問題とはなっていなかった。

また水雷戦で必要となる一隻あたりの魚雷数は9〜8本とされていた。

61cmにする場合9本なら24.3tとなる。一方53.3cmであれば重量は9本で14.4t、12本積んでも19.2tとかなり軽くなる。




「逆に砲火力は小型艦では砲塔の方が速射性の確保をしやすいですが重量が増加してしまいます。ここは無理をせず砲架とするべきですし将来的に砲の換装が計画されても対応できるように空間に余裕を持たせるべきでしょう。なので多くても5門か4門。連装砲架と単装砲架で5門がよろしいかと」



「外洋航行や長期間の遠征活動を行うのでしたら睦月型12番艦夕月と同じく艦橋は閉鎖式とするべきです」



「現状をまとめると12.7cm砲を連装砲架で2基単装で1基、魚雷は53cmを4連装で3基、そのほか爆雷などの対潜兵装を搭載しつつ睦月型を発展させた大型艦橋か。流石にトップヘビーか重量超過しそうだが」

その上で長期間の作戦行動と航続距離を確保する必要があり、居住性を確保するとなれば2000tに収めるにはやや難しかった。

事実結月が手前で計算した総重量は明らかに2000tを超えてしまうものだった。

となればここから軽量化を行わなければならない。


「船体をリベット止めから電気溶接にすればどうでしょうか?ライヒ帝国での研究資料では電気溶接の方がリベットより重量を抑えられますし強度においてもリベット破損によるつなぎ目浸水は起こりません」

結月が電気溶接工法を話したのはなにも思いつきだからではなかった。

彼が担当することになっていた八八艦隊計画の戦艦には陸奥以降に電気溶接を採用し防御力と重量の軽減を図る予定があった。

そのため彼自身は電気溶接の内情を知るべく工廠を幾度となく訪れては溶接のメリットとデメリット、特徴、癖などを調べ上げていた。

その情報は巡洋艦設計に生かされる予定であったがそちらも建造計画が白紙となったため持て余していたのだ。

そのため電気溶接は現在民間船舶での使用を行い民間での技術習得を進めていた。

「それと発電関係ですが、現在使用している直流電源ではなく交流電源とするのはどうでしょう。交流化で電気設備の重量、容積共に小さくできますし耐久性・メンテナンス性も向上するとライヒ帝国の論文では書いてありました」


「ならばその方向で設計をしてみよう。船体は……そうだな艦内体積を確保する必要がある。長船首楼を第一魚雷発射管付近まで伸ばした設計はどうだろう」


「おそらく問題ないかと、しかし構造物の重量が増して転覆しやすくなるのは避けなければなりません。艦橋を大型化するにしても精々が艦橋の閉鎖密閉が限度かと」

睦月型では天幕を貼ることで対処していたがそれでも元々は露天となっており艦橋要員は吹きっさらしとなっていた。その上駆逐艦の大きさでは容易に波が艦橋までかかる事が多く長期間の運用では衛生面も環境面でも劣悪となりやすかった。


外洋航行が長くなり長期間の運用すら行うようになり始めた現在のドクトリンでは露天艦橋は足枷とならざるおえなかった。

しかしだからといって強化すれば重量が嵩み、特に上部重量が上がればトップヘビーを招くことになる。その上軽量化は船体の剛性にも影響がある。波で艦首が破断する事故は最近ではめっきり聞かなくなったが十年前の駆逐艇ではよく聞く話だった。


そう言った様々な制約をどうにかやりくりすること一週間。

新堀の元に次期駆逐艦の詳細が届くことになる。








「ふむ、これが次世代駆逐艦か。また随分と大型化したものだ。それに……どうやら十分な拡張性を持たせているらしいな」

送られてきた時期大型駆逐艦の仕様書と簡易設計書を見つつ新堀は海軍局広報部部長にそう言った。

「拡張性ですか?そのような記述はありませんが」

同じ書類を確認しているはずの彼は新堀の言葉に首を傾げた。

「将来的に対空機銃を多数搭載する事を見込んでいるのだよ。よく見たまえ、この煙突横の通路配置、艦内の準備室群そして機関銃への弾薬補充の通路配置」


「なるほど、気づきませんでした」

そう言われて設計書の艦内構図を見ると確かに装備を整えた場合機銃弾薬庫として使用できる部屋がいくつかあることに気がついた。

「だろうな。しかし…ここまでの性能は各国から見たら真っ先に軍縮の対象にされそうだ」



「となりますと?」


「良いかい。現在の連合王国と合衆国の船舶建造は概ね巡洋艦に集中している。向こうから入ってくる情報では条約型巡洋艦で主力艦を補助しようとしている。反対にそれらの整備に集中しているため駆逐艦の設計はあまり行われていない。特に合衆国は世界大戦の時に大量に増備した駆逐艦があるからしばらくはそれらを運用し続ける必要がある。まだ艦齢は残っているはずだ」

合衆国の駆逐艦は世界大戦開戦初期の頃に設計されたものを量産性を向上させるために兵装を若干改装したのみで生産していた。

それらは連合王国に多くが送られていたが半数以上は合衆国海軍所属として現在も数の上での駆逐艦の主力だった。

しかしその性能はお世辞にも現在の戦力と合致するものではなかった。

「なるほど、それで駆逐艦を一国だけ高性能化させれば次の軍縮を呼ぶだけでなく世界的に見ても出る杭は打たれると」


「それだけでなくもっと強い制限がかかるかもしれない。ただでさえ戦艦の数でこっちは合衆国に大きく妥協しているからこれ以上は国内の軍拡派遠抑えきれなくなるだろうし過度な軍縮はこちらが不利だ」

