心濃い目、混沌マシマシ2
「ほぉ、我が妹が王位継承権を差し出すような料理か、店主俺にも一本貰おう」
知ってる気配が近くにあるなと思っていたら、メフティアの兄、ヴァンセル王子だった。
「ヴァンセル兄様!」
メフティアが驚きながらも屋台のオッチャンから更に串焼きを三本確保する。
あぶねぇな、危うくドレスにタレが飛ぶところだったぞ。
流石にこの流れで声をかけてきたのが誰なのかは明白なので、屋台のオッチャンはもはや返事をするだけの機械のような正確さで、串焼きをヴァンセル王子に渡す。
俺はヴァンセル王子からの何か言いたげな視線を受けて、舌打ちを我慢しながらその串に魔法をかけてやる。
ヴァンセル王子の部下なのか、軍服を着た男が軽く頭を下げてきた。
デキる王子は感謝も人任せらしい。
「妹よ、これは美味いな。さながら広域殲滅魔法の後にしかける騎馬突撃のような味だ」
でも味の感想は自分で言ったから許す。
しかしお前ら兄弟そろって食レポ下手だな。何なんだよ騎馬突撃みたいな味って。
オッチャンも意味が分からなくて喜んでいいのか困ってるじゃないか。
「兄上もメフティアも、何を正気を疑われるような感想を言っているのですか」
そして現れるヴァリア王子。お前さっきまで部下使ってこっちを観察してただろ。
メフティアとヴァンセル王子が素早く串焼きを二本確保する。
ああもう面倒。俺はとりあえず目につく串に全て魔法をかける。これであと何本焼こうがタレは飛び散らない。
「いやしかし弟よ、これはまさに騎兵突撃の味だぞ」
すげぇなヴァンセル王子、一瞬そういうものかと思いかけたぞ。
メフティアの声にはない絶対的な自分がそう思ったんだから、そうなんだと人に信じさせられる力。さすがは軍閥派閥の長といったところか。
「まったく兄上は……。店主私にも一本頂けますか」
そしてその声にも怯まないのがヴァリア王子だ。
小声で「これが騎馬突撃の味」と納得しかかっているメフティアとは出来が違う。
ヴァリア王子が肉に齧りつく。
ヴァンセル王子にしても、ヴァリア王子にしても、作法に対して臨機応変だ。
ドレスにタレが飛ぶことを恐れるメフティアとは違う強さを感じる。
たぶん実際に服に汚れがついても、外での立食で宴会なのだからとかって感じで、人を納得させられる自信があるのだろう。
「美味しいですね兄上。え? 何これ凄い。まるで税収を誤魔化してた横領犯をギッチギチに証拠固めして自白させた時みたいな味じゃないですか」
一番わかんねーのが来たなコレ。
感想の具体性で言えば一番細かいが、味の想像がさっぱりつかない。
「貴様も同じようなものではないか」
そりゃヴァンセル王子も呆れるだろ。
「ああ、すいません。しかしこれは絶対に横領犯を自白させた時の味ですね」
何でお前もそこで張り合うんだよ。
お前ら王族は馬鹿な食レポしないと駄目なのか? 美味いで十分だろ。
メフティアに加えて、更に目立つ二人が来てしまったせいで、周囲には人だかりが出来てしまっている。
さっきまでは俺しかいなかったのに、マジで迷惑だ。
まあ屋台のオッチャン的には客が増えそうで良い事だが……。
オッチャンは淡々と串焼きを作りながら、王子と王女に串焼きを提供しつつ、こっちの竜の爺さんの分まで用意してくれている。
全ての動作が機械のような正確さで、流れるような動作は美しさすら感じられる。
時たま俺の方を見てはしきりに何かを訴えてきているが、そんなに感謝されても困る。
オッチャンにあんなにも感謝されるというのなら、俺も今度捻った食レポでも考えるか。
そして――、どよめきと共に人垣が割れた。
「店主よ、私にもその串焼きを一本貰おう」
王様だった。
王子二人と王女一人が素早く串焼きを二本ずつ確保する。
どうでも良いけどメフティア、お前は食いすぎだろ。
オッチャンは流石に王女と王子のおかげで慣れたのか、平坦な声で「へい」とだけ返事をすると、淡々とした手付きで串焼きを用意して王様に手渡す。
警護を担当している騎士か何かが顔を青くしているが、王様はそれを軽く手で制して肉に齧りつく。
「ほぉ……これはこれは、美味いな」
王様が実に素直な感想を口にする。
それに異議を唱えたのは長男ヴァンセル王子だった。
「父上……それだけですか?」
「それだけとは?」
なんで一番真っ当な感想を述べた王様が責められるような流れになってるんだろう?
首を傾げるヴァナティクト王に、その子供たちが溜息を返す。
「まてまて我が子らよ。なぜか今私はとても父親としての威厳を傷つけられている気がするぞ。まるで財務大臣が言ってやりたい事があるが絶対に自分からは言ってやらん、という時の笑顔を見ている時の気分だ」
お前ら親子は物事を個人的なエピソードでしか例えられない病気か何かか?
俺はなぜか自分の娘と息子から「この味を美味いの一言だけでしか称えられないとは、我が父ながら感性が貧弱過ぎて悲しい」と非難される王様を見ながら、入ってきた念話魔法に集中する。
「おーい、次代のボンよぉ」
竜の爺さんだ。
「ワシにもその串焼きくれんかのぉ。ずっと待っとるんじゃが」
俺は竜の爺さんに謝ると、オッチャンから竜の爺さんの分を受け取ると一足先に竜の爺さんの所に戻る事にした。
立ち去る背後では――。
「我が子らよ、味の感想とは伝わる事こそが肝要であってだな」
「何を仰るか父上、美味いでは単なる主観の感想ではありませぬか。味の感想であるというのであらば、どのような味であるか伝わる事こそが肝要」
「ええ、まさに。この串焼きの味は横領犯を自白させた時の味です」
「騎兵突撃の味、横領犯の自白味……んん? どっちなんでしょう?」
突然始まった王族の家族会議が白熱していた。
まあ時間になったら竜の爺さんの所に来るだろ。




