表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

2『先輩オタクは夜更かしを禁ず』


「昨日の呪○観ました、先輩?????」


「近い近い近い……」



 相変わらずブラックスピネルのような瞳を輝かせて、顔の輪郭も見えない距離で手を握ってこようとする後輩の中野さん。

 放課後になった途端毎回この勢いで来られるのは正直びっくりする。



「散々言われてた日○があんなキャラだなんて思っていませんでしたよ! それなのにあの引き! もう続きが気になって気になって! 観たあとに録画もう一度観てしまいましたよ! 声優さんもあの人が演じられていて、疲れた大人を演じるならこれ以上ないってほどの配役でわたし声聞いた瞬間感動してしまいました!」


「あぁそうだな」



 俺は中野さんを宥めるようにゆっくりと距離を離し、椅子に座らせる。



「一昔前まで主人公ばっかりやってた人がああいう疲れた大人役を演じるのは、なんというか、この人もどこかでは主人公になり得たんじゃないかって思わせるような絶妙な配役だよな」


「っ……!」



 あ、しまった。そう思った。

 俺が俺なりの感想を述べた途端、一応は大人しく椅子に座ったはずの中野さんは髪を総毛立たせ、身体の端々から言いようのない輝きを迸らせ始める。



「そうです! わ、わたしも! それを言いたかったんです! すごいです先輩! わたしが思っていても言語化できないようなことをそんなに解像度高くスラスラと……。や、やっぱりわたし、先輩を選んで正解でした!!」



 せっかく剥がした手を握ってブンブンと振ってくる。頼むから止めてくれ。



「それはいいけど中野さん」


「? なんですか?」



 何もわかっていなさそうな満面の笑顔のまま首を捻る。



「アニメ、リアルタイム視聴(リアタイ)したでしょ」


「うっ……」



 どうやら図星らしい。わかりやすいほど表情に出る子だ。



「だ、だって~……、やっぱりアニメは放送したその時に観たいじゃないですかぁ~」


「それはわかるけど、深夜遅くまで起きるのは健康に良くないだろ? 純粋に寝不足になるし」


「わ、わたしは大丈夫です!」


「それに、お肌にも悪い。中野さんせっかく可愛いんだから、そういうところもしっかり気を付けないと」


「……はぁ~い」


「今は配信も充実してるんだし、次の日学校から帰ってからでも遅くはないだろ」


「それは遅いですよ! やっぱり、アニメは放送されてすぐに観なければ! 鉄は熱いうちに打て、です!」


「それはわかんないけど……、だったらこうしよう。夜遅くまで起きてるんじゃなくて、朝いつもよりも三〇分だけ早く起きて、登校前に観て来よう。そうすれば夜更かしにはならないだろ?」


「なるほど! それだったら放送から誤差数時間程度で済みますし、アニメの興奮でブチ上がったまま学校に来れますね!」


「後半の理由は想定していないんだけども?」


「っあ。……あの、先輩……」



 途端、中野さんは何かに気付いたような素振りを見せたと思ったら、急にもじもじと視線を逸らす。



「そ、その……、それってつまり、先輩もそういう風にしてアニメをご視聴なさっているということですよね?」


「? うん、そうだけど……」



 なに? なんか変なこと言った? 今の世の中コンプライアンスが大切だ。一つ下の後輩と言えど女性は女性。何か気付かない間にセクハラ紛いのことでも言ってしまったのだろうか。



「それはつまり……、先輩はわたしと一緒に、アニメを通話実況してくれる……ということですよね?」


「ん?」



 んん????



「わたし、憧れだったんです! 誰かとおしゃべりしながらアニメを観るの! 実況板とか今ならSNSなんかもありますが、そういう不特定多数との交流はイマイチ勇気がでなくて……。だから知ってる人と生でアニメ観られるの、すっっっっごく高校生になったって気がして嬉しいです!」


「どの辺が高校生らしいのかイマイチわからないけどとりあえず落ち着け?」


「それじゃあ早速明日から……というか、明日はもうお休みなんですから、早速今晩からお願いします!」


「え、今さっき夜更かしはいけないと言ったばっかりなのに」


「お休みの日くらいは大目に見てくださいよ、先輩」



 中野さんは可愛く小首を傾げる。

 ああ、この子……。



「ね、いいですよね? 先輩♡」



 真面目でアニメオタクだけど、ちゃんと自分が可愛いのだと理解している女の子だ。


 いつも通り俺の両手を握り黒真珠の瞳を近付けて、俺なんかの許可を求めてくる。

 舐められたものだ。これでも一応根っからの二次元オタク。いくら可愛い後輩と言えど、一つ次元の多い女子に迫られたくらいで揺らぐような信念は持ち合わせていな──、



「はい、わかりました……」


「やったー!」



 残念ながら、古今東西オタクは二次元だろうが三次元だろうが、可愛い女の子に弱いというのは決まりきった運命(さだめ)なのだ。古事記にもそう書いている。



「楽しみですね、先輩っ」



 ……まあ、たった一人できた後輩のお願いくらい、聞いてやるのも先輩の勤めなので仕方ないはないのかもしれない。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