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ニケ ー猫の時代ー  作者: 森島小夜
第二章
39/42

魔法猫ニケとイライザ──六年前──(3)

 白い雲にすっぽりとおおわれた青い空の下を、いつもの様にロビン少年は草むらへと向かって歩いていた。そこでロビンは、子猫に寄り添う様にして、亡くなっているニケを見つけた。


 「ニケ?ニケ寝てるの?」

ロビンは胸騒ぎを覚えた。

「ねぇニケ......起きてよ......ニケ」


 ニケーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ

ロビンの悲痛な叫び声は、風に乗って、イライザの城まで運ばれていった。

ロビンは泣いた。

ニケを想って泣いた。

ロビンは涙を流し続けた。

ニケの子供たちがロビンの足元に擦り寄って悲しげな声で鳴いた。


 イライザは、城の窓から身を乗り出すと「ニケが......死んだ......」と呟き、手で顔をおおって泣き崩れた。


  ......ニケ......

  ニケ......ニケ......

  あの雲はニケにそっくりね。

  どれ、どれ、どの雲のことを言っておる?

  私にはどの雲も同じに見えるぞ。

  もっと上のほうよ。ニケもっと顔を上げて。

  イライザはニケを腕に抱き抱えると

  空に向かって高々と持ち上げた。

  ほら、こうしたらニケにも見えるでしょ。

  ねぇニケ......ニケ......ニケ......


  ニケは............千年の時を生きた魔法猫は......ニケは......今死んだ............。


 ────ニケが死んだ────


 ロビンはニケを両腕に抱きかかえると、城へ向かって駆け出した。

ロビンが閉ざされた城の門を押し開けて、庭に飛びこむと、そこには──

城の庭には緑の葉が生い茂り、小さな花達が咲きほこり、木いちごの葉が風に揺れていた。

そして────イライザは

城のすぐ近くに植えられた、バラの繁みの下で眠る様に横たわっていた。

ロビンはその場に、茫然と立ち尽くした......



 ロビンの真上で、小鳥たちの囀る声が響いた。ロビンは空を見上げて、小鳥たちの姿を捜した後、腕に抱えたニケを見た。

そして、バラの繁みの下で眠る様にして横たわるイライザの元へ向かった。

バラの繁みの下で、眠っているかの様なイライザの横顔はとても美しかった。

ロビンは、バラの繁みの下で横たわるイライザの側に、ニケをそっと下ろした。

「ニケ......イライザが死んだよ......」

ロビンの目は、悲しみの涙でいっぱいになり溢れだした。

「イライザ......」ロビンはイライザの名前を呼んだ。イライザが突然目を開けて「ロビンまたないてるのか。お前は泣き虫だな」と言いだしそうな気がしたからだ。

  イライザが死んだ

  ニケが死んだ

ロビンは、イライザを想って泣いた。

ロビンは、ニケを想って泣いた。

ふたりのことを想って泣いた。


 ニケとイライザの死を感じとったサファイアは、遠くからふたりのことを想って泣いた。

「ロビン......猫だって......泣くことがあるんだよ。悲しすぎて、胸が押しつぶされそうな想いを抱えきれなくなった時、そんな時猫は涙を流すんだ......」

サファイアは、ロビンの悲しみを感じとって一声鳴くと、体中を震わせた。

......猫だって......愛する人達のことを想って涙を流すんだよ......。

ロビンはサファイアの声にならない叫びを聞いた気がして、森へ視線を走らせた。

「サファイア......!帰ってきてよ。ニケが......イライザが......死んじゃった......」

ロビンは、泣きながらイライザの美しい髪に、そっと触れた。

イライザの金色の髪が、ロビンに触れられ風に揺れた。ロビンは、イライザの頬に触れた。イライザの頬に、ロビンの涙が落ちた。

ロビンは、突然イライザの体にうつ伏すと、声を上げて泣きじゃくった。

城に住むサファイアの子供たちが、イライザの死を悲しむあまり、悲痛な叫び声を上げた。

猫たちは、イライザとニケを取り囲み、悲しみの声を上げ続けた。


 その頃ロビンの母親は、言いようのない不安を覚えて、イライザからもらった目に手を触れた。

「イライザに何かあったのかしら......」

ロビンの母親は家を出て、庭に立ち、空を見上げた。この場所からなら、森を背にして建つイライザの城が見えるはず......。

ロビンの母親は恐る恐る目を開けた。

ロビンの母親が最初に目にしたものは、イライザの城ではなく、イライザとニケの亡きがらに、うつ伏しながら泣きじゃくるロビンの姿だった。

ロビンの母親は、恐怖のあまり悲鳴を上げた。

ロビンの母親は、右手で胸をおさえると、気持ちを落ち着かせる為、深々と息を吐いた。

そしてもう一度、目を開けてイライザの城を見た。そこには、イライザの城が建っていた。ロビンの母親は歓喜の声を漏らした。

目からは涙が、にじみ出ていた。

「ああ......なんてこと......イライザとニケが死んだのね......」

ロビンの母親は震える声でいった。

「急いで城に向かわなければ......」

ロビンの母親は、上着をはおる間もなく、独りぼっちで泣いているロビンの元へと急いだ。


 一方、サファイアは、泣きじゃくるロビンの側に立ち「ロビンは泣き虫だね」といった。ロビンがイライザの体から顔を上げた。

「サファイア......イライザが死んだよ......。ニケも死んだよ......」

サファイアは、ロビンの目から流れ落ちる涙を、長い舌を使って舐めた。サファイアはふさふさしたしっぽを、自慢気にピンと立てながら「ロビン君はイライザと母さんにお別れを言ったの?はやくしないと、魂が空へと連れていかれちゃうよ」といった。

