友達のお兄ちゃんと友達になるのは難しい3
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なぜ学園にヴァリア兄様が? 王女として割とアウトな所を見られた。 ヴァリア兄様って礼儀に煩かったですよね。怒られる、嫌だぁああ。
それら全ての感情を王女顔の下に押し込める。凄いぞ私。
「なぜこのような場所に?」
私の問いにヴァリア兄様がふむと小さく頷く。よーし、さっきまでの私は見なかった事にしてくれそうだぞ。
「それで誤魔化せると本気で思っていそうなところが、ヴァンセル兄様などには可愛く見えるのだろうね」
あ、駄目だ。
ヴァリア兄様が目が笑っていない笑顔を浮かべながら、仕方がないなと言いたげな溜息を吐く。おかしい、私が吐く溜息と全然違う。
「職人を手配したのは私なのだから、その様子を見に来る事に何の疑問があるんだい?」
主張は正しいが、貴族は普通そんな事しない。
王族だったらそれこそ絶対にしない、やるとしても部下を使う。
しかし、主張自体は正しい。何もおかしくない。
何なら国賓を迎える為の準備に、王族の一人が陣頭指揮に立っているようにも見える。完璧だ。何の反論も思い浮かばない。
しかし本当の理由は明け透けだ。そしてヴァリア兄様はそれを隠す気もない。
ヴァンセル兄様に先んじてジイ様と挨拶を交わしておきたい、そういう理由だろう。
先に挨拶したからといって何かあるわけじゃない。
それはヴァリア兄様も分かっているので、これは単純に自派閥へのアピールだ。
貴族は何かに順番がつくと、そこにメンツを見出す生き物だ。
私の身近なところで言えば、学園の登校が遅ければ遅いほど家の格が高いとかだ。
ヴァリア兄様がここにいる理由は、要は自派閥の貴族がそれを気にするから、という事だ。正直に言えば意外だった。
「ヴァリア兄様でもそういう事をお気になさるのですね」
ヴァリア兄様が教師のような顔をして頷く。
「急ぎ手配したからね、問題ないか心配になってね。なにせ我が国の大事なお客様だ。なにか不便を感じていないか、気にする者も多いからね」
えぇ~っと、なんだ。なんですか。通訳が欲しい、真面目に欲しい。
あー、たぶんきっとこうだ!
派閥の貴族のメンツを守る為に急いで来たのは本当だけど、気持ち的には伝説の黒竜様が困っていないか心配だ、というのが本音だよ、という事だ。
……そのはずだ。
「政務においては辣腕をふるわれているヴァリア兄様が現場にいて頂けるなら、メフティアは安心でございます」
ここで私が派閥の貴族連中の為に大変ですね、と取られる発言をすると後が面倒なのでとりあえず自分を下げる。
困った時はまず自分を下げる、これで貴族界隈は何とかなる。
ヴァリア兄様が同じ回答を見せられた教師みたいな顔をするが、突飛な回答を求める相手として私は間違った相手なんですよと、教えてあげたい。
「成程、いつものメフティアだね」
ヴァリア兄様が軽く首を傾げてから、教師みたいな顔を引っ込めて柔和な微笑みを浮かべる。反射的に警戒してしまう。
貴族の笑顔も怖いがヴァリア兄様の笑顔はもっと怖い。
「ところでメフティア。私の護衛を黒竜様の近くまで寄せたいのだが、黒竜様にご許可をとって貰っても良いかな?」
なんだそんな事か、ビックリしたぁ。
てっきり面白くない回答だから、納得できる回答が出るまで婉曲極まる会話を婉曲に続けさせられるのかと思った。よく見れば、かなり離れた場所で強そうな一団がこちらをじっと見ている。
あれが護衛かぁ、いいなぁ。最近では暗殺ネタを自虐に使えなくなってきているので、真面目に欲しい。
私は内心が表に出ないようにと、王女顔を維持しながらヴァリア兄様に「もちろんでございます」と頷き返し、振り返った。
するとなぜかジイ様が寝たフリをしていた、ついでにショウ君も。
いやさっきまで私と普通に話してましたよね? 傾げそうになる首を気合で止めて、ふんすぅ、ふんすぅと明らかに嘘っぽい寝息を立てるジイ様に声をかける。
「ジイ様、私の兄が護衛の者をそばに呼んで良いかご許可頂けないかと」
絶対に寝てないと分かっていたので、起きてくださいも省いて普通の声量で話す。
「おぉお~」
ジイ様がワザとらしいあくびをする。
うっわ嘘くせぇ。未熟な新人芸人でもコントでこんな棒演技はしない。
「そうか、そうか。別にワシは構わんでのぉ、何人でも近づけておくれ」
何なんだこれはと、疑問に思いながら礼を言って振り返ったら、ヴァリア兄様がいた。
凄い近い距離に。
「なるほどメフティア。〝ここでは〟君を通して黒竜様に許可を得るのが正道だという事だね?」
なにを――くぁああ!
悲鳴を上げなかった自分を最大限に称賛したいが、それ以外のやらかしが大きすぎる。
「いえ! そんな違います。私はただ」
ただ……なんだ? 何を言ってもヴァリア兄様の言った事を肯定してしまう気がする。
ヴァリア兄様の頼みで私がジイ様に許可を貰いにいった時点で、意思表示として取られても仕方がない。
建前上は同格とされる王子王女の間で、頼まれて許可を取るのを実行した時点で明確な政治的メッセージだ。
あの場面で、どうぞご自身でお尋ねになってください、と言えなかった己の無能さがヤバすぎる。無能! 私無能!
「メフティアもやっと真面目に政治をするようになったんだと思うと、兄としては嬉しい気持ちでいっぱいだね」
ヴァリア兄様の言う政治とは、たぶんに闘争という意味が含まれている。
勘弁してほしい、無理に決まっている。
「妹の成長を確認できたところで、私にも伝説の黒竜様との挨拶の機会を〝《《許可》》〟頂けるかな? 私の可愛い妹よ」
なんで目が笑っていない笑顔よりも、満面の笑みの方が怖いんですか?
「はい、もちろんです。今すぐ確認を――」
ヴァリア兄様の笑顔から逃れたくて、急いで振り返った私にジイ様の声がかかる。
「んん? 良いのかメフティアちゃん。挨拶の順番はメフティアちゃんの父上の次は長男としてくれって、ワシに頼んでおったじゃろ?」
クァアアア!
「ほう……。貴方は随分と政治的な動きを覚えたんですね。これはどういった政治的な意図があるのやら……不出来な兄に教えてもらえるかな?」
クァアアアアア!
「おい、銀髪ロン毛、自分の妹イジメてんのか?」
クァアアアアアアアアアアアアア!
くぁあああ!