現在引退させた戦艦榛名、比叡はそれぞれ武装を撤去し装甲板を撤去、さらに隔壁まで撤去しつつ特殊船として改造していた。


「ならどうするべきと?」



「いつも通り公表する数値を抑える。それと2番砲と3番魚雷発射管は建造時には搭載せず後日装備とする。これでいくらか誤魔化せるはずだ」


「武装を後日装備?」

その言葉に彼は首を傾げた。

「極秘だがな。だがこうすればまあなんとかなるだろう。とりあえず当面はベニヤ板を貼って艦構造物のようにしておけばよい」


「確かにそうすれば武装としても従来艦と大差ないと捉えられますね」

事実魚雷数も砲数も睦月型と同じものとなる。

「そうすれば自然とサイズも抑えられる。1700t級駆逐艦と公表するように掛け合うか」



こうして吹雪型駆逐艦と命名されることとなった駆逐艦は一部武装を後日装備とし偽りの姿で誕生する事となった。

その姿は確かに砲を閉鎖式の砲架に纏めているところが革新的であったが兵装自体は従来と変わらない駆逐艦という評価に収まる事となった。

さらにこの時期合衆国と連合王国間での巡洋艦建造が加熱しており皇国の駆逐艦を調べることにリソースを費やせなかったというのも追い風となった。

しかしこの吹雪型は以降の皇国の駆逐艦に大きな影響を与えることとなる。しかしそれをおいても当時の人々はその駆逐艦の事を気にする余裕はどこの国を見渡しても居なかった。

計画が決定し一番艦の建造が開始されたその一週間後、皇国の関東一帯を巨大地震が襲った。




第35号甲型駆逐艦


後に吹雪型駆逐艦と呼ばれる一等駆逐艦。

基本設計から一新した当時最大級の大型駆逐艦であり、そのサイズは当時の欧州の嚮導駆逐艦に匹敵するものであった。

しかし就航時は大型化、高性能化を欺瞞するため一部兵装の後日装備と積載燃料等の調整により通達時の基準排水量は1400t級と前級の睦月型と大差ない排水量と兵装を持つ艦とされていた。

後のロンドン軍縮会議では2000t級駆逐艦の建造枠が制限される中議題にすら上がらず条約の制限すら課されなかった。

排水量欺瞞は徹底しており武装撤去だけでなく喫水下の赤色塗装も本来の位置よりやや下にしておくなど徹底されていた。


船体

全長118m、全幅10.36m、基準排水量1680t、満水時排水量2140t


長船首楼型の船体で乾舷を大きく取り、艦首には急激なシアをつけ乾舷の高さは最大で6.6mとした。

さらに強いフレアを付け波切りを良くし荒れる外洋でも長期間の運用と高速化を達成している。

また艦橋は睦月型と同じ高さながら幅を広く取り完全クローズの箱型艦橋とし上部に2m測距儀と一四式方位盤二型を備えた射撃指揮所を設けている。

マストと煙突が2本と後の皇国駆逐艦の大まかな形態がこの時点で完成していた。

また後日装備となった2番砲と3番魚雷発射管の位置はベニヤ板で基部を隠し船体色で塗装しており装備を取り付ける際はこのベニヤを取り外すことで改装にかかる時間を大幅に短縮している。


武装


本来は新開発の三年式12.7cm砲を採用する予定であったが予算削減や後日換装する事とし睦月型まで採用されていた三年式12cm砲を連装砲架、単装砲架として搭載している。

砲架であるが砲塔と同じく防楯で囲われた砲室を持つものとされた。

ただし2番砲に当たる単装砲架に関しては後日装備とされた。


主兵装の雷装は53.3cm魚雷を搭載する。これは潜水艦で採用された大きさと同じものであり魚雷の量産性を考慮した結果であった。

また当初から酸素魚雷の搭載を前提としていたが酸素魚雷の開発が間に合わず5番艦までは通常の空気魚雷を使用していた。

魚雷発射管は四連装を三基12発と射線を稼いでいる。ただし3番魚雷発射管は後日装備となったためそれまでは四連装二基8発となっている。

予備魚雷は12発とされている。


対空機銃として7.7mm単装機銃を2基搭載しているが射撃指揮装置などは搭載しておらず対空戦闘能力は就役時は低かった。


対潜装備として連合王国より輸入しライセンス生産を行なっている八一式投射機 2基を装備開いていたが4番艦以降新型の八四式爆雷投射機を搭載しており後日の改装によって一番から3番艦も変更となっている。




機関

主機は艦本式ギアード・タービン2基を搭載し1基につき高圧・低圧・単式タービンが1台ずつと言う設計だった。また主機が収まる機械室は防御のため左右の2室に分け、その後部に補機室を設けていた。しかしこの方式は浸水時に艦の傾斜が増すことになり、その後の駆逐艦では採用されなかった。

主缶(はロ号艦本式重油専焼缶4基を搭載し、過熱器を搭載し蒸気は圧力24kg/平方cmとした。

缶室吸気口はお椀型とし、燃焼用空気を煙突の隙間から取り入れる方法を採用した。

また皇国海軍では初めて艦内電力を交流としておりで電気設備の重量・容積が共に小さくなった。重量比では睦月型から25%減少したと言われる。


これらにより吹雪型は機関出力51300shpを持っており外洋での試験航行でも速力40.2kt、内海の試験では42ktと圧倒的な速力を持っていた。

これは装備の一部を搭載していなかったためとされているが装備搭載を行い対空兵装を強化してからも36.2ktを出していたことから優秀な速力を持っているといえる。

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