ロビンは驚いて、サファイアと一緒に空を見上げた。その後で、サファイアはイライザの顔を舐め始めた。サファイアは、イライザの顔を、まるで毛づくろいするかの様に舐めると、次はニケの体を舐め始めた。

サファイアは長い舌を使って、器用にニケの体を舐め終わると、悲しげな声で、一声鳴いた。サファイアの鳴き声を合図に、ニケとイライザを取り囲んでいた猫たちは、次々と離れていった。

ニケとイライザの側には、ロビンとサファイアだけが取り残された。サファイアは突然羽を広げると、空高く飛び上がった。

「サファイア!」ロビンは思わず叫んだ。

サファイアは大きな翼を広げて、ニケとイライザの回りを一周すると、そのまま森へ向かって飛んで行った。

「サファイア......どこへ行くの?サファイア......行かないで......。サファイアーーーーッ」

ロビンは、声の限りにサファイアの名前を叫んだ。


「ロビン!」

ロビンは、母親の声に後ろを振り向いた。

「母さん......」

ロビンは母親の元へ駆け寄った。ロビンの母親は何も言わずに、ロビンを両腕で抱きしめた。

「......母さん......目が見える様になったんだね」

「ええ......そうよロビン。イライザとニケは......亡くなったのね......」

ロビンは母親の腕から体を離すと「母さん......ニケとイライザの所へ来て......」といった。

ニケとイライザは、バラの繁みの下に寄り添うようにいた。

「ロビン......貴方の友達は......ニケは猫だったの?」と母親はいった。

「うん......そうだよ母さん......嘘ついててごめんね」ロビンは、うつむいたままで言った。ロビンの母親は黙って(かぶり)をふった。

ロビンの母親はイライザの亡きがらに顔を近づけて両目にそっと、くちびるを押しあて、涙を流した。

「......イライザ......ありがとう。貴女の魔法で私の両目は光を取り戻せたわ......。できることなら、この両目で貴女の、美しい顔を一目見てみたかった......生きている貴女の顔を......」

「母さん......」

ロビンは、母親の側に立ち、そっと肩に触れた。ロビンの母親は、その手に優しく触れた。

ロビンの母親と、ロビンはふたりの為に庭中の花を集めて、亡骸を花で飾った。


 その頃、画廊の男は、イライザが店を訪れたその日の内に、ロビン親子が城を相続出来るよう書類を作り、てきぱきと準備を整えてイライザと会う約束をした城へ向かって歩いていた。昔、画廊の男はイライザの顔見たさに城へ出向いたことがあった。

けれど、城は画廊の男を拒絶した。なのに今は......どんどん城が近づいてきている。画廊の男は、胸騒ぎを覚えた。

画廊の男は、イライザの名前を呼びながら城の庭へ足を踏み入れた。

イライザが死んだ今、城の結界はとけ『城』は画廊の男を拒絶することはなかった。


 バラの繁みの下で、沢山の花で飾られたイライザを目にした画廊の男は、転がる様にしてロビン親子の側に寄ってきた。

画廊の男は、ニケと寄り添うようにして横たわるイライザの側で、人目もはばからず泣きだした。

「イライザ......イライザ......」

「......貴方は」ロビンの母親がいった。

画廊の男はひとしきり泣いた後、腫れて赤くなった目を、ロビンの母親に向けた。

「私は......イライザに頼まれて......イライザはこの城の全てをロビン少年に譲られました。この城は、あなた達親子のものです......あなた達に会ったら、この城はあなた達のものだと伝えてくれと、イライザは私に言いました。この書類に、後で目を通しておいてください......私から詳しい話を、するべきなのでしょうが......今はとても、そんな気分ではありませんので......」と言って書類の入った封筒を、ロビンの母親に渡した。


 「私は......イライザの為に、出来る限りのことをしてあげたいと思っています。後のことは私が全て手配しますので......しばらくイライザと、ふたりっきりにしてもらえないでしょうか」

ロビンの母親は、ロビンの小さな肩を抱きかかえる様にして、男の側から離れた。


 画廊の男はイライザの前にかがみこんだ。男の肩が小刻みに震えているのが見えた。ロビンは空を見上げて、独りぼっちになってしまったサファイアのことを想った。

サファイア......どこにいるの?

ぼくの所へ、戻って来てサファイア......。

......サファイア......。






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