クラリスの事情 ~クラリス視点~ 2
17歳で命を落とした前世の事を考える。
事故で即死……酷くない?
私はちゃんと青信号、渡ってたんだからぁぁ!!
大好きな家族にも幼馴染にも、お別れ言えなかったじゃない!
あの、運転手、許すまじ。
……って、恨んでも、もう遅い。
気がついたら、この魔法が存在する異世界に生まれていた。
幼い頃から、ぼんやりとした記憶はあったから、頭をぶつけて思い出した! 婚約破棄されショックのあまり思い出した!
……なぁんて、漫画みたいな劇的な出来事もなく、のほほんっと、この世界の子供として普通に成長してきたけれど。
たまに思い出す。
残された家族の事。
きっときっと、皆を悲しませてしまったんだろうな……私。
少しアンニュイな気分になっていた時、扉が開く音でハッと我に返る。
いけない、いけない。
王宮魔道士長ザラ様の前で、ぼんやり考え事なんて……
「ザラ、ちょっと休憩させろ」
凛々しい男性の声がして、振り返ると王宮騎士様が入ってきた。
「兄さん、来客中、仕事中」
ザラ様は騎士様をまったく見ずに、冷ややかな声を出す。
兄さん? ザラ様の? あの有名な王宮騎士のエドワード・ブライトン様?
王宮騎士エドワード・ブライトン様。
ザラ様の兄上で次期王宮騎士団長と呼び声も高く、我が国、トップの騎士様。精悍なキリッとしたお顔……うーむ、めちゃくちゃかっこいい。
エドワード様とザラ様が兄弟なんて……言われなきゃわからないわ。
「お初にお目にかかります。クラリス・アルフォントです」
思わず見惚れていた私、慌てて立ち上がり、令嬢スマイルとともに丁寧にお辞儀をする。
「あぁ、失礼。クラリス嬢。ザラの兄のエドワード・ブライトンです。ご一緒しても?」
「兄さん!!」
「はい、私は構いませんが……」
「ほら、ご令嬢もいいっていってるぞ」
「……仕事の邪魔しないでよ」
私は悪魔と呼ばれていた、ザラ様が小さくため息をついたのが微笑ましくて、こっそり笑ってしまった。
こんな兄弟のやり取り懐かしいな……
「そういえば、あれ、完成したのか?」
「あぁ、そこに置いてある」
エドワード様はなにかを思い出したのか、ザラ様に声をかけ、それに答えたザラ様の視線の先には、とてもきれいな小箱が置いてあり、エドワード様が小箱を私の目の前のテーブルに置いた。
「わぁ、きれいですね」
繊細で美しい小箱に目が奪われ、思わず感嘆の声を上げてしまった。
「これ、ただの箱じゃないんですよ」
エドワード様は悪戯っ子のような顔をし、箱の裏にあるネジをジィコジィコと回す。手を離すと、ポロロン……と小箱は澄んだ音を奏でた。
ん? オルゴール?
「ね、すごいでしょう? ザラが作ったんですよ」
懐っこい笑顔を見せ、エドワード様は私にオルゴールを手渡してくれた。
オルゴールって、この世界にあったんだ。初めて見たな。今度、お店で探してみようっと。
それに……この曲……
「素敵ですね。私、この曲知ってますわ」
「えっ?」
エドワード様とザラ様が小さく驚きの声を上げたのが聞こえたが、私は浮かれていて、気にも留めなかった。
だって、この曲、前世でよく聞いた童謡なんだもん。この世界でも歌われてたんだぁ。
「歌も歌えますわ。真っ白い雪が降りてきて~♪」
オルゴールの曲に合わせて口ずさむ。
んふふ、懐かしい……なぁ……ぁ……あっ!
時、すでに遅し。
また、私はやらかしてしまったらしい……
エドワード様は口を開けて……ザラ様は右手に持っていた羽根ペンをポトンと落とし……2人の視線は私に集中していた。
し、しまっったぁ!
つい懐かしくて、歌っちゃったけど、人前で歌う令嬢なんてこの世界では存在しないよぉ。
誰も声を出すことをせず、部屋の中でオルゴールの音色だけが響き渡る……
きっと、はしたない令嬢だと思われてるんだろうな……オーマイガー!
恥ずかしさのあまり、顔を上げられずにいると、オルゴールが最後の音を鳴らし終え、室内はとうとう静寂に包まれてしまった。
そして、2人から予想外の、本当に予想外の言葉が発せられる。
それは遠い昔の懐かしい名前。
もう誰も呼ぶ人がいないはずの名前……
「美咲か!?」
お読みいただきありがとうございます。
次回は3人の関係が、なんとなくわかります(なんとなくなんかーい!←自分でつっこむ)
びっくりするほど短いですが、お読みいただけたら、嬉しいです。




