七話
二人の両片思いの時間を書いてみようかと思います。
お祭りにて気持ちが最高潮、そんな二人をどうぞお楽しみください。
時刻は夜の八時。
二人の気持ちが通じ合った、あの雨宿りの日から早数日が経った。
「もう、ムリ、かなり限界……。」
今日も今日とて、情けない声が出る。
《この歳で、階段の上り下りはキツイって。》
暗闇の境内。
浮かぶ提灯に屋台の光。
浴衣に身を包む、男女や家族の賑やかな声が響いている。
「ほらっ、こっちこっち~。」
「ちょっと、ハァ、待ってくれよ……。」
声を弾ませる彼女に、息を切らせる僕。
「まったく。新太ってば、情けないぞ~。」
「いやいや、凛花が元気すぎるんだって。」
言われて、けらけらと笑う彼女。
「だって、今日はお祭りだよ?楽しまなきゃ損っしょ。」
「それはそうだが―――」
チラリと彼女の方を見た。
「……あんまり浴衣で、はしゃぐと転ぶぞ?」
「えぇ~?」
くるりと回り、袖を弾ませた。
肌触りの良さそうな紺色の布地。
白が混じり、ほんのりとした水色の桔梗。
《なんというか―――今日はいつもより、十割増しで綺麗だな。》
「そんな子供じゃあるまいし、ぜんぜんへいk―――うわっ?!。」
「危ないっ!!」
咄嗟に彼女の手を引いた。
「……ったく、言った傍から。」
転ぶ寸前で捕まえて、ギリギリセーフ。
「はぁ、はぁ……び、びっくりした。」
ホッと胸を撫で下ろした凛花。
急なことでビックリしたのか、動揺が掌を伝って届いてきた。
「こうならないように、気を付けないと。」
「……はい、ごめんなさい。」
「分かればよろしい。」
しおらしくなった彼女を見て、とやかく言う気にもなれずに視線を逸らした。
そして、右手の違和感に気が付いた。
「あっ、すまん!……手、握ったままだった。」
「……」
反射的に放そうとしたが、凛花の手は僕の手を離さなかった。
指と指の隙間に、彼女の細い指が這っていく。
「あ、あの、凛花さん?」
恐る恐る声をかける。
彼女は依然として、顔を俯かせたまま。
けれど、ほっそりとしたうなじから耳にかけて、真っ赤に染まっていた。
《なんか、調子狂うな……。》
気恥ずかしそうに、ポリポリと頭を掻いていると
彼女は瞳を潤ませて―――
「……ありがと。」
上目遣いで僕に言った。
「お、おう。どういたしまして……。」
繋いだ手に、キュッと力が入る。
「……っ。」
返すように優しく包むと、凛花の背中がピクっと跳ねた。
「……じゃあ、行こうか。」
「……うん。」
肩を並べて歩き出す。
《温かいなぁ。》
初めはただの、ぎこちのない手つきだった。
でも、
“彼女が傍に居てくれている”
そう実感するほど、僕の心は、淡い黄色の感情で満たされていった。
「屋台、どれから回りたい?」
「えっと、……あっ!焼きそば!!」
凛花の指す方向から、香ばしいソースの香りと鉄板焼きの音がした。
ジュワ~っと、麵を焦がす音。
喉はゴクリと鳴り、猛烈に食欲がそそられた。
「いいね。僕も丁度、お腹が空いてきたところだ。」
お互いに目を見合わせる。
「決まりだねっ。」
彼女がニヒっと笑った。
「だったら新太、あそこまでエスコートしてもらおうかしら。」
手の中の感触が深まった。
「ふふっ、任せてくださいな。」
そっと手を引いて、同じ歩幅で進んでいく。
「しょっぱいもの食べたら、次は甘いものだね!
今日は食べて、食べて、食べまくるぞ~!!」
「だなっ。」
おぉーっと、左手を突き上げた。
祭りの熱気と非日常感。
僕らはゆっくりと溶けていくのだった。




