友達のお兄ちゃんと友達になるのは難しい2
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頭が! 頭がパンクする!
いや、実際のところ私の能力を完全に超えてしまっている。
完全にキャパオーバーだ。
何故か付いてきたショウ君には「ジイ様の相手をしてください」と言って早々にご退場頂いた。
これ以上の何かを起こすとしたらあの妖怪しかいない。
私はできるだけ精一杯の王女顔しながら、生徒の間を歩き回る。
まずは教師の誰かをつかまえなければ。
この馬鹿みたいな状況を、いったいこの状況をどうすれば良いのか? 以前私の家庭教師だった人達の顔を思い出しながら頭を悩ませる。
誰も伝説の黒竜が尋ねてきた時の外交儀礼なぞ教えてくれなかった。
竜を外交の相手とするのを否定する人間もいそうですが、国家の本質の一つは武力です。そうであるなら黒竜相手にやる事は外交であっているはずだ。
あ、いた。確か初学年の責任者をやっている教師だ。
「はい、そうです。黒竜様には何の害意もありませんので、学生の避難などは必要ありません。性格は大変におおらかな方ですので」
私はつかまえた教師にそう言い終えると、次に目についた見知った顔の生徒に声をかける。
ムゥス・シタッパル・アブ・ビット。ビット男爵家の次男で、入学祝賀の日に私に絡んできてショウ君に顔面掴まれて吊るされ、ついこの間も吊るされていた可哀想な人だ。
家がヴァンセル兄様派閥に所属しているので丁度いい。
嘘だ、単に顔を知っているから声をかけやすかっただけだ。
「ムゥス様、申し訳ないのですがヴァンセル兄様に黒竜様がご来訪された事をお伝え願えますか? 今すぐに」
ムゥス君が、え? 俺? みたいな顔をして戸惑っているのを、急いでくださいと発破をかけて急がせる。嫌がらせじゃない、本当に急いでいるのだ。
何か重大な使命を帯びたような顔をして走り去るムゥス君を見送る。
自派閥の誰かを使者に立てられるなら楽なのだが、それだとまるでジイ様の来訪を私の派閥が管理しているように見えてしまう。それは困る。
当たり前の話だが、私の派閥にそのような力はない。
無能な私でも分かる。ジイ様はトゥロウサン建国以来の初の国賓だ。
なにせトゥロウサン以外の国は無いのだ。国賓として招く相手がいなかった。
伝説の黒竜はその数少ない例外だ。
国賓としてジイ様を扱うのだからその主体は国家であるはずだ、責任者は国王であるお父様になるが、実行部隊はまた別だ。
まかり間違ってもその実行部隊に私の派閥が選ばれたら終わる、私が。
あ、あ、あ、あ、後、後は第二王子、ヴァリア兄様にもお伝えしないと、あ、あ、あ、誰を、誰を使者に。
お父様に関しては私が直接出向くしかないけども、私の体は一つしかない。
最低でも同時に分け隔てなく第一王子派閥と第二王子派閥に連絡を入れたという形にしないと……じゃないと、じゃないとまた暗殺騒動が起きる。
貴族はちょっとメンツが傷ついたと思ったら気軽に暗殺してくる、本当にやめて欲しいと思う。
そりゃ王家も後継者は生まれの順じゃなくて実力順になるし、ちょっとした暗殺ぐらい自分で防げないようでは後継者の資格なしとか言われる。
まあ防げなかった時点で死んでるんですけどねー!
