心濃い目、混沌マシマシ1
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バタバタと状況が変わる。
気が付けば俺とメフティアは、当然のようにそのまま夜に行われる竜の爺さん歓迎会に参加する事となった。
こういう時に学生は制服で良いというルールが助かる。
学園の営庭は、大きなテーブルが幾つも並び、急遽用意された追加の証明で照らされている。
朝、竜の爺さんが来てその夜に宴会というのは、流石に急すぎると思うのだが、メフティア曰く、本格的にやるとなれば国内の全ての貴族を呼ばなければならず。
そうなれば準備だけで月単位の時間がかかる。
まさかその間中、竜の爺さんに学園の営庭にいてもらうわけにもいかないので、もはやなし崩しで今日やるしかないのだそうだ。
むしろ今日を逃したら必ず後の遺恨になるとの事。
誰も伝説の竜が今日くるなんて知らなかった、だから運悪く宴会に参加できなかった貴族は諦めろ。王家はそれで押し通すらしい。
まあ実際に知らなかったし、大貴族の殆どは王城での役職を持っているので、当主はともかく代理として参加する人間には困らない。
本格的に出来ないのなら、どれだけ無茶でも今日やってしまう、これがもっとも王家としては合理的なんだそうだ。
だから名目は王家主催の私的な宴会で、急だったからアピールをしている。
「まあ、どう見ても宴会って規模じゃねーよなぁ」
昼の間にヴァリア王子の手配で宴会場へと姿を変えた学園の営庭は、人だらけである。
学園の生徒とその家族であれば参加できるらしいので数は少ないが平民もいるが、その殆どは貴族だ。
人類は一度絶滅すら覚悟する程だったので、貴族家の数は減っているはずなのにまだこんなにもいるんだなぁと、自分も一応は貴族なのに感心してしまう。
「お、これ美味しい」
俺は営庭の入り口近く、端っこの方にある屋台で、本来なら貴族の口に入るような料理ではない、串に肉を刺して焼いただけの料理を味わっていた。
当たり前だが場所だけじゃ宴会にならないので料理も用意されているのだが、これも当然のように数が足りない。
ので、数合わせに呼ばれたのだろう。俺がいつも学園の帰りに食ってる屋台のオッサンまで駆り出されていた。
「助かったよ、勇者のボン」
「何がだよ、オッチャン」
屋台のオッサンとは一度串焼きのタレで論争してから、オッチャン、勇者のボン呼びで通じる仲になっている。
「いきなり屋台を出せって言われて来てみたけどよぉ、誰も食いにこねぇもんだからよぉ。俺の串焼きもその程度かと凹んでたんだよ」
「なに言ってんだよオッチャン。俺と甘いタレと辛いタレ、どっちが良いかで殴り合い……じゃねぇ論争した熱い魂はどこにいったんだよ」
ちなみに論争の結果、今では甘くて辛いタレになっている。
後を引く辛さと、甘みのコクがマジでたまらん。
齧ると自然と笑みが零れる。しかも今日は食った後に夕飯が食えるように抑えなくて良いのだ。最高じゃねーか。
「いやでも一人もこねぇってのは……おっと、いらっしゃい!」
いつもの癖でか、オッチャンが屋台の客にかけるような調子でいらっしゃいと言う。
俺の他にも分かる奴がいたか、そう思いながら三本目の串焼きを齧りながら半歩横にズレる。
「こんな所で何をしてるんですかショウ君」
「なんだメフティアか」
お、固い部分だ、ここ好きなんだよな。噛むと味が二段階変化して。
「何してるって、どう見ても串焼き食ってる以外にないだろ」
流石に王族であるメフティアは俺のように制服で参加する事は出来なかったようで、ほぼ白に近い灰色のドレスを着ている。
なんでもこの白灰の色は、銀髪と合わせて王家の象徴らしい。
「ジイ様との挨拶では私と一緒にいるという話だったじゃないですか」
