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ご令嬢を泣かせてしまいました……えっ?俺のせいですか?

 

 俺が着替えをすませ部屋を出ると、ナクサスが待っていた。


「マリー嬢が待ってる部屋に案内してくれ」

「かしこまりました」


 来客の間にむかいながら、案内の為、一歩前を歩いていたナクサスに話しかける。


「なぁ、マリー嬢は何用で来たんだ?」

「さぁ、私からは何も……」


 チラリと俺の方を見て、一見控えめな台詞を言うが、ナクサスの口の端が少しだけ上がっているのを俺は見逃さなかった。

 

 お前、知ってるだろ?

 なんか面白がっているだろ?

 何なんだよ、一体。

 嫌な予感しかしないんだが。


「こちらのお部屋です」

「おい、マリー嬢の用件、お前知っているんじゃないか?」


 俺は部屋の扉を開ける前にナクサスの方を向き直り、問いただす。


「さぁ……」


 ナクサスは憎たらしいほど、すっとぼけた顔をする。

 

 ……チッ。


 俺は心の中で特大の舌打ちをした。


 ナクサスは俺のこと1番に考えてくれているのは事実だが、だからといって、俺を甘やかすことはしない。

 自分でなんとかしろ。という事だろう。


 あの様子からして、厄介事なんだろうなぁぁ。

 へいへい。

 自分でなんとかしますよーだ。


「失礼、マリー・クラレンド嬢ですね」


 来客の間に入ると、輝く金髪のとても美しい令嬢がすくっと立ち上がり、丁寧にお辞儀をした。

 

 ああ、見覚えがある。

 パーティーとかで、よく話しかけられていた気がする。

 

 俺は、ナクサスに『ほらほら、ちゃんと思い出したぞ』と得意気な顔を見せると『はよ、話をしろ』と言わんばかりの呆れ顔をされた。


 たしかに……

 

 咳払いを1回し、俺は外面用の王子スマイルをむけ、少し高い位置に設置された王族用の椅子に座った。


「ああ、座って下さい。今後、来訪の際は連絡を下さい。で、なにか、私に急ぎの用事でも?」


 マリー嬢は顔を上げ、緊張した面持ちで話す。


「婚約の件で伺いました」

「婚約の件?」


 俺が聞き返すと、マリー嬢はコクリと頷き、少しヒステリック気味に声高な声を出した。


「はい。私は婚約者候補にしていだけないのですか!?」

「はい」


 おっと……勢いに押されて、返事しちまった。


 俺のあまりの即答ぶりにマリー嬢は目を見開き、美しい顔をだんだん歪め、印象的なエメラルド色の瞳からポロポロ涙を流し始めた。

 女性の涙に慣れてない俺は焦ってしまう。


 やばい……やばいんだけどっっ!


 うぉぉぉ、たしかに配慮に欠けた返答だったことは、認める。

 まぁ、その……俺と婚約したかった……のかもしれない……俺、この国の王子だしな。

 でも、俺は1度たりともマリー嬢にその気があるような事を言った覚えはないぞ?


「あー、婚約者はクラリス・アルフォント嬢で内定したので。申し訳ないのだが……」


 マリー嬢の目を見ながら、婚約者が内定した事を説明した。

 泣きじゃくるマリー嬢に俺は困惑したが、誠意を持って対応をしなくてはならない。


「ひどいですぅぅぅぅぅ」


 更に大声で泣き叫ぶマリー嬢。


 おーい…………この泣き声、扉の外まで聞こえないか?

 マリー嬢に「ひどい」と責められる(いわ)れは、まったくない。

 まったくないの……だが……なんだか、恋人を乗り換えた酷い男の気分になる……


 なんなんだこの状況?


 俺はげんなりしながら、この場を収める方法を思案し、話しかける。


「ええっと……マリー嬢? 1度もマリー嬢と婚約の話をした事はないですが……」

「でも! 婚約できると!」

「私が言いましたか?」

「いえ、友人達が……」

 

 はぁぁぁ!?

 君の友人達の発言にまで、俺は責任持てませんって……

 

「マリー嬢、私は貴女に婚約の話をしてませんし、私の婚約者は決まりました。お引取り下さい」


 俺がキッパリ言っても、泣いてその場から動こうとしない。

 ご令嬢を力ずくで追い出すわけにもいかず、ほとほと困り果てた俺はナクサスを横目で見る。

 ナクサスは、側近らしく黙って待機しているが、目と口元が微かに動いている。

 

 今、この状況を楽しんでいるだろ?

 おい、助けろ!


 俺は目に力を込めてナクサスに訴えると、仕方ないですねぇという顔をし、泣き続けているマリー嬢に声をかけた。


「失礼します。マリー様ほどお美しい方なら引く手数多(ひくてあまた)だと思いますが。わざわざ、こんな気の利いたセリフ1つ言えないくせに、口も悪く、言葉も足りない、口下手王子を選ばなくても、よろしいかと……」


 …………おい!

 今、主従関係が崩壊したぞ!

 俺のこと、けちょんけちょんに言いすぎだろっ!


「それでも構わないですぅぅぅ」


 ちょっとまて、マリー嬢。

 せめて少しは気を使って否定してくれ。

 

 状況はそのままで、俺が無駄にダメージを受けただけじゃないかぁぁ!!




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