やばい叫びたくなってきた。溜息を吐きたくなるのは常だったが、叫びたくなる衝動を覚えるのは人生初だ。
今ここで私がクェー! とか叫んだ面白いやろな。
そう思いながら私はやっとで見つけたヴァリア兄様派閥の貴族に声をかけた。
「あー私はしばらくここから動きたくないです」
背中がポカポカと暖かい。
万の軍勢から魔法を浴びせられても傷つける事あたわず、そう言われた伝説の竜、その鱗はスベスベで太陽の熱を吸って、まるで冬の朝のベットのぬくもりのようだった。
「あーヴァンも同じようなこと言っておったのぉ」
気持ちよさそうに営庭に横たわるジイ様が、心地よさげな鼻息を漏らして懐かし気に呟く。
「明日には死ぬかもしれぬな、という戦いの前であってもアイツは抜けておったな」
初代国王様凄いな、私なら明日死ぬかもしれない戦いの前で抜けてられない。
あーでも、このぬくもりがあるなら、抜けていられるかもしれない。
私はショウ君に勧められて座った、ジイ様の腕の間でそんな事を考える。
ジイ様の体は暖かく、巨体で日差しが遮られ、これはもうちょっと良い感じ過ぎて困るぐらいに良い感じだった。
「ところでメフティアはもう良いのか? 何か用事があったんじゃないのか?」
私とは反対側の腕の間で、同じようにジイ様に背中を預けてボゥっとしているショウ君が訊いてくる。
「お父様……国王様には私が直接ジイ様のご来訪をお伝えしなければ、と思ったのですが、教師からその間のジイ様のお相手をどうするのかと言われてしまいまして」
「なんじゃそんなこと気にせんでえぇのに」
おそらくだが、教師としては学園の営庭にジイ様一人という状況を作りたくなかったのだと思う。
最近の私とショウ君の行動を考えれば、私がお父様に報告に行くとなればショウ君も一緒に付いていくと思ったのだろう。
「それにもう私の仕事は終わったようなものです」
私は周囲の状況を見て言う。
現在、営庭では第二王子であるヴァリア兄様の手配で、急ピッチの工事が始まっている。
営庭を臨時の祝宴場にするための工事だ。
当たり前の話なのだが、ジイ様はデカい。デカいので城で歓待しようにも入れる場所がない。だったら今いる営庭をそのまま祝宴場に改造してしまえば良いではないか。
という事である。
手配の早さから言って、おそらくヴァリア兄様はお父様の許可すら取っていないだろう。
そんな事はまず無いとは思うが、お父様が他の場所で歓待するわ、となった場合は全ての費用を被る事になるので、結構思い切った行動だ。
貴族からの支持、という意味ではヴァンセル兄様派閥よりも厚いヴァリア兄様だからこそ出来ることですね。
黙っていても金を出す人間を沢山抱えている派閥は良いなぁ、と思いつつも自分だったら出された金をどうしたら良いか分からず、右往左往するだろうなと苦笑する。
無能は無能らしく、慎ましやかに生きるのが良いのです。
「後は優秀な方々が全てやってくれます。無能な私は何もしなくて良いのです」
「何かやる事があるなら遠慮なく言ってくれー」
ショウ君にだけは頼むつもりはないですよー。
私は内心でそう思いつつも「その時は宜しくお願いしますねー」と答える。
不思議だ、何度も酷い目にあっているのに、ショウ君の申し出を無下に断ることに罪悪感に近いものを感じてしまう。
まあ気の迷いでしょう。ジイ様が暖かいのが全部悪い。
私とショウ君が、忙しそうに会場設営作業をしている職人さんたちをしり目に、ぽけーとしていると、軽やかな、まるで繊細な弦楽器が奏でる音楽のような声が私の名前を呼んだ。
「メフティア、君はいったい何をしているんだい?」
私は跳ね起きた。
舞台俳優のような長身、王家の証でもある銀髪は、ヴァンセル兄様とは対照的に長く艶やかで、銀で出来た絹糸のように見える。
長く伸ばした銀髪を後頭部で一つに纏めたその姿は、中性的な容姿も相まって、武力でもって強烈なカリスマを発揮するヴァンセル兄様とは違う、〝この人に自分の話を聞いて欲しい〟と人に望ませるようなカリスマが溢れている。
「ヴァリア兄様」
ヴァリア・フレネス・アブ・トゥロウサン。
その卓越した政治手話に依って、規模としては最大の派閥を持つ、トゥロウサン王国第二王子だ。つまり私の兄である。
ここで会う予定のない人だった。
どうすっかなぁ? 私は悩んだ。