「いやまだ王様来てないんだろ?」
ここでも貴族の下らないメンツのあれこれだ。一番偉い奴は最後に来る。
「それでもジイ様を御一人にしちゃ駄目でしょ。貴族の馬鹿……じゃない出来るだけ先に挨拶したいなって連中を私が捌いている間に、気が付いたらジイ様御一人になってるじゃないですか。心臓止まるかと思いましたよ」
「竜の爺さんにはちゃんと断ってから出てきたぞ。ここの串焼きが食ってみたいって言ってたからそれも頼んでたんだよ」
竜の爺さんはデカいので、ちょっと食べる、の量が俺達とは違う。オッチャンは「リュウって人の爺さんなんだろ? そんなに食えるのか?」って面白い心配をしてた。
「そういう時は人を使ってください。何のために王城から人を連れてきていると」
「自分の分ぐらい自分でやるよ。それよりメフティアも一本どうだ」
どうもメフティアは客じゃないようだと、また凹み始めているオッチャンが可哀想でメフティアにも勧めてみる。
安心してくれオッチャン、たとえどれだけ売れ残ろうと、残りは俺が全部食うから、今日はそれが許されるから。
まあ、少なくともメフティアに関しては食わないはなさそうだが。
メフティアの視線が忙しなく俺の持ってる串焼きとオッチャンが焼いてる串焼きの間を行き来している。
こんなもん、〝食いたい〟以外にないだろ。
「ド、ドレスが……汚れ、そんな姿でジイ様の隣に立っていればそれだけで派閥が路頭に迷いかねない……」
あーもうじれったいな。
自分の腹事情と貴族のアレコレを天秤にかけて呟くメフティアに、俺はオッチャンから串焼きを一本貰い突き付ける。
勢いよく突き付けたせいで串焼きからタレが飛ぶが、それらは全て空中で静止すると串焼きの肉に独りでに戻る。
曾祖母に服を汚して怒られた初代様が編み出した魔法だ。物体操作を自動的にするのが恐ろしく難しかったと、ご先祖様ノートに書いてあった。
「ほれ、絶対に肉からタレが垂れないような魔法をかけてやったから食え」
「これほど贅沢な伝説の魔法の使われ方とか……」
ボヤキつつも視線はがっつり串焼き肉から離れないメフティアが、串を受け取り齧りつく。躊躇なんて無かった。
普段と違い、なんかもうパズルみたいに結い上げられた銀髪頭がゆらゆらと横に揺れる。
「これはもう暴力ですね、暴力。味で革命でも起こす気ですかこれ。私の王位継承権ならいつでも差し上げますよ」
「は? 王位継承権?」
オッチャンが屋台の中で首を傾げている。
「ああ、オッチャン。メフティアは王女だから本当に王位継承権持ってるぞ、第三位だけど。オッチャンなら料理の腕だけでメフティアより可能性あるぞ」
「はあ!?」
オッチャンが屋台の中で驚き、アワアワとしだす。
「こ! これはとんだ失礼を!」
何が失礼なのか? オッチャンの串焼きに失礼なぞありはしない。
「あ、気にしないでください。弱小派閥の王女なんで、国民にも顔が知られてない程度は自覚しています。あ、ごめんなさい、もう一本貰えます?」
気が付いたら肉を食いきっていたメフティアがお代わりを要求する。
オッチャンが嘘だろみたいな顔をしながらメフティアに串焼きを渡す。
「あ、今度のはちょっと硬いですね」
「お、アタリだぞ。良く噛め、味が二段階に変身するから」
俺はメフティアの串に慌てて魔法をかけながら教えてやる。コイツ一本食ったら止まらなくなりだしたな。
俺も、もう一本食うか。竜の爺さんが王様とかと挨拶する時には、一緒にいてくれと頼まれているので、次に食えるのがいつか分からない。
俺が追加のもう一本をオッチャンに頼もうとした瞬間だった、背後から声が掛けられる。
「ほぉ、我が妹が王位継承権を差し出すような料理か、店主私にも一本貰おう」
知ってる気配が近くにあるなと思っていたら、メフティアの兄、ヴァンセル王子だった。




