入学式でした……忙しいんじゃないんですか?
はぁ……
入学式が始まり、学園長が学園の歴史について、気持ちよさそうに語ってる。すっかり悦に入ってて、生徒達のうんざり顔に気づいてない。と見た。
俺はあくびを噛みしめ、襲ってきた睡魔と戦う。
正直、王立学園なので、俺の方が歴史に詳しいんだよな。小さい頃から王家の歴史は勉強してたしさ。くぅ、眠い……
「今年入学の皆さんは、とても幸せです」
学園長の話題が変わった……ん? 幸せって?
「なんと王宮魔道士長ザラ・ブライトン様と王宮騎士エドワード・ブライトン様が2年間、特別講師として、週1回、君たちの指導してくださいます!」
は!?
「ザラ様には学問を、エドワード様には剣を教えていただけます。光栄なことですよ!」
学園長は興奮気味。
それもそのはず。
一般の貴族は王宮魔道士と王宮騎士にすら会う機会はあまりないのに、我が国の頂点の2人が目の前にいるのだ。
生徒、いや、先生まで憧れの眼差しになってしまうのは、仕方がない……が。
俺は一気に目が覚めた……いや、目が覚めたどころの騒ぎじゃない……まどろんでいた俺の心に爆弾が投下されたに等しい出来事。
「週に1回ですが、学園の視察も兼ね、将来、国王様を助け、守る人材の教育に携わる為、講師を引き受けました」
長い銀髪を手でかきあげ、美しい顔を生徒にむけたザラが無表情で一歩前にでる。
黄色い声とバタン、バタンと令嬢が倒れる音があちこちで起こり、講堂内は一時騒然となった。
さすが、氷の魔道士様。
あんなに冷たい視線なのに、女性だけでなく、男まで、倒れているぞ……
その様子を俺は、どんよりとした気分で見ていた。
もっともらしいこと言ってるが、違う。絶対違う。確実に違う……
どうやって、父上や大臣の承認を得たんだ?
どれだけ手を回すんだ、エドワードとザラは!
隣を見ると、死んだ魚のような目をしたミカエルが、無意識に口をパクパク動かしている。
だ、大丈夫か……? ミカエル。
でも、安心しろ…………俺も同じ気持ちだ……
入学式が終わり、教室はエドワードとザラの事でもちきりだ。
衝撃的な出来事に放心状態の俺は王子スマイルをする余裕もなかったので、話題の中心があの2人の事になっていることに助かっていた。まぁ、あの2人のせいで俺は余裕がないのだが……同じく放心状態のミカエルと顔を合わせ、無言で会話をする。
…………帰るか。
…………そうだね。
2人で帰り支度をし、朝と同じくトボトボと歩き始めると、ミカエルがボソリとつぶやく。
「あの2人って……義姉さま絡みだよね」
「……たぶんな」
ミカエルと目を合わせ、同時にため息をついた。
なんか、恋敵なんだけど、戦友でもあるな……俺達。
門まできたが、クラリス達の姿は見えず、俺はクラリスを待つことにする。門柱に寄りかかっていたミカエルの隣に俺も寄りかかり、目をつむると、ミカエルが肘で俺を突いた。
「アルベルト、早く帰ればぁ? 疲れたんでしょ?」
ミカエルもあの2人の出現に相当疲れたんだな。文句にキレがないぞ。
「ああ、まぁ……」
疲れたからこそ、俺はクラリスに会いたいわけで。ジェスターとの事も気になるし。
口の中でモゾモゾ言っていると、クラリスとジェスターが歩いてくるのが見え、俺は両手で頬をパシンと叩き、気合を入れ直す。
疲れている場合じゃない。
ジェスターはあのシトリン家を継ぐ男。親友とはいえ、侮れない相手だ。
ミカエルも疲労感が漂っていた顔は消し去り、力がこもった目でジェスターを見る。
「クラリス、大丈夫だったか?」
「義姉さま、大丈夫だった?」
「えっ? なにがですか?」
「ジェスターに変なこと言われたり、されたりしてない?」
「失礼だな。お前ら」
俺とミカエルはクラリスとジェスターの間にさり気なく入ると、ジェスターは腕を組み、俺達を軽く睨んだ。
「義姉さま、もう疲れたし、帰ろう」
ミカエルがクラリスの腕を引っ張って、アルフォント家の馬車に乗り込もうとするが、クラリスは少し困った顔をする。
「ミカエル、先に帰ってくれる?」
「えっ? なんで? まさかジェスターとどっか行くの?」
「うーん……ザラ様に呼ばれていて……」
俺達は互いの目を合わせた。たぶん同じ言葉が頭に浮かんだだろう。
『あいつら本当になんなの?』
お読みいただきありがとうございます。
兄ちゃん達のシスコ……もとい、妹思いぶりが炸裂です。




