四話
幼なじみでありながら、どこか距離の取り方が分からなくなってしまった二人。
ほんの些細なすれ違いが胸の奥に影を落とし、言葉にできない不安が心を締めつける。
そんな微妙な空気のまま迎えた帰り道、突然の豪雨が二人を古びたバス停へと追い込んだ。
逃げ場のない狭い空間。
雨音だけが支配する世界。
互いの息遣いがやけに近く感じられる距離。
気まずさ、照れ、戸惑い――
そして、隠しきれない想い。
これは、そんな“雨宿り”から始まる、少し不器用で、少し甘くて、少し切ない物語。
濡れた心が、ゆっくりと乾いていくまでの、たった数十分の出来事。
「―――あらたっ、新太ってば!」
後ろから声が聞こえる。
「ごめん、どうかしたか?」
「それはこっちのセリフだよっ。さっきから様子がおかしいけど大丈夫?」
心配そうに顔を覗き込む凛花。
「……大丈夫だ、気にしないでくれ。」
「嘘、今すっごい怖い顔してるよ?」
彼女の細い指先が、僕の頬に伸ばされる。
「もしかして、私のせい?知らない間に何か―――」
「そんなことないって。」
ぽつぽつと雨が降り始めた。
「ただ、今は話したくない、それだけだ……。」
途切れ途切れに言葉を伝えた。
しかし、当の本人は俯いたまま動こうとしない。
「―――そう言って、また何も言ってくれないの?」
ポツリと一言。
「りん、か?」
顔を上げた彼女が、体を震わせる。
「大丈夫だって、何でもないって、いっつもそればっかりじゃん!!」
声を荒げる彼女。
「あの日の事だってそう。ずっと、言ってくれるのを待ってたんだよ?わたし……。」
表情が悲しみと怒りでぐちゃぐちゃになっていた。
「それは……。」
―――ザァァァァ
「キャッ?!」
「うわっ?!」
瞬間、どしゃ降りの雨が二人を襲った。
たちまち、全身が濡れネズミになる。
「話してる場合じゃないっ!とりあえず、あそこに避難しよう!!」
凛花に声をかけて、近くの古びたバス停に駆け込むのだった。
***
「すごい雨、一体いつまで続くんだ?」
「……」
《だんまり、か……。》
さっきからこの調子、無言でカバンを漁っている。
「あと30分この調子か。凛花、雨止んだらどっか行きたいとこある?」
「……」
。
ここにきて何度目のやり取りに、僕はすっかり疲弊していた。
雨の音がやけにうるさい。
「……はぁ~。」
大きなため息が出た。
《このまま凛花と、前みたいに話せなくなるのかな……。》
不安が頭をよぎった。
胸の締め付けが強くなる。
「あのさ―――」
「んっ。」
言葉をさえぎって、目の前に白い布が差し出される。
「これは?」
「……ハンカチ。気休め程度だけど、濡れてるとこ拭けばいいんじゃない?」
「そっか、ありがとう。」
プイっと、そっぽを向かれる。
機嫌は相変わらずみたいだ。
けれど、ぶっきらぼうなその優しさが、今は心に染みた。
「「……」」
沈黙が続く。
―――ドゴーン!!
突如、轟音が鳴り響いた。
「ヒッ?!」
思わず腕にしがみ付かれる。
「……つ。」
景色が昔と今とで重なった。
記憶が再び蘇る。
「あっ?!そ、その、ごめん……。」
弾けるように離れた。
「ふ、ふはははっ。」
「……な、なによ、そんなにおかしい?」
顔を赤らめ、恨みがましく見る彼女。
「いやぁ、すまない。なんだか、懐かしいなと。」
目尻を擦りながら言った。
「昔から雷が苦手な凛花を、僕がよく慰めてたなぁ~って。」
「……そうだったっけ?」
「うん!」
口を開く。
「一回怖がると、コアラみたく僕に抱きついてさ。
中々離れようとしないんだよ。」
「うっ。」
「思い返しても、あれは傑作だったな。」
聞いた途端、顔中を真っ赤にした凛花。
「……わすれてよ。」
「う~ん、どうしようか?」
「いじわる……。」
「はははっ。」
唇を尖らせ、不服そうにこっちを睨む。
《ちょっとずつ、調子戻って来たか?》
「ねぇ……。」
とか思ってたら、声が掛かった。
まだ少し覇気は無い。
「一つ、聞いてもいい?」
目線は外を向いて呟いた。
「……いいよ。」
同じようにして、僕も答えた。
トタンを跳ねる雨の粒、その勢いが増していく。
「……どうして急に、いなくなったの?」
切実な表情で、凛花は告げる。
「っ……。」
答えに詰まった。
口が思うように動かない。
こうして僕らの、長くて短い雨宿りが始まった。
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