ご令嬢がやってきました……覚えてなくてごめんなさい
王宮に帰り、今日中にやるべき簡単な公務を終わらせ、俺はベッドに倒れ込む。
疲れた……
柔らかい枕に顔を埋め、クラリスの顔を思い浮かべた。
さっき会ったばかりなのに、もう会いたいなんて、俺も重症だな。
クラリスは絶世の美女…………ではない。
惚れている俺から見たら、世界一かわいいと思っているが、お茶会やパーティーでも、ちやほやされるタイプではないし、魔力のこと以外で噂にのぼることもない。
そのことは、俺にとっては好都合。
クラリスの良さは俺だけがわかっていればいいわけで……
もう、これ以上恋敵が増えるのはごめ……ん……だ。
そんなことを考えながら、疲れ切った俺は瞼の重さに耐えられず、眠りに落ちそうになった時……
「王子、よろしいですか?」
側近のナクサスがノックと同時に扉を開け、部屋に入ってくる。
睡眠、邪魔するなぁぁぁ!
「なんだよ?」
せっかく気持ちよく眠れそうだったのを邪魔された俺は、ベッドの上から少し不満げな声を出した。
こんな不機嫌な態度はナクサスにしかしないが。
生まれた時から世話係だったナクサスは、俺に対して遠慮がまったくない!
昔からビシバシ叱られていたし、毒舌も大爆発。
だが、超超有能な側近で俺は頭が上がらない。
「王子……就寝には早すぎじゃないですか?」
ナクサスは呆れたような顔つきで嫌味を言う。
「疲れたから、ちょっと横になっていただけだ! で、何の用だよ」
「マリー・クラレンド様が王子に謁見を願い出ておりますが……」
「マリー・クラレンド? クラレンド伯爵のところの……?」
クラレンド伯爵は知っているが、マリーという名にまったく記憶はないのだが……
「マリー・クラレンド嬢……会った事あるっけ?」
俺が独り言のつもりでつぶやくと、ナクサスは驚きの表情を見せた。
「王子……お茶会やパーティーなどで、何度かお話されてましたよ? しかも、2日前まで、マリー様は王子の婚約者候補最有力と言われていたお方でしょう?」
あれぇぇ? そうだっけ?
そんな令嬢いたような……いなかったような……
俺は、一生懸命、記憶を辿るも思い出せず。
「か、顔を見たら思い出す。うん、顔を見たらな」
その場を取り繕うように、明るい声で答えると、ナクサスが盛大にため息をついた。
おい、主人の前なんだから少しはこっそりつけよ!
「はぁ……本当に王子は……クラリス様の事しか見ちゃいないんだから……」
「そんなことっ……」
反論しようとしたが、事実すぎて反論のネタがないことに気がつき、黙り込む。
「あー、そんなことはどうでもいい! マリー嬢は、いつ来るんだよ」
俺は恥ずかしさを誤魔化すため、話を本題に戻す。
なんの用事だが知らないが、謁見を申し込まれたら、受けなければならない。
王族としての義務だ。
もちろん誰も彼もというわけではないが。
「今、来てますけど?」
「…………今!?」
「はい。来客の間でお待ちいただいてます」
それ、一番先に言うべきこと!!
「早く言え!」
「そうでしたね。突然いらして、今すぐ会いたいなどとおっしゃるご令嬢でしたので、すっかり、私、失念しておりました」
ああ、なるほど……
ナクサスの言葉を訳すと「王子である俺に会うのに、突然来て会えると思っているのか。この礼儀知らずめ!」ということらしい。
なかなか難解な訳である。
早い話、俺が蔑ろにされているみたいで、気に入らないっ……と。
なんだかんだ、嫌味や文句言いつつも、ナクサスは俺の事を1番に考えてくれているんだよな。うん。
たしかに、ナクサスの言うことも一理ある。
連絡なしで王宮にきて、簡単に会えると思われるのも王族の威厳がなくなるというか……
でも、令嬢を待たせるのはかわいそうだ。
「ナクサス、すぐ準備してくれ。マリー嬢に会う」
俺はベッドから起き上がり、着替えの準備をするよう、メイド達に指示を出す。
室内が急に慌ただしく動き始めた。
「かしこまりました。では、マリー様にそのようにお伝えしてきます」
ナクサスは深々と頭を下げ、部屋を出ていった。




