八話
前回、長年のすれ違いを乗り越えた新太と凛花。
お互いの気持ちはもう分かっている。
だけど、それを言葉にするのはまた別の話。
夏祭りの夜。
花火が咲く空の下で、
新太は勇気を振り絞ります。
『花と嫁』もいよいよクライマックスへ。
二人の恋路を、ぜひ見届けてください。
歩き続けて数分。
林だらけの景色から、見晴らしのいい丘が見えてきた。
「この場所、相変わらず人がいないな……。」
見渡す限りの海と山。
人の気配はなかった。
「そりゃそうよ。私達だけの穴場だもん。」
誇らしげな顔の凛花。
「花火見るには、うってつけの場所だよね~。」
「だな。」
お互いに笑い合う。
それから、繋がれた手に視線を落とした。
「それじゃあ……準備する、か?」
「あっ……。」
なるべく自然に手を離すと、彼女は名残惜しそうな顔をした。
「ほ、ほらっ!ブルーシートとか敷かなきゃだし……。」
咄嗟に言うと、彼女はハッとして。
「そ、そうだよね!私ってば、アハハ……。」
ぎこちない笑みを浮かべた。
「……こっち持つから、新太はそっちお願い。」
「……了解。」
両端を持って広げ、そのまま地面に敷き始めた。
そのままシートに、持ってきた物を広げていく。
「よいしょ。」
浴衣の裾を抑えて、腰掛けた凛花。
「ちょっと、地面の凸凹があるけど……まぁ、だいじょうぶっ。」
すっかり本調子に戻っていた。
「ほら、新太。」
ポンポンっと、シートを叩く。
上目遣いで見てくる。
「……隣、失礼します。」
「堅苦しいなぁ~。」
ドギマギしながら凛花の傍へ。
汗は、抑えても噴き出す一方だ。
「花火、上がらないね。」
小さく呟く。
「そう、だな。」
横目で見てから視線を落とした。
《会話が続かない……。》
「ねぇ、新太。」
「……ん?」
「なんだか、懐かしいね。」
彼女がこちらを見た。
「こうやって、二人で花火見るの。」
瑠璃色が僕を射抜いた。
「……確かに。」
「なんて言うかさ。」
凛花が体を寄せてきた。
ちょっぴり肩が触れて、息は詰まった。
「私、ちょっと前まで諦めてたんだ。」
「……えっ?」
驚いて、彼女の方を向いた。
その姿は、儚げに空を見上げている。
「新太にはもう会えないって、花火も見られないんだって。
―――そう思ってたから。」
「……。」
言葉が出てこなかった。
「だからおばさんに、 “新太が帰ってくる” って聞かされた時は、
飛び上がるくらい嬉しかったな~。」
くしゃりと笑う。
「長かったし、すれ違いもあったけど……。」
掌が重ねられる。
「また、一緒に居る。」
彼女の指が、僕の指の隙間へと滑り込んだ。
ほのかな熱が伝わってくる。
「だからね、新太。」
こてんっと、肩に頭を乗せてきた。
「わたし今、すっごく幸せだよ。」
ヒュゥゥゥゥ―――
空に浮かんだ光の軌跡。
音を立てて花開いた。
「うわぁ~~!始まったみたいだよっ!!」
音の鳴る方へ指をさす。
たちまち目が輝いた。
「キレ~~~~!!」
子供の時から変わらないその表情。
今日だけは、何十倍も素敵に見えた。
「どう?田舎の花火だって、負けてないでしょ?」
「……あぁ、最高だよ。」
「なら良かった!」
ニカっとチラつく白い歯に、思わず見とれた。
《―――言うなら今しかない。》
「凛花。」
「ん?」
夜の水面のような青藍が大きく揺れた。
「……君が好きだ。」
「へっ?」
動きがフリーズした。
「……い、いまなんて?」
アワアワと口が動いている。
「好きって言ったの?」
「今さら……だけどな。」
いつもの比じゃないくらいの紅色が、彼女の肌を包み込んでいく。
思いっ切り、息を吸いこんだ。
「いつだって明るくて優しい―――そんな凛花が好きだ。」
とめどなく言葉が溢れた。
「こんなどうしようもない僕に、ずっと手を伸ばしてくれた。」
一度言葉を切った。
「そんな凛花が、大好きなんだ。」
「っ!!」
瞳が瞬く間に輝きだした。
「……これからも、傍に居てほしい。」
「来年も、再来年も、その先も、一緒に花火を見よう。」
「僕と、付き合ってください。」
訪れる静寂。
返事が来るまで、やたらと長く感じた。
「……。」
ふと、凛花の方を見る。
なぜか固まっていて、瞬き一つしていない。
「凛花?」
不安に思い、顔を覗き込むと―――
「っ?!」
息を呑んだ。
彼女の目から、ボロボロと涙が零れたのだから。
浴衣を点々と濡らしていく。
「うぅっ、ひぐっ……。」
「ご、ごめんっ!悲しませるつもりじゃ……。」
慌ててハンカチを取り出そうとする。
「……ち、ちがうの。」
声が掛かった。
「これは、その……嬉しくて。」
「……えっ?」
思いがけず、振り返った。
手をギュッと、胸の前で握りしめている彼女。
「私も、新太と同じ気持ちだったから。」
顔を赤らめ、僅かに俯かせていた。
「それって―――」
ピュゥゥゥゥ―――
天一直線に伸びた光の束。
「……よろこんでっ!」
パァァァンッ!!
今日一番の花火が咲いた。
無数の色彩が闇夜を彩る。
「……えへへっ。」
目尻に涙を浮かべる凛花。
でも今度は悲しみじゃない、喜びの涙だった。
胸の鼓動が治まらない。
「凛花……。」
彼女の後ろ髪に、優しく触れた。
さらりと靡く黒の艶髪。
「大好きだよ、新太……。」
凛花の手が添えられた。
「「……。」」
二つの視線が交差する。
瞳の中が、互いの姿だけを映し出した。
ドンッーーー
大輪の花が夜を飾る。
その光の下で、影は一つに重なった。
誰もが花火に見とれていて。
誰もが二人に気付かなかった。
更新日を木曜日朝6時10分にする予定が、私生活のごたごたのせいで遅れてしまいました。
楽しみにしてくださる読者の皆様本当にごめんなさい。
その分腕によりをかけて、書かせて頂きましたので楽しんでいただけると幸いです。
今後ともよろしくお願いいたします。




