心濃い目、混沌マシマシ4
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世界が良い感じにポワポワする。
暇だし喉乾いたな、という事で目についた飲み物を手に取ったんだけど……。
これはマズかったかもしれない。
世界が全部《《柔らかく》》見える。
誰彼構わず助けたい気分になる。
世界はフワフワで、理不尽で、柔らかい物だらけで、全部大事で……それで……それで、俺はそれが全部柔らかいままでいて欲しくて……、生きている以上に大事なものがあると本気で思っていて欲しくて……。
《《その為なら俺は何もいらなくて》》。
俺は目の前にいる、家族からも、そして自分でも、自分の事を無能だと思っている王女に声をかける。
〝可哀想な奴〟だ。助けてやりたい。
なあ、メフティア俺の名前を呼んだか? 何か助けて欲しい事でもあるのか?
ああ、そうだ良い物があったぞ、そこの緑色の飲み物なんだけど飲むとポワポワしてなんか悩みも吹き飛ぶぞ。
メフティアが何故か俺を指さして慌てているが、ちょっと理解できない。なにをそんなに慌てているのか? なんだ? 敵か? お前の敵でもいるのか?
あー、《《アレ》》か。
懐かしさすら感じるこの感覚、俺は良く知っている。俺達はコレを良く知っている。
そうだよな、アレは俺達の敵だよな。
俺は営庭の上空に浮かぶ紫色の結晶。それに包まれたラドラリーを指さす。
魔族の気配がする。
メフティア、アレは俺達の敵だぞ。
《《俺の》》敵だぞ。
空気が裂ける乾いた音と共に紫色の塊が射出される。反射的に展開させた障壁と空中で衝突。
衝撃波が営庭を薙ぐように走る。問題ない、人が死ぬような威力じゃない。
衝撃波になぎ倒された貴族が営庭をゴロゴロと転がり悲鳴を上げる。
問題ない誰も死んでいない。
でもどうする? ここはフワフワでいっぱいだ、柔らかい物だらけだ。
「もぎゃ!」
どうやってアレを殺すべきか? そう悩んでいたら足元にメフティアが転がってきた。
白灰色のドレスが営庭の芝生塗れになっている。
他の王族連中は政治が得意なヴァリア王子ですら転がる無様を晒していないというのに、コイツは相変わらずだ。
やっぱりだ、コイツは柔らかい。〝可哀想な奴〟だ、〝守ってやらなければ〟ならない。
「いったぁ……腰がグインって、グインってなりました」
メフティアが誰も訊いていない感想を呟きながら立ち上がる。生まれたての小鹿でももう少し足腰しっかりしてるぞ。
「あーメフティア。あれよぉ、敵なんだよ」
俺は空中で形を変えるラドラリーを指さす。
「倒さなきゃなぁって思うんだ。だけどここは柔らかいのが多くて、メフティアも守ってやらなきゃ駄目でぇ、だから……」
「あーはい。そうですね弱っちぃ私としては、守って頂けると大変に助かりますが」
メフティアがぐるっと周囲を見回す。
「〝《《私は》》〟後回しにしましょう」
は? 何を言ってるんだ? お前は一番弱いだろ。
ラドラリーがゆっくりと営庭に降りてくる。体を包み込んでいた紫色の結晶は、今やラドラリーの体と癒着し、棘のように、もしくはもう一つの頭のように首の横から生えている。
「偉い人間は一番最後に会場に入りして、一番最後に出て行くものなんですよ」
「いや駄目だろ」
ラドラリーがメフティアに向けて手をかざす。飛んでくる結晶を弾く。
周囲の人間に当たらないよう、地面に向けて弾いたせいで地面が爆発したみたいになる。
その光景にやっとで周囲の人間が逃げ出す。さっさと遠くに行ってくれ。
じゃないとアイツを倒せない。
竜の爺さんが俺に何をしきりに話しかけてきているが、念話魔法が上手く聞き取れない。
さっきの飲み物のせいだろうか? まあ問題ない。
周りから人がいなくなれば、俺は自分の仕事ができる。
ほら見ろメフティア、お前の父親やお兄ちゃん達は周囲の人間に逃げろと命令しているぞ。俺に必要なのはアレだ。
俺を一人にしてくれる、アレが必要なんだ。
「弱いんだから、早く逃げてくれ」
爆発した地面に「むきゃぁああ」と悲鳴を上げていたメフティアが、不思議そうな顔をして俺を見てくる。
「見事に酔っぱらってますね。貴方は強い弱いでどうこう言う人ではないでしょうに。忘れましたか? 大議場に私一人を置いていった自分の事を」
そう言えばそんな事もあったな。そう言えばどうして自分はあの時あんな事をしたんだろうか? メフティアは守ってやらなければならないのに。
ラドラリーが雨あられと結晶を飛ばしてきたので同じように弾く。
さっきは悲鳴を上げていたはずのメフティアが、俺の顔を見て良い顔で笑う。
それは友達にトビキリの秘密を打ち明ける顔で、自慢のジョークを披露する時の顔だった。
「ショウ君、秘密ですよ? 初代国王様がお酒で失敗して、二度と友の前で醜態を晒すまいと、王家の英知を集結して作った魔法です」
メフティアの手のひらに魔力が集り、声に魔力が乗る。
メフティアの唇が魔法発動の宣言を紡いだ。
「王族秘魔法第零号〝二度とアイツと一緒に酒は飲まん〟」




