縁もたわけな1
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「頭痛い」
王族秘魔法第零号〝二度とアイツと一緒に酒は飲まん〟の効果により、酔いから冷めたショウ君の第一声はそれだった。
焦点の合っていなかった瞳が私を捉えると、恥じ入るように伏せられる。
この妖怪勇者もこんな顔をする事があるのだなと思う。
「醜態を見せた」
「まあ、偶には良いんじゃないですか?」
王侯貴族なんてのをやっていると忘れられがちだけど、私達はまだ十六歳だ。子供なのだ、そりゃ失敗するし、醜態も晒す。
「第一、それを言い出したら私なんて醜態を晒さない日を探す方が難しいですよ」
流石にそれは過言であると自分でも思うのだけど。これも大丈夫、私達は子供だ。話なんて盛って良いのだ。
私の自虐にショウ君が割とマジトーンで「確かに」と納得する。おいやめろ、マジトーンはやめろ、そこは「そんな事ねーよ」とかだろ。
「おーいボン」
私が抗議すべきかと悩んでいると、ジイ様の声が頭上から降ってくる。呆れているように聞こえるのは気のせいだったらいいな。
「避難は完了したぞぉ」
私の周りは、今もショウ君が弾いたラドラリー先生の攻撃で凄い事になっているが、ジイ様の声は明瞭で聞き取りやすかった。
え? まさかこれ、念話魔法ですか? 伝説の魔法がポンポンと出てきすぎで、ありがたみがスッカスカも良い所である。
「というわけでショウ君」
そんな伝説の魔法とは縁遠い自分は、周囲の地面がボコンボコン爆発する中でも伝わるようにハッキリと発音する。
「正直に言えばラドラリー先生が魔族って言われても私はさっぱりなんですが……」
魔族と言えば人類の敵だが、肩から紫色の結晶が生えていてもラドラリー先生はラドラリー先生だ。
流石に一度は絶滅させられかけた相手なので、その特徴は良く知っている。
魔族は人類と同じく二足二腕だが、魔族はみな特徴的な薄紫色の肌をしている。見た目で人間と間違う事はない。
「あー、あれ寄生してるんじゃねーかな」
私の言葉を遮ってショウ君が何でもない事のように言う。
「初代様が一度だけ遭遇した事があるんだけど、人間に寄生する魔族とか危なすぎて秘密にされたって初代様ノートに書いてあった」
ぐぅうう! 思わず唸り声が出た。流れで助けてくださいと頼むつもりだったのに、それも忘れるぐらいのネタが出てきた。
またか! また厄ネタか!
人類に寄生する魔族。そんなものがいるなら、そりゃ秘匿されるだろう。
人間なんて疑心暗鬼にかかれば容易く人を火にくべる。もしかしたら対策はあるのかもしれないが、広く公言できるような話ではない。
いや対策はあるのだろう、そうでなければ貴族とはいえただの学園教師でしかないラドラリー先生に寄生する意味が分からない。
これ、どれぐらいの人が知っているのだろう?
お父様は知っているとして、大臣クラスか、もしくはもっと少数の人間しか知らない秘密かもしれない。
嗚呼、なんでそんな秘密を私が知っちゃうんだ馬鹿! もう! 馬鹿! ショウ君の馬鹿!
「ラドラリーから魔族の気配がするのは確かだし、今も何か言ってるけど内容は滅茶苦茶だ。初代様ノートの内容とも一致するし間違いねーんじゃないかな?」
「良く聞こえますね」
私の素直な感心にショウ君がウヘヘと笑う。
ワロてる場合か、とも思うがどうにもショウ君の傍だと気が抜けてしまう。
無能な私が、周囲の地面が爆発しまくっているのに平然としていられるのも、まあそういう事だ。
だいたいこの勇者が悪い。
「ちなみになんて言ってます?」
「我らの王はただ一人、我らの王にこそ勇者は相応しいって言ってるな」
魔族に寄生されてなくてもラドラリー先生なら言ってそう。
「あと、無能な王女のくせに勇者を侍らせて何のつもりだフザケンナ、とも言ってるな」
これも普段から言ってそうだなぁ畜生! 私の苦労も知らないで!
ショウ君がなぜか急にモジモジとつま先で営庭をほじりだす。
「俺は侍ったつもりはないけどな、それは違うし」
いったい何と違うと言っているのか分からないけども、ラドラリー先生の当たれば死にそうな攻撃を防ぎながらモジモジするのはやめて欲しい。
私は一発でも当たれば本当に死ぬのだから。
「まあ、はい。《《わかりました》》」
当たれば即死に囲まれながら、私は溜息を吐く。
我ながらどうかしてるが、結論はシンプルだ、いつもの事なのだ。
そうと思えば、溜息も吐ける。
学園の食堂で、ショウ君の滅茶苦茶さの前で溜息を吐くのと、死地で溜息を吐く、この二つに如何ほどの差があろうか?
何のことはない、私がいつものようにショウ君の滅茶苦茶さに巻き込まれてアバアバしているだけなのだ。一周回って笑えてくる。
なんだよ結局ショウ君のせいじゃないかと、私が笑っていると、ジイ様の声が頭上から降ってくる。
「おーいボンよぉ。早くなんとかしてくれんかのぉ? おぬしの弾いた流れ弾を防ぐの結構大変なんじゃよ」
どいつもこいつも声に真剣さが感じられない。自分が強者の群れに放り込まれた無能である事を自覚する。
これも、《《いつもの事だ》》。
私の仕事はショウ君の酔いを醒ました時点で終わっている。
無能にできる仕事なんてその程度だ。
私は、ここでする顔じゃない、という自覚を持ちつつチワワ顔をする。
気心の知れた人間に向けるジョークみたいなものだ。
「それじゃあ、後はお願いしますね?」
私は――、私に侍ったつもりはないと言いながら味方宣言してくる最強勇者にお願いした。そんな物は必要ないのだと知りながら。
私の場違いなジョークは小さな笑いを取る事に成功した。
笑わせにくるなよ、ショウ君が笑い、やってやるぜの顔をする。
「任せろ」
そう言ってショウ君は私を抱きしめた。




