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1『新入部員のオタク女子は語りたい』


1『新入部員のオタク女子は語りたい』



「わたし! 昨今のオタクブームには常々思うところがあるんです!」



 相変わらず黒の瞳をオパールのように輝かせて、新入生であり今し方我が部『オタク部』の新入部員にもなった一年生・中野せつな嬢は両の手をグーにして、前のめり気味にそう語る。



「数年前のパンデミック以降、アニメ・漫画の需要拡大に伴いオタクという言葉も自然と一般化していきました。一昔前までは忌み嫌われる存在だったオタクという言葉も、今や自ら名乗り誇るべき対象へと時代は移り変わったのです。事実、わたしのクラスでも自己紹介でアニメオタクを自称する同級生が多数いました。……なのに、です!」



 つらつらと聞いてもいないことを延々と語っていたと思ったら、次の瞬間には机に手を突いて突然立ち上がる。



「アニメオタクを自称するそのほとんどは、今流行りのアニメ漫画ばかりを追いかけていて、話題から一歩引いたところにいる中堅・マイナーアニメや、人気だけど少し古い名作アニメをまったくと言っていいほど視聴していないんです! ほとんどじゃないんです、"まったく"なんです! 信じられないと思いませんか、先輩!」


「え、あ、そうかもしれな──」


「そりゃあ! わたしだって『呪術○戦』や『チェンソ○マン』、『フリ○レン』、『ス○イファミリー』は好きです! アニメもリアルタイムで一話から視聴してますし、原作も全部読んでいます! 放送の次の日にはクラスのみんなとアニメの話題を共有できるなんて昔では考えられなかったんですから!」


「中野さんて一体何歳な──」


「それでも! アニメってそれだけじゃないですよね! 世間で話題にならずとも名作と呼ばれる作品はたくさんあるはずです。前期のアニメで言えば『メダ○スト』とか『わたしの○せな結婚』とか! 『リゼ○』すら知らないだなんて信じられますか?!」


「あ、ああ、そりゃあんまりかもしれ──」


「だから!」



 バッと、またも突然中野さんは動き出し、今度は俺の両手をがっしりと握られる。



「初めて! 本当に初めて、わたしの見たアニメを知ってる人に出逢えたんです! ほ、本当ですよね? 本当に先輩は、ハ○ヒもらき○すたもクラナドも観てるんですよね??」


「あ、ああ……。その三つならちゃんとアニメは全話観たし原作も全部読んでるし、なんならハ○ヒは放送順と時系列順に何周かして劇場版もDVDで持ってる。ク○ナドはPSヴィータ買ってちゃんとプレイもした」


「え、そんなに……」



 と思ったら一転、急に中野さんのトーンが落ちる。

 アニメだけじゃなく原作まで追っているのはさすがに女子にはキツかったか? 好きになった作品は原作まで追いかけるのは俺としては常識なのだが。



「あー、あの……中野さ──」


「──すっっっっごいです!」



 瞳に、星空が宿る。



「すごいですすごいですッ! アニメだけじゃなく原作も全部でしかもゲームやDVDまで持ってるなんて! あたし、家が厳しくてゲームとか買うことができないので、すっっっっごく羨ましいです! も、もしよかったらなんですが……、今度ソフトのパッケージだけでも見せてもらえたら……」



 なぜか顔を赤らめもじもじしながら言ってくる。ゲームの話だよね?



「ああ、そのゲームならそっちの戸棚に──」


「え?!」



 途端、アニメのような高速移動で指さした戸棚へとワープする。



「ほ、ホントです! よく見ればいろんな世代のいろんなゲームが箱ごと戸棚に……、わ、わ! これロクヨンってやつですよね?! あたしたちが生まれるよりも遙か前のゲーム機がこんな完璧な状態で……、こっちは未開封の初代ポケモンが! ああ、よく見れば漫画もこんなにあります! こっちにはこち亀とゴルゴ全巻揃ってるじゃないですか!」


「ああそれは、先輩たちが部室にある漫画は床屋にありそうな漫画にしたいって言い出して、それで──」


「ええ?? すっごいわかってるセンスしてる人たちじゃないですか……。今日は、他の先輩方はどちらに?」


「──……」


「? ……先輩?」


「いない」


「え──」


「オタク部の部員は先月卒業した先輩たちがほとんどで、その後輩である昨年度の一年と二年──つまり俺の学年と一つ上の学年は先輩たちの濃すぎるオタク度についていけず、入部したほとんどの部員はみんな辞めていった。今や、残った部員は二年の俺ただ一人だけってわけだ。だから、今のオタク部は部活動ではなくただの同好会。……ちょうど昨日生徒会言われたよ。去年までの活動実績があるから今年度までは部室は存続させてやる、ってな。笑えるよな、これじゃあまるで──」


「──っまるで漫画みたいな展開じゃないですか!!」


「……」



 結構ノスタルジーに浸っていたつもりだったのだけど、なぜか目の前の新入部員は瞳を爛々と輝かせて、またも俺の両手を握ってくる。



「すごいです! やっぱり学校の変わった部活というのは横暴な生徒会と闘う運命なんですね!」


「いや、生徒会はただ単に規定から外れた部に正しい処分を降しただけで──」


「まだ右も左もわからない新人ですけど、微力ながらお手伝いしますね、先輩!」



 そして中野さんは窓の太陽に向かってうおおおと雄叫びを上げる。

 まぁ、何であれ新入部員は歓迎だ。少しでも、先輩たちが作ったこの空間を楽しんでくれるのならそれ以上に嬉しいことはない。

 ただ……。



「……本当にいいのか?」


「はい? 何がです?」



 問う俺に、中野さんはキョトンと返す。



「話を聞く限り、中野さんが求めてるのはつまり話題を共有できるオタク友達だよな? さっきも言った通り、ウチは同好会に格下げされたばかりの弱小部。キミ以外は新入部員はおろか、見学すら一人もいない。そんな部活にいても、中野さんの求めるオタク友達は作れ──」


「なに言ってるんですか、先輩」



 話を遮るように、中野さんが呟く。

 今度は興奮を抑えられないからではなく、どこか[[rb:揶揄 > からか]]うように笑いながら。



「もうここにいるじゃないですか」


「? 何のこ──」



 そしてまた、俺の目の前に黒の瞳が現れる。

 その眼には──、



「先輩が、わたしの最初のオタク友達です!」


「……っ」



 その答えを、如実に映し出していた。

 不覚にも、俺は先月まで中学生だった女の子に言い負かされる形で、たった一人だった部活の定員を二人にすることを余儀なくされた。

 ……決して、最後に見せた笑顔が可愛かったからではないことは、ここで釈明しておきたい。




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